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「先生、魔法を覚えたいので王都に行ってきます」
「リュカ、唐突なお話しですね!王都は、徒歩で1週間はかかる遠い場所ですよ。魔法を覚えるにはお金がかかるし、一度覚えた魔法は忘れることができないから慎重にならないといけませんよ」
「わかりました。先生、魔法を覚えたいので王都に行ってきます。あと、お金下さい」
「リュカ、レイナ以外の女性にも優しく、丁寧に接しないと立派な大人の男になれないですよ。具体的には私とも少しはコミュニケーションをとって欲しいです!」
「わかりました。先生、時間がもったいないのでそろそろ出発します」
「はあー、リュカもレイナに負けないくらい頑固者ですね・・・王都へ行くことは許可しますが、仕事を一つ引き受けてもらいますよ。手紙を王都の聖女教本部に届けてください。報酬として100ゴールドをお渡しします」
手紙とお金を受け取ったリュカは、早速王都に向けて出発することにした。レイナが村の出口まで見送りに来てくれて、小さなリュックサックを渡してくれた。中には大量の赤と緑のまだら模様の葉っぱが詰まっていた。
「お腹が減ったら食べてね。リュカがいない間、私も1人でトレーニング頑張るよ。孤児院の仕事はツケにしておいてリュカが帰ってから、まとめて仕事ができるように調整済みだから、安心していってらっしゃい」
リュカはリュックサックを背負い出発した。何度も振り返りながら、その度に手を振るレイナが「いってらっしゃーい!」と叫んでくれた。
リュカの旅は節約の旅だ。魔法を覚えるためのお金には手を付けられないから、お腹がすいたら不味い葉っぱを食べて、夜は道端や木陰で野宿をしながら街道を進む。リュカの普段の生活も、お祈りと孤児院の仕事と葉っぱと木の実を買うためのアルバイトに明け暮れ、夜はレイナのトレーニングを見ながら、切り株の上で眠る生活だったので野宿は慣れたものだ。葉っぱは不味かったが、大量に持ってきたので、お腹いっぱいに食べることができた。野宿を繰り返し、薄汚れた姿になったリュカは、どこから見てもストリートチルドレンであり、貧乏そうな身なりもあって、強盗に襲われることもなく旅することができた。
1週間、歩き続けたリュカは、ようやく王都に辿り着いた。王都は城壁に囲まれた大きな都市で、何万人もの人々が住んでいる。王様が暮らすお城があり、聖女教の本部である大聖堂、魔法使いたちの学校である賢者学院など、大きな建物がそろった国の中心だ。リュカは早速、先生から頼まれた手紙を渡すため、聖女教本部の大聖堂に向かった。
「このうす汚いガキめ!ここは貴様のような、汚いガキが来るところでないぞ!帰れ帰れ!」
大聖堂の前の衛兵は、リュカが近づいただけで怒鳴りつけた。確かに大きく煌びやか大聖堂にストリートチルドレンは用事がないだろう。リュカは先生から頼まれた手紙を渡した。
「剣の村のシスターからの手紙だと!大聖堂に入って待っていろ!」
リュカは大聖堂に入った。孤児院の祈りの間の100倍以上の大きさで、巨大な聖女像が置かれた大広間では、たくさんの人々が思い思いに聖女像に祈りを捧げていた。しばらく待つと、10歳くらいの銀髪の少女がリュカの前にあらわれた。
「それにしても汚い生き物ね!神聖な大聖堂に、こんな姿でよく入れますね!謁見の間で聖女様がお待ちです。仕方がないのでご案内致します」
少女は暴言を吐きながらリュカを謁見の間に案内した。謁見の間に入ると、白髪の老婆が椅子に腰かけていた。
「あなたがリュカ君ですね。こんな、おばあちゃんですが、私が今の聖女を任されています。剣の村のシスターからの手紙を届けてくれてありがとう。どうしても、リュカ君を一目見たくて、ここに来て頂きました」
聖女はリュカを穴が開くほど見つめている。
「本当に6系統の魔法の才能がありますね。魔力も魔法を覚えていないにもかかわらず、10歳としては十分に育っていますね。魔力が高ければ魔法の威力が上がり、魔力の回復速度もあがります。初歩魔法を覚えるには十分すぎる魔力ですよ」
体の中、頭の中まで、覗かれている気がしたリュカは寒気がしてきた。
「リュカ君、今日はありがとう。あなたのその力、その才能、大きく育ててくださいね」
聖女との謁見が終わり、帰りも毒舌な銀髪な少女が出口まで案内してくれた。しきりに「汚い!」と暴言を吐いていたが・・・