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破壊神の剣が装備できません  作者: にゃろん
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 孤児院の朝は早いが今日は一段と早い。子供たちは待ちきれずにベッドから抜け出し、いつもより少し早めの朝食の準備を始めた。


「みなさーん、今日は夏祭りですよ。聖女様が世界を救った記念日ですよ。いつもより念入りに朝のお祈りをしますので皆さん、起きてくださいね。朝のお祈りの時間は2時間です」

「2時間なげーよ!でも、お祭りに行きたいからお祈りする!」


 孤児たちは、夏祭りの日だけは仕事から解放される。ほんの少しだが、孤児たちはお小遣いも貰えるので屋台で買い食いもできる。先生も孤児たちもお祭りに浮かれ気味だが、この部屋だけは別だった。


「急な腹痛のため、今日は1日ベッドから出ることができないよ・・・」


「レイナ、何言っているの!今日は夏祭りだよ。僕たちは儀式もあるんだよ」


「急な発熱のため、今日は1日ベッドから出ることができないよ・・・」


「症状が腹痛から発熱に急変している!仕方ないな・・・レイナの代わりにお祈りしてくるから、早く元気になってよ」


 リュカはレイナの分までお祈りした。1人2時間のお祈りなので4時間もの間、朝のお祈りが続いた。朝のお祈りが終わったのは昼近くだったが・・・さすがに昼近くなって、お腹を空かしたレイナはベッドから出てきた。


「おはよう、リュカ。そろそろ、夏祭りに出かけよう!私、やっと気づいたんだ。私が嫌いなのは儀式であって、夏祭りではないって!」


 2人はお小遣いを握りしめ、夏祭りに向かった。小さな村全体が祭り会場になっている。破壊神の剣を中心に屋台がところせましと並んでいる。焼きトウモロコシや串焼き、破壊神の剣饅頭など、たくさんの屋台があるが、2人が向かうのは毎年決まった怪しい屋台だ。トカゲやカエル、動物の体の一部や奇抜な色の草や木の実。得体の知れない臭いが漂っている。店主も薄汚れたフードを目深に被っていて、顔は見えないし男か女か人間かも分からない。怪しさ満点だった。


「おっちゃん!いつもの1年分、おくれ!」


 レイナはポケットから小銭が詰まった大きな袋を取り出し店主に渡した。このお金はリュカが孤児院の仕事の合間に、村で農作業の手伝いや、子供たちに読み書きを教えるなどのアルバイトをしてコツコツ貯めたお金だ。フードの店主は無言で首を左右に振り、2人の握りしめた拳を指さした。拳の中には先生から貰ったお小遣いが入っている。2人は泣く泣く、お小遣いも差し出した。これで屋台の美味しそうな食べ物を買い食いが出来なくなった。

 店主は赤と緑のまだら模様の葉っぱと、黄色と黒のしま模様の木の実をあるだけ袋に詰め込みレイナに渡した。終始無言の店主だが、どうやら売買が成立したらしい。


「おっちゃん、ありがとう。来年もよろしく頼むね!」


 2人はお礼を言って店主と別れた。全財産を失った2人は、お祭り見物をしながら、お腹が減ると買ったばかりの葉っぱと木の実を食べた。今年もやっぱり不味かった・・・

 お金がなくても祭りは楽しかったが、夕方が近づき本格的にお腹も減ってきたので2人は孤児院に帰ることにした。孤児院に戻れば儀式を受ける必要がある。今年、12歳になる子供たちが受ける儀式で、鑑定の儀式と呼ばれている。王様から超高額な鑑定の水晶が配られ、子供一人一人の能力を鑑定する儀式だ。どんな能力でも、あるだけで一生食べていくことに苦労しないと言われている。料理や農業の能力なら、すぐに一流の仕事ができるし、剣術や魔法の才能なら、お城勤めの騎士や魔法使いにスカウトされる場合もある。


「私が赤ちゃんの頃に、鑑定の水晶を使って能力を調べたことがあるんだって。私の家はお金持ちだったのかな?水晶を買えるくらいだから。鑑定の結果の私の能力は、能力なしの無能力だったんだ。無能力な私は赤ちゃんだったのに孤児院に捨てられた。力がないと誰からも必要とされないし、大切にされないの。だから私は破壊神の剣を抜いて力を手に入れたい。力さえあれば、パパもママも私を必要にしてくれる・・・」


「・・・・・・」


 いつも元気なレイナが肩を落とし、ぼそぼそと話す姿を見たリュカには、慰めるべきか、励ますべきか、叱咤すべきか、どんな言葉を掛けるべきか分からなかった。


「今日の儀式で私が無能力って、みんなが知ってしまったら、また居場所がなくなってしまうかも知れないね」


 リュカはレイナの手をギュッと握りしめた。大切な少女を守る心の中で誓いながら。レイナもリュカの手を握り返し、


「ごめんね、リュカ。鑑定の結果を思い出して、弱気になっていたみたい。私は、どんなことをしても力を手に入れる。リュカ、これからも私を助けてね」


 リュカは「うん」と頷いた。


「じゃあ、とりあえずは疲れたから、孤児院までおんぶして!それから、朝と夜のお祈りと孤児院のお仕事は私の分までやってね!」


 リュカはレイナをおんぶしながら孤児院に向かった。リュカはこれからの生活を想像してみた。1人分のお祈りが朝1時間、夜1時間、孤児院のお仕事が8時間。これを2人分だから・・・かなりブラックな環境だった。

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