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夜が始まったばかりの時間だ。村の中心には村人や観光客の姿があった。そして、巨大な剣の束。リュカとレイナの身長より大きな剣の束がある。聖女様の伝説に登場する破壊神が落とし、地面に突き刺さった巨大な剣だ。観光客たちは、陽気に笑いながら巨大な剣の束に手を掛け引き抜こうとするが抜ける気配はない。観光客たちがひとしきり剣に挑み終わると、今度はレイナが巨大な剣の前に進み出た。レイナは束に手を掛ける。剣の束と言っても巨大な剣の束だ。巨木の幹のように太い。レイナは眼を閉じ精神を集中する。
「どりゃー!」
レイナが裂帛の気合いと共に全身に力を込め、剣を引き抜こうとする。
「うりゃー!うりゃ!うりゃ!うりゃ!」
当然のことながら、巨大な剣は12歳の少女に引き抜けるものではなくビクともしなかった。周りでレイナを見ていた村人から、どっと笑い声が起こった。
「あはは!レイナちゃん。何度も言うけど、女の子に抜けるわけないぞ」
「毎日毎日、馬鹿な娘だな」
「イヒヒ・・・もっと、腰を突き出せ腰を!イヒヒ・・・」
村人たちの嘲笑を浴びながら、レイナは剣に挑み続けた。「ゼーゼー」と肩で息をし始めた姿を見たリュカは、レイナの手を引き剣のもとを離れ、森に向かった。
「今日はいける気がしたけどダメだった・・・今日も皆から滅茶苦茶馬鹿にされたし・・・」
レイナは、毎日今日はいけると思って巨剣に挑戦するが毎日挑戦は失敗している。毎日失敗し馬鹿にされ、それでも挑戦するメンタルの強さは凄い。
「僕も今日はいけると思ったよ。集中している姿は天使みたいに奇麗だし・・・特訓すれば、いつか必ず破壊神の剣を引き抜けるよ」
リュカはいつものように慰めた。2人は今年で12歳になる同じ年だ。物心ついた時から、孤児院で一緒に生活している2人は何年も何年も剣に挑み続けている。
「女神みたいに美人なのは当然だけど、私はいつか絶対に剣を抜いてみせるよ。今は剣を抜くための力をつけないとね。これを食べてから、トレーニングを始めるよ」
天使が女神にランクアップしていた。
「女神になるのは5、6年後かな。ゴニョゴニョ」
リュカがゴニョゴニョ呟いている間に、レイナがゴソゴソとポケットから、赤と緑のまだら模様の葉っぱを取り出しリュカに渡した。見た目以上に不味い葉っぱだが、リュカは必死に喉に流し込む。レイナも隣で黄色と黒のしま模様の木の実をかみ砕いている。
「相変わらず、死ぬほど不味いよ。だけど、葉っぱは頭が良くなる効果があって、木の実は力がつく効果があるから我慢して食べよう。ガシガシガシ、不味い・・・」
この葉っぱと木の実は夏祭りの屋台で買った怪しいもので、効果があるか解らないが2人は毎年お小遣いをはたいて買い溜めしている。リュカが頭の良くなる葉っぱを食べる理由は、頭が良くなって巨剣を持ち上げる方法を考えるためのようだ。もちろん、レイナの発案である。
「それじゃあ、今日のトレーニングは丸太を抱かかえたスクワットから始めるよ」
ここは村はずれの森の中に2人で作った秘密のトレーニング場だ。丸太や砂を詰めた袋など、筋力トレーニングに使う手作りの器具が置いてある。レイナは飽きもせず、丸太を持ってスクワット続けていた。このトレーニングは毎朝朝方まで続けられる。リュカは切り株に腰掛け、レイナの姿を眺めながら、うつらうつらし始めた。
「もうすぐ、今年も夏祭りだね。今年は私たちの儀式の年だから、少し不安なんだ。また悪い結果がでたら、へこむかも・・・」
孤児院の孤児たちは、食事やベッドの心配はない代わりに仕事が割り当てられる。掃除、洗濯、食事の準備や小さい子供の世話、敷地内の畑仕事などなど。昼間は、ほとんど居眠りしているレイナの仕事は、リュカが肩代わりしていた。いつまでもレイナの姿を眺めて、話を聞いていたいリュカだったが、睡魔には勝てずに眠りに落ちた。






