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白木蓮

作者:

もう、一年経った。



もう、大丈夫だろう。



寂しくない訳じゃない。



でも、もうしっかり生きてゆける。



―――行って、みようか。



兄との、思い出の場所。









ふわりと、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

私は、隣町の小さな公園まで足を運んでいた。

目の前には、一本の木。

木には、白い花が咲き誇っていた。

辺りには、甘い香りが満ちている。

その香りは、淡い花の色からは想像できないほど濃厚で。

でも、嫌じゃない。

柔らかい、暖かい。そんな匂い。


―――あの頃と、変わらない匂い。


思わず頬が緩み、淡い笑みが浮かぶ。

そして少し驚く。

安心する。


―――もう、泣かないで思い出せるようになった。


―――笑えるようになった。


そっと目を閉じてみる。

瞼の裏に映るのは、遠い思い出。



早くに両親を亡くした私たちは、施設で暮らしていた。

幼かった私は、時折もういない両親を求め、泣いて駄々をこねた。


―――おとうさんがいい・・・!おかあさんがいい・・・!


施設の人たちにも手に負えない程泣きじゃくる私を、お兄ちゃんはよく公園へ連れて行ってくれた。

そして私の頭をよしよしと撫でて、一生懸命説明してくれた。

お父さんとお母さんは、綺麗な所に、神様に呼ばれて逝ってしまったこと。

そこは天国と呼ばれていること。

とっても遠いから、すぐ会うことはできないこと。

本当はお兄ちゃんだって悲しかっただろう。

でも、お兄ちゃんは泣かなかった。

私に心配させないように。

いつでも一番に私のことを心配して、いつでもあやしてくれた。


―――お前がいっぱい幸せに生きていれば、必ず会えるよ。


そう言って笑いかけてくれたお兄ちゃんが、大好きだった。




そして





お兄ちゃんも






去年の夏に










事故で逝ってしまった










「お兄ちゃん・・・」

後を追おうと思った。

一緒に死のうと、そう思った。

沢山泣いた。

でも。


―――いっぱい幸せに生きて―――


お兄ちゃんの思いが、私を生かしてくれた。

「お兄ちゃん・・・」

木の幹を撫でる。


―――この木はね、白木蓮はくもくれんっていうんだよ―――


そう教えてくれたのもお兄ちゃんだったね。

いい匂いだね。

お兄ちゃんとの思い出の匂い。

もうこの匂いで泣くことはないだろう。

「もう大丈夫だよ。私はちゃんと生きてゆける。」





いっぱいいっぱい幸せに生きて。


年を重ねて。


できなかったお兄ちゃんの分まで。


お父さん、お母さんの分まで。


いつかまた、逢える日まで。





目を開けると、辺りが茜色に染まり始めていた。

もう、帰らなきゃ。

もう一度、木蓮の木を見上げてみた。




白い花は、私をあやすお兄ちゃんの笑顔のようだった。


突発的に書きました。

拙いですがすっきりしました。

ご意見などがありましたら、是非教えて下さい。

読んで下さった方、ありがとうございました。

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