表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第十三話「嵐を呼ぶInquiring Mind」

 空が、燃えている。空気が熱を帯び、チリチリと肌を焼いていく。

 そんな荒れ野と化したグラウンドの中、対峙する二人の華憐少女リトルフローラの姿があった。


「はぁ、はぁ……ッ」


 額に大粒の汗を浮かべ、肩で息をするライトブロッサム。

 その正面に立つ、黄金を纏った華憐少女は余裕の笑みを浮かべ、膝を突くブロッサムを見下ろしていた。


「もうお終いですか? とんだ期待外れですわね」

「ま、だだッ……! まだ、負けてない……!」

「桜さん! これ以上は!」


 悲痛な声で茨が制止するが、ブロッサムの瞳には未だ消えない闘志の光が宿っている。

 度重なるダメージにより、既に満身創痍の状態。それでも、ここで諦めてしまうわけにはいかない。

 ブロッサムは最後の力を振り絞り、次の一撃に全てを賭して細剣レイピアを構えた。


「では、そろそろ決着といたしましょうか」

「うああああッ!!」


 対する少女も武器を構え、桃色と金色、二つの光が交差する――



◆◆◆



「今日はこのくらいにしておくですよ」

「だはぁ、疲れた……」


 ブゥンという音と共に周囲の景色が一変し、天象儀プラネタリウムのようなドーム天井の部屋へと戻ってきた。

 その場に五体投地して、全身で疲れを表すジャージ姿の桜に、茨がスポーツドリンクを差し入れる。


「お疲れ様です、桜さん」

「ありがと、茨ちゃん。んくっ、んくっ……ぷはぁ、生き返る~ッ!」

「まぁ、初めてにしては上出来でしたわよ」


 桜達から少し離れた場所でラバテラに汗を拭かれながら、同じくジャージ姿のマリアが感心したように言った。

 そして、天井付近で機材を動かしていたスズカが降りてくる。


「どうでしたか? スズカ謹製、虚構領域ゴシップフィールドシミュレータの使い心地は」

「す、凄かったです。まるで本当に変身してるみたいでした」

「そうでしょうそうでしょう。スズカの科学力は世界イチですよー!」


 ぴょこぴょこと二つ結びを揺らして上機嫌のスズカ。

 この虚構領域シミュレータは彼女が設計したもので、その場所はなんと生徒会室の直上……つまり、あの360度モニターの内部である。

 表向きは放送機材として一室丸ごと改装してあり、その用途としても使用できるが、仮想現実(VR)技術により虚構領域や華憐少女への変身を再現するのが本命の用途である。

 これを使って、生徒会で対処すべき案件が発生していない時は、実戦を想定したトレーニングを行っていた。


「あれからもうすぐ一ヶ月になりますけど、特に何事も無かったですね」

「ええ。元々、虚構領域の発生はそう頻発するものではありません。先月のように立て続けに起こる事の方が珍しいですわ」


 いつ戦う事になっても良いようにと訓練してはいるが、桜の言う通り、実際に出動したケースは一度も無い。

 平和なのは良い事だが、折角の覚悟が肩透かしを食らったようで、若干の物足りなさを桜は感じていた。



 最後にストレッチをしてトレーニングが終了し、各々は帰路に就く。

 桜と茨が中央塔を出た所で、目の前に進み出て来た一人の生徒に呼び止められた。


「ちょいと、そこのお二人さん! 今お時間よろしいッスか?」

「ほぇ?」

「えっと……どちら様でしょうか?」


 現れたのは、上着ブレザーを腰に巻いた短い黒髪の少女。

 どちら様かと茨が問えば、腕章を指で摘まんで主張しながら名乗りを上げる。


「自分、新聞部の双葉ふたば いつきと申しますッス。以後、お見知り置きをッス!」

「新聞部……ああ、あの『ゆりゆり通信』の」

「何それ?」


 心当たりがある様子の茨に、キョトンとした顔で桜が訊ねる。


「一言で言えば、校内新聞ですよ。私も毎号楽しませてもらっています」

「揺神女学院での学校生活や生徒達の声、人気の学食メニューから熱愛報道まで、様々の情報を全校にお届けする広報紙ッス!」


 女子校で熱愛報道……? と内心で首を傾げる桜だったが、そういった物があるのは初耳だった。

 そのネーミングセンスも如何なものかと思いつつ、茨もよく読むらしいので黙っておくことにする。


「本日は、生徒会に異例の指名登用されたお二人に、詳しい話を聞きたく存じますッス」

「話、って言われても……」

「金城会長に伺った方が早いのでは?」

「自分もそう思って、最初は生徒会長に突撃インタビューを試みたッスが……無茶苦茶ガード堅かったッスよ」


 メモ帳を取り出し、胸ポケットからペンを抜いて取材の構えを見せる樹。

 華憐少女とそのアシスタントとしてスカウトした、などと話せるわけもない。マリアのその対応は妥当だ。

 ここは自分達も黙っておくべきだろうと、桜と茨は互いに目配せして頷き合った。


「すみません。私達も実のところ、どうして役員に抜擢されたのかは教えてもらっていないんです」

「茨ちゃんは頭良いからまだ分かるよ。あたしなんて放送で呼び出された時、怒られるかと思ったもん」

「理由も聞かずに役員になったッスか?」

「会長のお人柄は全校集会での演説でよく存じていますし、それだけ名誉な事だと思いましたから」


 実際、茨は彼女から信頼に足る芯の強さを感じていた。

 華憐少女という背景無くして生徒会に入ったかまでは分からないが、協力を要請されれば断るべくもない。

 桜もまた、茨の為という経緯ではあったものの、今ではマリアを頼れる先輩だと思っていた。

 二人の返答を聞いた樹は、顎の下にペンを添えて思案顔をする。


「ふーむ……やはり、何としても生徒会長に取材しなくてはならないッスね」

「ほ、ほどほどにね……?」


 諦めるつもりは無いらしい。一度マリアに相談すべきだろうと二人は結論付けた。


「ご協力ありがとうございましたッス。もし何か分かったら、是非とも自分に教えて欲しいッス!」

「いえ、大してお力になれず……頑張って下さいね」

「またね、樹ちゃん」


 その後いくつか学院生活に関するアンケートを取ると、樹は手を振りながら走り去っていった。

 ひとまず秘密を守り抜いた事に安堵して、桜と茨は再び帰路に就く。


「ふぅん、あの人がねぇ……」


 行き交う生徒達の合間から彼女達を見つめていた、小さな人影には気付かないまま。

 その人物は二人の姿が見えなくなると踵を返し、楽しげに鼻歌を唄いながら人の波に姿を消したのだった――

【キャラクターファイル】

No.10 双葉ふたば いつき


揺神女学院の新聞部に所属する生徒。学年は不明。

「~ッス」という語尾が特徴的で、他の部員に劣らぬ探求心を持って取材に励む。


新聞部では学内誌『ゆりゆり通信』の発行と配布を行っており、一定の購読者がいる。

茨もその一人で、たまに読者コーナーに投稿しているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ