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第十一話「灼熱のGold Mariée」

 茨は驚愕に言葉を失っていた。

 つい先程まで言葉を交わしていたクラスメイトが、今は正体不明の蔦に拘束されている。遠目からだと意識の有無は分からないが、少なくとも安全な状態とは言いがたい。

 助けに行こうにも、彼女の周辺にはウェアウルフがうろついていて、近付くことは困難だろう。

 力の無い茨にはどうしようもない。せめて、自分にも桜のように戦う力があれば……

 何も出来ない悔しさに歯噛みしていたその時、空からこの場に向かって落ちてくる影が見えた。

 二年前の百合ブラックリリィとの出会いを思い出し、茨が顔を上げると――


「ひゃああああああ落ちるぅぅぅぅぅぅっていうか落ちてるぅぅぅうう!!」

「御心配無く。パラシュートを展開します」

「まったく、貴女が急げと言うからこのワタクシが直々に出向くというのに。何が不満ですの?」


 悲鳴を上げながら涙目で両手をバタつかせている桜と、彼女を抱え平然としている赤髪のメイド。

 そして、今まさに開け放たれた生徒会室の窓から飛び降りようとする、マリアの姿があった。


「飛び降りるだなんて思ってなかったんですよぉぉ!!」

「四の五の言わない。慌てると舌を噛みますわよ! ――『開花』(ブルーミング)ッ!」


 窓枠を越え、自由落下しながら首に掛けていたペンダントを取り出して握りしめると、高らかに叫ぶマリア。

 その声と同時にペンダントが眩い光を放つ。そこから光の蔓が伸びて彼女の身体に巻き付き、制服がその姿を変えていく。

 鮮やかな紅黄色のドレススカートを纏い、その上から黄金に輝く西洋風の胸当て、籠手、脚甲が装着され、腰の部分にもスカートの広がりに合わせて装甲が展開。

 髪もブロンドヘアから徐々に赤みを帯びていき、燃えるようなグラデーションが根元だけ束ねられて背中に広がった。

 額に羽根飾りの付いた兜を付け、身の丈程もある両手剣ツヴァイハンダーを担いだ姿は、さながら女騎士の様相を呈している。


「これが会長の……」

華憐少女リトルフローラゴールドマリーでございます」


 メイド服の内側に仕込まれていたパラシュートが開き、落下の勢いが減衰したことで自分達を追い抜いていく華憐少女の姿を、見惚れたようにぼんやりと見送る桜。

 一方、ゴールドマリーは装備重量に任せて速度をぐんぐん上げながら地上に迫る。そこに標的であるウェアウルフの姿を捉えると、両手剣を後ろ手に構え、接地の寸前に大きく振り抜いた。

 重すぎる一撃に、地面ごと抉られたウェアウルフは一瞬で霧散し、その反動を利用して着地時の衝撃を殺し、軽やかに降り立つゴールドマリー。

 ふぅ、と息を吐きながら乱れた髪を直す彼女に、すかさず別のウェアウルフが飛びかかる。


「会長、危ないっ!」

「グルァアッ!」


 見た目通りの重量を誇る両手剣は、そう易々と振り回せる代物ではない。思わず目を瞑りそうになる桜に、傍らのラバテラが一言「御心配には及びません」と言った。


「ふッ――!」


 今まさに乙女の柔肌を食い破らんとする獣の牙を右腕の籠手で受け止め、胸当ての中心に嵌め込まれた紅黄色の宝石が煌めいたかと思うと、籠手から勢い良く炎が噴き上がる。

 ウェアウルフの口腔内が高熱で満たされていき、堪らず悲鳴を上げて口を離した。

 すかさず炎を纏った裏拳が炸裂。よろめいて距離が離れたところで再び両手剣を掴むと、そのまま追撃の斬り上げでもってウェアウルフを両断した。

 残されたウェアウルフ達が一斉に飛び掛かるが、彼女は動じることなく胸の宝石を指でなぞる。

 宝石がより強く輝き、両腕の籠手から紅黄色の炎が吹き上がると、両手剣を覆うように広がった。


「マリエ・ドゥ・フラム! はぁぁぁあッ!」

「グッ、ガ……ギャアアアッ!!」


 炎の大剣を横薙ぎに振るえば、ウェアウルフ達は次々と霧散していく。

 凄まじい熱量は、降下中の桜達や隠れていた茨にも伝わり、後には蔦に囚われた梨沙だけが残った。


「この程度、本気を出すまでもありませんわ」

「す、凄い……そうだ、茨ちゃん……って、あれ何?」


 炎は消え、余裕の表情で髪を掻き上げるゴールドマリー。

 遅れて到着した桜とラバテラが合流し、ようやく桜も梨沙の存在に気付いた。

 そこへ隠れていた茨も姿を現す。


「桃瀬さん!」

「茨ちゃんっ! 良かった、無事だったんだね!」

「はい。ですが、小鳥遊さんが……」

「やっぱ梨沙ちゃんだよね。どうなってるの?」


 幸い――というよりゴールドマリーの制御の賜物だが、梨沙や彼女を覆う蔦には傷一つ無い。

 指でつついたり呼びかけたりしても反応は無く、不思議に思っていると、変身を維持したまま武器だけ手放したゴールドマリーがその正体を明かした。


「それはヤドリギと言って、この領域を作り出した何者かが、迷い込んだ者をゴシップシードの苗床へと変えんとしたものですわ」

「なえっ……!?」

「ほぇ? ナエドコって何?」


 苗床と聞いて何故か顔を真っ赤にする茨と、よく分からずキョトンとする桜。

 ゴールドマリーはやや呆れながらも、険しい顔で疑問に答える。


「何を想像したか知りませんが、今の彼女は危険な状態ですわ。放っておけばヤドリギに生命力を吸い上げられ、枯れ果ててしまうでしょう」

「そんな……! 何とかできないんですか!?」

「勿論。その為に華憐少女リトルフローラがいるんですもの」


 そう言うと、蔦を掻き分けて何かを探し始めた。

 二人が見守る中、梨沙の胸元に目的の物を発見し手に取る。それは表面がぱっくり割れて中から蔦の飛び出したゴシップシードで、それこそがヤドリギを形成するもの。生命を喰らう悪魔の苗木である。

 苗木を掴んだゴールドマリーの全身が、宝石から溢れる光に包まれていく。


「――マリエ・ラ・ピュセル」


 先程とは異なる技の名前を口にすると同時、光が触れた箇所から蔦が焼き払われ、霧散していった。

 光が消えると、そこには無傷の梨沙だけが残り、ゴールドマリーは彼女を抱き抱えて変身を解いた。


「ほら、これでもう大丈夫ですわ」

「梨沙ちゃん!」

「小鳥遊さん……良かった」


 マリアの腕の中で穏やかに寝息を立てる梨沙を見て、ほっと安堵する二人。

 虚構領域ゴシップフィールドの中心となっていたヤドリギが消滅したことで、周囲の空間も元に戻ったようだ。

 だが、マリアの仕事はこれで終わりではない。


「さて……後は、彼女や貴女に記憶処理を施すだけですわね」

「えっ?」


 その視線は茨に向いていた。

 記憶処理という不穏な単語を聞いて、思わず桜が食ってかかる。


「それ、どういう意味ですかっ!?」

「どうもこうも、言葉通りですわ。華憐少女でない一般生徒に我々の活動を目撃された場合、速やかに記憶処理を施して領域内での体験を忘れていただきますの」

「御安心下さい。処理は専門家の指揮の下で安全に行われます」

「安全とかそういう問題じゃ……!」


 それでは納得できない、という様子の桜に困った顔をしつつ、マリアは記憶処理が必要な理由を話す。


「全校集会の準備等で手が回せませんでしたが、本来であれば昨日の時点で行うべき事だったのです。華憐少女の存在が明るみに出れば、ゴシップシード同様に人々の噂を糧とするブルームスフィアの力も弱まってしまいますわ」


 ブルームスフィアとは、華憐少女リトルフローラが変身に用いる結晶やゴシップシードを『開花』(ブルーミング)することによって生まれる宝石の名である。華憐少女の武器や防具に填め込まれ、彼女達の性質に応じた力を発揮する。

 もしも噂が噂でなくなればその力は減衰し、正体がばれてしまうと変身不可に陥ってしまう。これは二年前に百合も言っていたことだ。


「その対策として我々が考案したのが、虚構領域で救助した一般人が真実を広めてしまわないよう処理を施し、記憶を曖昧な状態にすることで、噂程度に留めるという方法です」


 資金力のあるマリアだからこそ実現できた強引な手段だが、その甲斐あって今まで華憐少女の存在は隠蔽されてきたのだった。


「茨ちゃんはそんな事しません!」

「どうしてそう言い切れると?」

「それは……っ」


 理解者の茨に手を出させたくない一心で反論する桜だったが、感情論ではマリアを説得できず言葉に詰まる。

 そこへ今まで聞きに徹していた茨が口を開いた。


「私は貴女の言う華憐少女を……ブラックリリィという方を知っています。そして二年間、誰にも話すことなく過ごしてきました」

「なんですって?」


 茨は二年前の体験を語る。それは桜が生徒会室で茨の名を伏せて話した内容だが、リアリティは断然こちらの方が高い。

 マリアもその話が真に彼女の体験談であることを確信したらしく、顎に手を当てて少し考え……


「分かりました。では、こうしましょう」


 二人に、一つの提案をしたのだった。

【キャラクターファイル】

No.9 ゴールドマリー


金城きんじょうマリアが変身する華憐少女リトルフローラ

紅黄色のドレススカートと、燃えるような赤混じりのブロンドヘアが特徴。

ゴールドスフィアと呼ばれる宝石の填められた鎧を身に纏い、そこから炎を噴射する。

必殺技は両手剣ツヴァイハンダーに炎を纏わせ、敵一帯を薙ぎ払う『マリエ・ドゥ・フラム』。

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