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第六魂魄のノゾミス  作者: てひげひろゆき
初陣―山脈を撃ち落とした日―
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第29話 大事な話はまんぷくのあとに

GWは一瞬で過ぎ去った上に特に執筆ペースは上がらなかった件←

 あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

 食料を狩ってくると出て行ったヴァッティさんが女の子を連れて帰ってきた!

 な、なにを言ってるのかわからねーとry


 話を聞くと、どうやらお腹が空いて動けなくなったらしい。

 オックスボアを仕留めてきたので、なにか食べさせてやってくれまいかとのリクエストである。

 食料、調味料共にそこそこの量を空間魔法に備蓄してあるのでそこは問題ない。が、なぜかやたら申し訳なさそうなシルヴァとめっちゃ堂々とご飯をたかる女の子の姿が対照的だ。


「あなたが食事を作るのですね! よろしい、ではわたしに(せん)を供する栄誉を与えましょう。ちなみにわたしはとてもお腹が空いています。疾く疾く用意するのです。良いですね!」

「……すまない、ノゾミ。なんと説明すればいいのかわからないが、すまない」

「あ、うん。そんな手間かからないし、大丈夫大丈夫」


 少し早いが、野営に適した広さの場所が見つかったので今日はここで野営することになっている。焚火の後なんかもあるので、きっと頻繁に使われている場所なのだろう。

 材料は空間魔法内にもそこそこな量が備蓄されているのだが、ここは仕留めたての肉を使っていいだろう。

 肉はしばらく熟成させた方がおいしいとか聞いた覚えもあるが、希望はプロのコックではないので気にしない。


「いでよシステムキッチンの魔法!」


 説明しよう! システムキッチンの魔法とは、王都への移動中に料理をするにあたり、作業台とか特になくてめちゃくちゃやりにくかった希望がえいってやって完成させた、(たぶん)土魔法である!

 一瞬で土を隆起させ、表面を高熱で焼いて陶器のようにしてしまうことによって完成する、ご都合主義満載の調理台だ。随時水魔法が発動することで作動する水道、包丁代わりの風魔法、火魔法による再現コンロを完備! 希望の記憶にある大体の料理を再現できるスグレモノである!

 これだけいろいろ複合した魔法ができるのに、一切攻撃ができないのが理解できないのだが。

 いやいや、わたしには魔法攻撃あるもん。魔法で物理攻撃してるんだから立派な攻撃魔法だもん。


「おおお! なんですかこれは!? なんですかこれは!」


 テンション爆上がりの声を上げる金髪少女。この子実はかなり無邪気な子なのでは?


「なんというか、もの凄く無駄に高レベルな魔法ですねこれ」

「はいそこ無駄って言うな」


 呆れたように言うルナに物申す。ええい褒めろ。素直にわたしを褒めろ。

 魔法側が空気読んでるから希望が調整している部分は特にないというのは内緒である。

 ともかく、まずは血抜きと解体だ。ざっくりとした血抜きはシルヴァがやってくれてるようだが、さすがに料理をするには不足していると思う。こちらの世界ではこのざっくりレベルでも食肉として使用することも多いようだが、飽食の国出身者としてはきっちり食肉加工していきたい。

 そっちのほうがおいしいしね。


 というわけでシルヴァが開けたであろう喉元の穴から風魔法で残った血を吸引できるだけ吸引する。吸引先は空間魔法の余剰空間である。使い道はあんまりなさそうだが、そこらに捨てても気分は良くないし他の獣を呼び寄せるかもしれない。捨てるときはどこか捨てられそうなところで廃棄だ。

 血を吸いだしたら今度は解体である。ここでも謎原理の風魔法が毛皮を綺麗に剥いでしまう。注いでお腹を開いて内臓だ。なかなかにグロテスクな光景ではあるが、初めて解体した時も思ったより平気だった。ホルモンとか嫌いじゃなかったし、たぶんそのせい。

 とはいえさすがにお腹を開くと臭いがむっときて、思わず鼻を摘まんだ。ルナはちょっと顔を背けている。シルヴァと金髪の少女は平気そうである。ゼクスはまた馬車の上に行ってしまって、まだ下りてこない。

 今すぐ使うことはないとはいえ、糞が詰まった腸や尿が入った膀胱なんかは今のうちに処理しておくのが無難だ。もちろんそこら辺の処理も全部魔法に丸投げである。

 いやほんと、こと「日本にいた頃の生活水準」を維持して生活する点においては、この生活魔法はチートこの上ない。

 

 今回シルヴァがトンカツをリクエストしてくれたので、作る料理はトンカツだ。肉は魔物由来だけど。

 小麦粉、卵、水分を飛ばした白パンを準備。植物油は手に入れるのが少々面倒だったので、ここはオックスボアのラードを使う。沸騰した水に脂身をぶち込めば、脂が徐々に溶けだしていくって寸法だ。

 空間魔法から取り出した鍋に、少量の水を入れて火にかける。沸騰と同時に脂身を少しずつ投下。切り分けた肉に小麦粉をまぶしつつ溶き卵を作り、白パンを削ってパン粉を作成。

 なにが凄いってこれを全て希望自身の手を動かすことなく平行できる点である。生活魔法万歳。


「ええ……なんですかこの、えぇ……」


 困惑を隠すことなく、ルナが眉根を寄せた。

 気持ちはわかる。「生活魔法」とかいう意味不明なカテゴリだが、やってることは昔のアニメじみた「魔法」である。理屈もへったくれもない。めちゃくちゃ平和的な魔法の使い方だとは思うが、ガチガチの理論派であろうルナには理不尽な光景にも見えるだろう。

 希望自身、割と理不尽だと思うし。主にこれを攻撃に転用できない部分で。


「おお! なんと! もしやあなたは魔法の達人なのですか!?」

「ああ。彼女の魔法は本当に凄いものだ。そして料理も美味い。必ず君が満足するものが出てくるだろう」


 まほうのたつじん。そんな評価にまあね! とドヤ顔しかけたが、シルヴァの評価に息詰まる。

 希望が魔法におんぶにだっこされている状態なので、生活魔法=希望の実力ドヤァ……は正直やりにくい。自らネタにしてルナやゼクスがツッコんでくれるのであればいいのだが、こう、ヴァッティさんは正面から褒めてくれるので恥ずかしさが先立つのである。

 褒め殺しは勘弁してください。マジで。これわたしの実力じゃないんです。

 とか言うと、たぶん彼は「魔法自体が凄いのは分かったが、ノゾミはそれを使いこなしているだろう?」とかさらなる褒め殺し攻撃を仕掛けてくるに違いない。

 というわけで、あえてなんのリアクションもせずに調理続行。

 脂はいい具合に液状化して、充分揚げ油として使用できそうだ。というわけで、肉を溶き卵にくぐらせ、パン粉をつける。


 ジャッ


 小気味いい音と共に、オックスボアの肉が油の中にダイブした。

 香ばしい匂いが周囲に立ち込める。

 シルヴァはそれに鼻をひくつかせ、金髪の少女はキラッキラした目で見つめていた。


  *


 ザクッ


 いい音を立てて、トンカツが齧られる。

 もぎゅもぎゅとよく噛み、ごくりと飲みこむ。

 大きく息を吐いて、くわっと目を見開き、金髪の少女は感極まったと言わんばかりに声を上げた。


「なんですかこれは! 美味です! とても美味です!」

「お、おおぅ。それは良かった」


 お気に召したようで、にっこにこである。かわいい。

 ソースは市販されているわけもなく、かといって具体的な作り方などわからないのでどうのつるぎさんにそれっぽい材料を検索してもらって購入。作り置きである。

 植生が似ているのか、地球とほぼ同じ作物が揃っているのは非常に助かる話であった。

 

「ああ、美味い。作ってくれてありがとう、ノゾミ」

「多量の油で肉を揚げる、ですか。確かにおいしいですが、簡単に作れそうにはありませんね」

「希望。ごはん」


 ゼっちゃんはご飯を所望されておる。

 おかあさんかわたしは。

 そもそもお米はあるのか? と探してみたら以外にもあったので、これもありがたく確保している。わたし、お米の国のヒト。

 どうやら南の方に適した土地があるとかで、トーマ王が随分力を入れて栽培を推奨したらしい。


「わたしもいただいて良いですか!」


 空間魔法から取り出したごはんを皿に盛ってゼクスに渡していると、それを見た金髪の少女がビシッと手を上げる。

 特に断る理由はないので、ごはんをよそって渡してあげた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます! はむっ」


 受け取るや否や、ぱくりと一口。追いかけるようにトンカツを頬張り、


「!!!」


 めっちゃわかりやすい表情の変化だった。


「この肉は、この穀物と出会うために生まれてきたのですね……!」

「いやそんな大げさな」


 あとその肉わりとついさっきまで生きてたやつ。たぶん米との出会いは考えてなかったんじゃないかな。


「俺はこのまま食べる方が好みだが、ライスではなく白パンとも相性がいいようだ」


 そう言いつつ、シルヴァが白パンを金髪の少女に手渡す。どうやったのか、器用に上下に分割すよう切り分けられており、トンカツを挟めるようになっている。要はなんちゃってカツサンドだ。

 残念ながらキャベツ、もしくはその代用品となるものはまだ見つけられていないし、マヨネーズやカラシなんかもないのだが、ソースのかかったトンカツを挟んだ白パンは充分に食べごたえがあるだろう。


「なんと、気が利きくのですねあなたは。ではこちらも……あむ」


 手づかみで豪快に一口。


「!!!」


 どうやらこちらもお気に召したようである。


「この、この肉は……いえ、この料理は! 魔法の料理なのですか!?」


 確かに魔法で作ってはいるけども。

 ここまで素直に喜んでくれると作ったかいもあるというものだ。

 なにしろほら、ゼっちゃんとルナちゃんは黙々と食べてるし。

 ともあれ、お腹が空いていたというだけあって、金髪の少女はもりもり食べる。見ていて気持ちよくなる食べっぷりだ。


「おかわりをください!」

「あ、うん」


 もりもり食べる。

 どうにも足りないみたいなので、追加でトンカツを揚げる。


「おかわりをください!」

「ほいほい」


 もりもり食べる。

 ごはんは炊いてある分が切れたので、パンで我慢してもらうしかあるまい。


「おかわりをください!」

「ちょっとまってね、今パンの残りを」


 いやいやいやいや。

 空間魔法を漁って気が付いたが、今回詰め込んでいた食料は移動中の分と予備を含めて丸四日分あったはずである。

 それがパンの「残り」ってなんだ。どういうことなんだぜ?


「希望」

「あ、ゼっちゃん」

「シルヴァが仕留めたオックスボア、ご覧なさいな」

「お?」


 ゼクスの示す先。

 解体したオックスボアの肉がてんこ盛りになっていたはずの場所には、骨と毛皮だけが残っていた。

 臓物は別途処理するから先に空間魔法に片付けているのでいいとして、それ以外の大量の肉は何処へ?


「オックスボア一頭分、丸ごと平らげてますねあの子」

「マジか」


 補足するルナの一言が、非常に簡素でこの上なく明瞭な状況説明となった。


「……ごくん。ふぅ――っ」


 と、とても満足げなため息と共に、金髪の少女はフォークを置いた。

 あれほど大量に揚げたトンカツが綺麗さっぱりなくなっている。


「ごちそうさまでした! とてもとても美味でした!」


 輝かんばかりの笑顔である。

 なんというか、これだけで「良かったね!」と清々しく見送ってしまいそうな笑顔だ。


「そう。それは良かったわね」


 ここで見送ることを許さずに声をかけるのがゼっちゃんである。

 食料をもりもり食い尽くされたとはいえ、それくらいのことで動じる彼女ではあるまいが、同時に食べ物の恨みは恐ろしいものでもある。

 お金とかも持ってる様子はなさそうだし、希望としては極力穏便に済ませていきたいところだ。


「満腹になったところで悪いのだけど、あなた、どうしてお腹を空かせてこんなところにいたの?」


 もっともな話だった。

 お腹を空かせているのはまあ、生理現象だから仕方ないとして、どうしてこんなところに女の子一人でいるのかは謎だ。

 親とはぐれた――というにはちょっと大きい子な気がする。いや、おっぱいの話じゃなくてね?

 ふと自分のを見下ろしてみる。

 …………まあ、うん。大丈夫大丈夫、見込みはある。はず。たぶん。

 それはともかく、一人で森にいたわりには格好なんかも小奇麗すぎる気がするし、森の中にいるのに違和感しかないのだが、同時にごく自然に森に溶け込んでいる気もする。


「ぐむ。べ、別によいではないですか、わたしの事情など」

「ええ、確かにあなたの事情はわたしたちに関係ないのかもしれないけれど、これだけわたしたちの食料を食べたのだもの。少しくらい話に付き合ってくれてもいいんじゃない?」

「む、ぐ、いえしかし、この食事はわたしへの貢物であったはずです」

「あら。貢物なんてわたしたちの誰かが言ったかしら」

「あ、あれ? 確かにわたしは聞いて……聞いて……いません、ね?」


 なぜこっちを見るのか。


「あー、うん。特に貢物とは言ってないけど」

「というわけで、あなたに食べさせてあげた食事はわたしたちの純然たる厚意なのよ」

「う、ううう――! だ、騙しましたね!?」


 キッ、とばかりにシルヴァを睨むが、きっとヴァッティさんも騙してない。


「いや、その、君が腹を空かせているというから、食べるだろうと思って連れてきたんだが――迷惑だっただろうか?」


 ヴァッティさんはこういうところ時々卑怯だと思う。


「迷惑などではありません! とっても美味でした! ありがとうございました!」


 半ばやけくそ気味に、金髪の少女は叫んだ。

 ともあれ、別に言いたくないのであれば無理に事情を聴き出そうとも思わないのだが、どうやらゼクスとルナの意見は違ったらしい。


「あなたにも事情はあると思いますが、困っているのなら話してみてください。話してくれれば、なにか力になれることもあるかと」

「むぅ……」


 金髪の少女は困ったような表情を浮かべ、大きく息を吐くと、


「じ、実はですね……」


 あるのかよ困ってる事情。

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