(仮)
行き交う人々はみな傘を差している
空を見上げる者はいなくて
誰も彼女のことを見ない
僕だけが空を見上げた
彼女は優しくすべてのモノに訪れる
彼女を拒む行き交う人々にも律儀に傘をノックする
彼女を見つめる僕にも
彼女が触れるとぱらぱらと雫が溢れた
彼女は優しくて
僕が悲しいことにすぐに気がついた
僕はひたすら空を見上げ続けた
ぬっと僕の上に影が落ちた
誰かが僕に傘を差し出している
その人の肩に彼女が宛ら蝶のようにとまった
彼は僕を受け入れられなかった
そして僕の代わりに彼女を受け入れた
僕は彼女を拒んだけれど
優しい彼女は朗らかに笑った
彼は彼女を連れて去っていった
僕は空を見上げた
赤い傘
もう彼女はいない
彼は僕を拒みきれなかった
傘は彼女を拒むけれど
僕を唯一
いつまでも受け入れるのだと知った
猫と彼と雨の日