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ななわ

「ちょっと待ちな坊ちゃん、話がある」


 俺は溜息を吐きながら思った、テンプレか、と。


「僕の事言ってます?」


 わざとらしく周りのをきょろきょろ確認した後に尋ねてみた。

 どう考えても面倒ごとだ。

 やっとギルドでの用事も終わったと思ったのに…

 これからシロとの時間にしようと思ってたのに!


 出口をふさいだ三人がニヤニヤと嫌らしい笑顔をしている。


「へへへ、お前しかいないだろ?」


「何ですか?話をしたこともないと思いますが、なんの用ですか?」


「いやちょっとな。お前が買い取りカウンターで取引をしてたのを少しばかしみたんでな」


「それで?あなたには関係ないと思いますが?」


「いやいや、これが関係あるんだなぁ。お前が狩ったとか言ってる魔物なんだけど、俺達も同じ魔物を狩ったんだよ。俺たちが魔物と戦ってた時にその素材が盗まれた。横取りされたってことだ。でだ、素材を奪ったってことは買い取りしてもらうためにここにくるだろ?俺たちは取り返すためにここで見張ってたってことなんだなぁ」


 三人の中でリーダーなのだろう、ギルドの全員に聞こえるようにわざと大きな声で言ってくる。

 俺がこいつ等から盗んだものを売りに来たと主張したいのだろう。


「そんな中でお前が売りに来た。どうせ自分じゃ狩ることができないから人の獲物を横取りしたんだろ?それはしょうがないかもな、なんてったってお前は子供だからな。でもなー、犯罪は犯罪なんだよ。まぁ、俺たちは優しいからな、素直に素材を売った金を渡すなら許してあげようじゃないか」


 そう言って、手を出して金を出せと要求してくる。


 周りでは、なんだなんだと注目している。

 エミリアさんなんて心配顔でおろおろしている。


 こいつ等の雰囲気からして詐欺を働いているのは誰にでも分かる。

 たぶん周りも分かっていることだろう。

 分かるが、こいつが嘘を言っている証拠もないので誰も口を出さない。

 俺には魔法で嘘だって言うのが分かっているけど。

 ギルドは元々不干渉だから口を出さないのだろう。


 めんどくさいが、ここで俺がそれを認めて金を渡すと後々もっとめんどくさいことになりそうなのでとりあえず無実なのを主張していくことにした。


「あー、ちょっと確認させてもらってもいい?」


「なんだよ、さっさとしろよ」


「俺が持ち込んだ素材の魔物ってなんだか分かってるの?」


 若干イライラしていたので、俺の口調が変わっている。


「んなもん分かるに決まってるだろうが、俺たちが狩った魔物だからな。魔物はグレートウルフだよ!」


 この時点でもうこいつの言っていることが嘘だってのがバレバレである。

 エミリアさんも鑑定するまで気づかなかったほどだ。

 遠目で見ただけじゃウルフ系の何かしかわからなかったのだろう。


「じゃあ、素材は何で何個あったんだ?」


「あ?4個だよ魔石に毛皮に爪だ。そんなん確認してどうすんだよ、さっさとよこしやがれ!」


 しびれを切らしてきたのか、少し声が大きくなっている。

 ここでも違うことが分かる。

 ウルフ系で牙を落とすのはサーベルウルフのみだ。

 遠くからでは少し大きい爪にしか見えなかったこと。

 また、牙はレアドロップで非常に珍しいことにより、目にしたことのない人がほとんどだ。

 なので、牙の事を爪だと勘違いをしていた。


「それじゃ渡せないな。お前らが本当に横取りされたとしても、俺が持ちこんだ物はお前等が言っている物と違っている。だから、少なくとも俺はお前たちから横取りはしていないとゆうことだ。まあ、元々横取りなんてつまらない事してないけどな」


「何言ってんだよ。何が違うって?」


「お前らが狩ったのはグレートウルフなんだろ?俺が狩ったのはサーベルウルフだ。それに素材は牙、魔石、毛皮、爪の4個だ。この時点でお前らと俺の関わりはないってことになるだろ?」


 俺の言葉にギルド全員が驚きを示す。


「ふ、ふざけんな。お前みたいな今日登録したばっかのクソガキがサーベルウルフなんて狩れる訳ないだろうが!」


「ほんとだぞ?信じられないならギルド職員に聞いてみると良い」


 そう言って俺がエミリアさんを見ると、全員がエミリアさんをみる。

 エミリアさんは一度に視線を向けられたことに動揺したが、はっきりと答える。


「私が買い取りを担当しましたが、確かに取引されたのはサーベルウルフの素材で、牙、魔石、毛皮、爪の4個でした!」


 また全員が驚いた。

 本当に取引がされたのがサーベルウルフと言うことは俺が言っていることが正しいことだ。

 そうすると俺がサーベルウルフを狩ったと言う言葉も真実味を持ったということになる。


「ほら、本当の事だったろ?てことわ、お前等が主張していることは真実じゃない。俺には関係ないことだったということ。もういっていいだろ?」


 そう言って、こいつ等の横を通り抜けようとするが、まだ邪魔をしてくる。

 めんどくさいな。


「ま、待て。お前みたいなクソガキがサーベルウルフなんて狩れるはずないだろうが!」


「仮に俺が狩れなかったとして、お前等には関係ないだろ?」


「う、うるさい!その素材はどうせどこかで横取りしたか盗んだものだろうが!それを売った金だ。俺たちが元の持ち主に返しといてやるからさっさとよこしやがれ!」


 もう言ってることがめちゃくちゃである。

 論破され、自分たちの立場が悪くなり焦ったのか、怒鳴り散らしてくる。


 その怒鳴り声にびっくりしたのだろう、シロが少しぐずりだしてしまった。


「おー、よしよし。怖くないからなー。ほらもう怖いおじさんはいなくなったぞー?」


 そう言って三人組から背を向けて、シロに見えないように俺の身体で隠す。

 シロが泣き出してしまわないように頑張ってあやし始めた俺。


 それを見た三人組が怒りをあらわにする。


「ふ、ふざけやがって!もういい!おいクソガキ!さっさとよこさねーとそのガキごとぶっ殺すぞ!」


「う、うううう、ヒック、びぇーん、びぇーん」


 その怒鳴り声にとうとうシロが泣き出してしまった。


 その瞬間時が止まった。

 実際には止まっていないが、止まったかのようにその場にいる全員が錯覚する。

 誰も動くこともしゃべることもできない、呼吸すらできなかった。

 一瞬が永遠にも感じられる。


 ドゴッ!っと音がしてようやく呼吸ができるようになった。


 全員が音のした方を見る。

 そこには、誰かが壁に埋まっていた。

 よく見ると三人組のリーダーで、文句を言っていた男だと分かる。


「シロを泣かしてんじゃねーよ…殺すぞ?」


 そう静かにつぶやかれていた。

 しかし、その場にいた全員がその言葉を聞き、大量の冷や汗をかいている。

 この事態を引き起こし、その言葉をつぶやいたであろう少年に全員が恐怖を抱く。


 静寂が広がっている中で唯一シロと呼ばれている赤子だけの泣き声が響く。


「シロー、ほら、怖くないぞー!怖いのはやっつけたからなー!おーよしよし、泣かないでくれー。べろべろばー!」


 怒りを霧散させた少年は赤子を高く掲げたりしてあやし始めていた。

 そのことでようやく全員が動くことができるようになっていた。


「ほらほら、泣きやんでくれよー。よしよし、今からご飯食べに行こうなー」


 そう言って、赤子をあやしながらギルドから出て行ってしまった。

 今の現状など一切気にすることなく。


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