01
我輩はにゃんこである。
名前はまだな…とかふざけている場合ではない。いや、にゃんこなのは本当なんだけど。元々は人間だったことをつい先程思い出したのだ。とは言っても物心ついたのもさっきだし、ついでに言えば目がはっきり見えるようになったのも割りとさっきだ。
というか、順番的にはあれ、私人間だったよね?と怒濤のような記憶の波に飲まれて自我を取り戻し、そこから更にさっきまでの自分を思い返したらそういえば思いきりにゃんこな兄弟に囲まれてたな…。あれ、私死んでにゃんこに生まれ変わってる!?と気付いたのだ。
だけど、そんなことは実に些細なことである。
人間だったとか死んだとかにゃんこだとかそんなものは今はいい。プレイバックプレイバック。思考を戻そう。
先程まで兄弟に囲まれて寝ていた私は一人先に起きて遊んでいた。まだよく見えなかった視界で、なんとも不可思議なものをくるくる追い掛け━━今思えばあれは多分私の尻尾だ。だって凄く目が回ったから━━ふうと一息ついたところで今度はひらひら飛ぶもの━━多分、あの動きは蝶々だろう━━を追いかけて皆から離れた途端に理解出来ないほどの痛みが体を襲った。
その強烈な痛みに体を揺さぶられたついでにどうもこんがらがった脳みそが前世なんぞを思い出したんだと思う。ただでさえ体の痛みは強烈だったというのに脳みそまでぐちゃりと掻き混ぜられたような感覚に耐えられるわけもなく痛みに任せて散々暴れた結果。
今。
私は空から落ちていた。
正直記憶の整理はついていないが脳みそシェイクは一段落したらしい。なので少しは冷静に周りを見ることが出来るというものだ。そんなわけで改めて現状を説明するとどうやら私は鷹か鷲か知らないけどとりあえず大きな鳥にまんまと捕まって巣に持ち帰られようとしていたところだったっぽい。その途中で記憶が戻り、暴れ、落とされた。と。
はは、笑えねぇ。
「に"ゃあああああああああああああああ!(死ぬぅううううううう!)」
あ、喋れないじゃーん。
とか、呑気に考えている場合ではない!
小さな体をなんとかばたつかせてみるが当然どうにかなるものではない。バランスだって取れはしない。だって猫だもの。猫は空を飛べないもの。
飛べない猫はただの猫だ。知ってた。
言うてる場合じゃない!風の抵抗がものごっつ痛いよ!
「に"ゃっにゃああああああ!(じゃあ、どうすんだっ!)」
いや、待て。猫は飛べないけど着地!着地は…………ううん。ちょっと高過ぎるかなぁ。
最初の位置は分からないけど、こんだけ頭回転してる時間があるのだから大分高い所から落ちていることは確かだ。どんだけ高い場所を飛んでたんだあの鳥。
………ん、鳥?
嫌な予感に、そろぉ…っと辺りを見回した。するとまさに出番を伺っていたかのように鋭い鳥の鳴き声がどこからか聞こえてくるではないか。
「にゃあん…(うそぉん…)」
捕まってもアウト。落ちてもアウトだ。
デッド オア デッド。何故今こんなにも意識がはっきりしているのか………絶望した。前世とか思い出さなければこんな恐怖感じなかったのに。
今更そんなこと言ってもどうしようもないことは分かっている。だけど思わずにはいられなかった。あああ、と意味のない悲鳴をあげようと思ったけれど、口から溢れるのはにゃああああと気の抜ける鳴き声だけ。ああ、もう!
「にゃにゃっにゃあああ!(かかってこいやあああ!)」
ちなみにバランスを取れていないのだから体は空中でぐるんぐるん回っている。あ、無理。吐く。