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7. 勝負

 気を取り直して祭りを見て回ろうと決めたものの、エリィ達は中々思うようには見て回れていなかった。エリィは苛立ったように3度目の休憩を取ることにした。少し歩いただけで疲れて、だんだんと体が重くなってしまうのだ。

 学園に毎日通ってるんだから、ちょっとぐらい歩き回っても大丈夫だと思っていた。だが、よくよく考えてみたらエリィは学園に居る間はほぼ座っている。移動は昼食の時のみ。体技の授業はもちろん受けれない上に、長時間外で立つのも難しいため、教室で自習。それを考えると、祭りを歩いて(・・・)見て回るという行為自体が、エリィにとっては重労働に値することに気が付いた。


「まだ全然見て回れてないのに。悔しい……」


 口を尖らせて不平をこぼしていると、ヨシュアが屋台で購入してきた皿をエリィの前に置いた。小ぶりなお皿の上には小さく丸い揚げ物がいくつもあった。その丸い揚げ物には砂糖がまぶしてあり、1つ1つパステルカラーなチョコレートがコーティングしてある。所謂ドーナツだ。


「僕もエリィがここまで体力無いのは想定外だったよ。取りあえず、甘い物でも食べて?」


 ヨシュアがそうエリィに勧めると、シャロムが絹に包まれた小さなデザート用フォークを取り出す。それを受け取り、エリィはドーナツと小さく切って口に運んだ。チョコレートの甘さがやんわりと口の中で溶けると同時に、エリィの頬が小さく緩む。甘い物を食べると疲れが少し和らいだ気がして、少しだけ気分が上向いた。それを見てホッとしながら、ヨシュアは近くを通る給仕に香茶を3つ注文した。


「……なんかヨシュア手慣れてない?」

「これぐらい当たり前だろ?」

「当たり前じゃない人がそこに座ってるけど?」


 エリィとヨシュアが視線を向けると、ヴィスタがキョトンとした顔で首をかしげる。何の話をしているのかさっぱりわからないらしい。


「僕はウチの夜会担当だしね。これぐらい出来ないと逆にまずいだろ」

「でもそれを言ったら外交担当の王家が気遣いとかできないのって不味くないの?」

「そのういうのもひっくるめての婚約者(エリィ)だろ」


 そうヨシュアに言われてエリィは嫌なことを思い出して渋面になる。基本ヴィスタは成績は良い物の、面倒なことは一切やらないという怠け者だ。だから生徒会の仕事も放棄したし、外国語の習得も放棄した。「めったに使うこともないのに覚える必要が無いだろう。覚える気もないからな」とかアホ宣言をしたのだ。そのしわ寄せは、もちろんエリィに来た。将来、諸外国の王家の接待をする時に、王も王妃も言葉がわからないと言うのは大変な失礼にあたる。逆に、どちらかが出来ていればもう一人は適当に頷いていればいいだけなのだ。

 つまり、ヴィスタが拒否したお蔭で、エリィは多数の外国語を、それに伴い諸外国の歴史など話題に上がりそうな物全ての暗記を余儀なくされたのだ。

 ヴィスタからすればたかが12歳の時の些細なわがままと言う認識だったが、エリィからすればそのお蔭でやりたくもない勉強を余分させられる羽目になったのだ。前世では英語すらままならなかったエリィが母国語以外の言語を多数習得するというのは、ほぼ無茶に近かった。暗記物だって苦手だ。それを外面上必死こいて覚えなくてはいけなかった。


――あの時の恨みは忘れない。


 香茶のカップを口に運びながら、エリィはヴィスタを睨む。もちろん、元々単純な日常会話ぐらいはできないといけなかったのだが、浅く狭くで良かったはずの知識が、ヴィスタのわがままのせいで深く広くを義務付けられた。何度外国語の教本を眉間に角が当たる様にヴィスタに向かって投げてやろうかと思った事か。何度『諸外国の歴史』とか言う無駄に分厚い本を、気取って歩いているヴィスタの後ろから投げて強制膝カックンしてやろうと思った事か。それに、だ。エリィにはどうしても許せないことがある。


 フィリオ―ルの手助けもあってやっとそれらを覚えきったエリィが、「あなたのせいで酷く大変でした。っていうか、王族なのに外国語喋れないなんて恥ずかしいですね」って文句を言った事がある。その時ヴィスタは「は?外国語ぐらいすぐ覚えれるしー」とか言って、1週間でエリィが覚えた殆どの言語を覚えてきたのだ。

 あの時は普通に殺意湧いたわ。っと、後にエリィはヨシュアに愚痴ったのは言うまでもない。『諸外国の歴史』を本気でヴィスタに投げようとして、青ざめたフィリオ―ルに止められたのはいい思い出である。ついでに本が重すぎてバランスを崩し、ビックリした拍子に発作が起こって自宅へ強制送還されたところまでが恨みに入っている。あの時フィリオ―ルは自分のせいでもないのに酷く責任を感じて、毎日気遣いの言葉満載でお見舞いに来てくれた。一方、当のヴィスタは「何もない所で転ぶとか器用だな」とか開口一番抜かしてくれたのもエリィは忘れてはいない。


「っていうか、接待どころか確実に対人能力皆無じゃないの」

「誰の話をしているんだ?」

「そこで聞く?聞いちゃうわけ?ドンとカンが裸足で逃げ出す鈍さだわ!」

「エリィ、落ち着けって」


 どうどうとエリィを宥めるヨシュアの横で訝し気なままのヴィスタ。そんな彼を見てエリィは深くため息をついた。絶対に腹黒にだけはさせまいと思っていろいろ手を尽くした。


 人の裏を変に勘ぐって、企んで人を陥れたりしちゃ絶対にダメですわ!

 感情は素直に表してくださいな!人の善意を疑っちゃダメですわ!

 余計なことはしなくて大丈夫なんですの!あるがままが一番なのよ!


 っと、エリィは常々言ってきた。王子教育としてそれはどうなのかと言われれば、真逆かもしれない。でも、そこら辺は上手く王子の教育係がサポートするだろうと言う前提で、人を気遣える素直な子になる様に誘導してきたはずだった。だが、ふたを開けてみれば


 言葉の裏を全く読まない、空気が読めない子

 人の善意を疑わないで、すぐに騙されるような警戒心の薄い子

 無駄なことはしたくない。あるがままの自分の心に正直でぐーたらな子


 が出来てしまったのである。もう、頭を抱えるしかない。


「無駄に能力(スペック)が高い分、勿体無い」


 こんな残念な感じに仕上がってしまったが、果たして新学期から登場するであろう主人公ちゃん(ノエル)は、この子を気に入ってくれるかしら……とかまるで母親になったような気分のエリィがここに居た。ノエルの為に頑張って矯正したのに、上手くいかなかったことは誠に遺憾である。


「確かにね。対人・交渉能力とほんの少しの勤勉さがあれば完璧なのになぁ」


 エリィの独り言に同意した様にヨシュアが頷く。未来の王がこんな感じでは、この国の未来が見えなくなってしまっている。


「そうよ、ヨシュアが殿下を矯正してよ」

「は?」

「何故矯正などされねばならないんだ」

「少しは愛される王子になったら?」

「十分愛されているだろう?」

「アイリス様だけにね」

「ぐっ……」


 事実をサックリ突き付けると、ヴィスタは悔しそうに唇を噛んだ。ヴィスタはイケメンで一応ハイスペックな王子(権力者)だと言うのに評判はあまりよろしくない。人間として信頼が厚いのも、男性として人気が高いのも、フィリオ―ルやヨシュアにその座を奪われて、正直霞んでいる。酷い時には「あれ?王子様いついらっしゃったんですか?」(最初からいた)という事もあったりするぐらいなのだ。

 逆に、野心満載の貴族の方たちからは異様な人気だ。このままで彼らの毒牙にかかればヴィスタは傀儡王一直線のコースである。


「絶望的に低い対人能力を少しでも磨いた方が良いと思う」

「は?対人能力位ちゃんとあるしー」


 いつぞやもこんなやり取りしたな、っとエリィは半眼になって王子を見る。だが対人能力は外国語などと違って人相手の物である。”あるしー”で身に付くようなものではないのだ。


「はいはい。勉強しましょうね」

「あるって言っているだろ。信じられないのか?」


 適当に相槌を打つエリィに、ヴィスタは不快だと言う様に眉をひそめて見せた。ヨシュアが何か思いついた様にカフェの壁に貼ってある貼り紙を指さした。


「では殿下。あれで殿下の対人能力を証明してもらってもいいでしょうか」


 ニヤリと微妙に黒い笑顔を浮かべたヨシュアの指の先の張り紙は、祭りで行われるとあるイベントの参加者募集の告知であった。そのイベントは”第48回 下町イイ男選考会”。内容は容姿審査と口説き(プロポーズ)実演審査。つまり、容姿だけあっても女性をうまく口説けない様な社交能力が低い男はイケメンと認めないってことなのだろう。


「そうだな。私もリズに認めてもらわねばならないしな」

「優勝したら認めてあげなくもないですよ。そうだ、シャロム」

「はい」


 エリィが2,3シャロムに耳打ちすると、シャロムは一例をしてエリィの元を離れて人込みに消えた。それを不審そうに眺めているヨシュアに気が付くと、エリィはニヤリと笑って見せた。


「3人分参加登録お願いしておいたわ」

「3人分??」

「ヨシュアも頑張ってね」


 こうして、急遽”下町イイ男選考会”に参加することになったのだ。






 



 手違いがあったものの、ともかく3人は第一次選考の容姿審査を難なく突破した。トップ3を独占である。

 選考会が始まるや否や、広場は女性たちでいっぱいになった。この選考会のルールは至って簡単だ。審査員は広場に集まっている者全員。自分の投票したい者の名前の書かれた箱に、広場で売っているココアについてるミニマドラーを入れるのだ。つまり、投票するためにはココアを買わないといけない。しかも1次選考と2次選考があるので、最低でも2回購入しないといけないのである。上手い商売である。

 シャロムが嬉々としてココアを買いまくっているのは気のせいだろう。

 そう、エリィはヴィスタ・ヨシュア・シャロムの3人のつもりで参加登録を任せた。が、戻ってきたシャロムの配った参加証にはヴィスタとヨシュアとエイリという名が書かれていたのだ。


 爽やか担当美青年ヴィスタ・色気担当美青年ヨシュアの人気はそれは凄いものだった。思わずエリィが顔さえよければ中身はどうでもいいのか、っと呟いたぐらいだった。そして、それにも負けずエリィも人気があった。儚げで妖精みたいな美少年だと特にお姉さま方からの受けがいい。「流石ゲームキャラ。補正凄い」とエリィは圧倒された気分にもなった。

 そうして、休憩を挟んでの2次選考。舞台に上がり、一人一人、部隊の真ん中に立っている恋人役の女性を口説くのだ。前世も含めて異性に告白したこともないエリィが、同性に告白する言葉を考えると言うのが何ともナンセンスで憐れだ。


 1番から順番に審査が行われていき、ヴィスタは3番。ヨシュアは5番。エリィは9番だった。自分の順番が回ってくるまでに何か考えないといけないと、エリィは必至で記憶からよさそうな言葉を探す。そうしてふと思い出してチロリと5番の席に座っているヨシュアの横顔を盗み見る。


――背に腹は代えられないよね!


 そう言う結論にサックリたどり着いたエリィは、言葉を思いついた事に安心した様に椅子に深く掛けなおす。丁度2番の男性が舞台袖に引っ込んでくるところで、それと同時にヴィスタがやや緊張した面持ちとぎこちない足取りで舞台真ん中のベンチに座る恋人役の女性へと近づいていった。

 ヴィスタは女性の正面まで来ると、おもむろに跪く。そしてスッと右手を女性へと差し出した。


「お前と恋愛と言う物がしたい。俺を好きになってはくれないか?」


 派手な音を立てて、ヨシュアが椅子から転げ落ちた。会場はシン……と静まり返っている。というか、明らかに恋人役の女性が困惑した顔をしていた。そりゃーそうである。恋人役と言う設定なのに何故か恋愛してくれ発言。困惑以外のどんな表情をすればいいと言うのか。


「え……っと、はい?」


 困惑しながらも右手を重ねて返事した女性の手を引いてヴィスタは立ち上がり、その手を高く差し上げた後、観客に向かって満足そうに、そして優雅に一礼をする。観客も困惑している。お情け程度にパラパラと拍手が聞こえてきたが、その憐れみの拍手の音が胸に痛くてエリィは胸を抑えた。


「自分の事じゃないのに、辛すぎて胸が痛い……っていうか見てて恥ずかしくて辛い」


 ブツブツ呟きながらふと横を見ると、舞台袖で待っていた参加者全員がつらそうな表情をしている。参加者へのメンタル攻撃をしてくるとはヴィスタも中々侮れない。そして戻って来たヴィスタとすれ違う様にして静まり返った舞台に向かう4番の男性。顔が青いのは気のせいではない筈だ。


「どうだ?」


 エリィの前に立ち、ヴィスタは褒めてくれと言わんばかりの表情で胸を張る。舞台の方で4番の男性と恋人役の様子を伺うと、何故か2人はお通夜モードだ。あの空気の中で甘い雰囲気を出すのは相当熟練を積まないと無理ではないだろうか。そうして再びエリィはヴィスタに視線を戻す。あのお通夜モードを作り出した張本人はやり切った感いっぱいで誇らしげだ。実際はやらかした感いっぱいだった訳だが。


「えーっと……なにが?」

「今の言葉だ。リズに向けるつもりで言った」

「聞かなかったことにしときます」

「は?」

「あ、ほら。次ヨシュアですよ」


 4番が俯きながら戻ってくるのを視界の端に捕えて、エリィは不満げに声を上げたヴィスタの気を反らした。相変わらず観客は静かなようだったが、ヨシュアはさほど緊張した様子もなく、軽い足取りで舞台に向かっていった。流石はディレスタ家の社交担当である。度胸がある。

 ヨシュアが女性の元へ歩く間に観客の方を向き、小さく手を振ると、それだけで場の雰囲気が和んだようだった。そのままヨシュアはベンチに座る女性の左横にストンと腰を掛けた。


「ねぇ、聞いて?最近僕はおかしいんだよ」


 恋人役の女性の左手を取り、両手で挟み込みながら優しく、まるで照れているのを誤魔化す様に女性の手を甘く叩く。


「どうしたの?」


 恋人役がヨシュアの言葉に答えて首をかしげると、ヨシュアは照れたように笑って見せた。


「なんかね、君が側に居ないと君の事ばかりを考えて、何も手につかないんだ。……だからさ、僕からずっと離れないと誓って?」


 両手で握っていた女性の手をそのまま自分の頬に当てて、ヨシュアは笑顔のまま女性を見つめる。観客席の方から黄色い声が聞こえたのは恐らく気のせいではないだろう。恋人役の女性も舞台袖から見ててもわかる位ボーっとして赤くなっている。流石お色気担当。篭絡スキルが半端ない。


「はい……」


 女性がうっとりと返事をすると、再び観客席から黄色い声が上がった。するとヨシュアは観客に向けてウインクすると「応援ありがとう」といって手を振ってみせる。そうすれば更に黄色い声が上がったのだ。ヨシュアはその黄色い声の中、優雅に立ち上がると手を振りながら舞台袖に戻る。そして、そのヨシュアとすれ違う様に6番の男性が青ざめた顔で舞台へと出て行った。アウェー感満載のあの場所へ行く6番の男性には同情を禁じ得ない。


「観客に品が無いな。あのように騒ぐなど。まぁ、品のある言葉ならば淑女らしく聞いていたとは思うが……」

「殿下、言っときますけど。ヨシュアのは素敵で騒いでるんです。殿下のは問題外過ぎて何も言えなかっただけです」

「リズ。どうして、そうつれない事ばかり言うんだ」

「いや、事実です。いい加減現実見てください」


 エリィとヴィスタがそう口論していると、戻って来たヨシュアがエリィの肩に手を置き首を小さく振った。ヨシュアとエリィが目を合わせ、しばらく後に同時に深いため息を吐く。エリィは理解した。ヨシュアの瞳は確実にこう語っていた。”矯正無理。諦めろ”それを理解したらため息しか出てこなかったのだ。


「ほら、次出番だよ」


 なおもエリィに絡んで来ようとするヴィスタを遮るようにしてヨシュアがエリィの手を引いて立ち上がらせる。エリィは緊張を誤魔化す様に手のひらに人を3回書いてのみこんだ。そして、意を決して舞台中央に向かって歩く。舞台に出て横目で観客の方を見てみると、丁度真正面に見覚えのある黒髪の執事が『エイリ様こっち向いて!』と書かれた横断幕を一生懸命振っていた。すぐさま視線を反らし、エリィは見なかったことにした。

 恋人役の左隣に静かに座り、エリィは覚悟を決めて顔をしっかり上げる。


――大丈夫、台詞は完璧に覚えてる。間違えっこない。


 エリィは恋人役の女性の左手と自分の右手を繋ぐ。もちろん恋人つなぎだ。そして女性の顔を覗き込むように体をねじった。


「ねぇ、君は奇跡って信じる?」

「奇跡?」


 唐突に始まったソレに女性は一瞬呆けたように聞き返す。でも、反応はそれで間違っていない。ノエルもそう言った。


「僕は信じるよ」


 そう言って笑って見せると、女性はドキリとした様に顔を赤らめた。


「あなたがいて、そのすぐ横に僕がいる。これも奇跡。……これから先もこうやって、ずっと手を繋いでいけたら、なんて思っちゃうんだ」


 そう言ってつないだ手を少し持ち上げて「ね?」と言った感じでエリィは首をかしげる。


「ねぇ、返事は?聞かせてくれるよね?」

「……はい。私も、あなたとずっとこうして居たいわ」


 女性はにっこりと笑ってエリィと視線を合わせた。その瞬間、観客席からワッと言う声と共に拍手があちらこちらから上がった。


――エリィの計算通りである。


 この一連の台詞はエリィが考えたものではない。エリィが覚えているものをそのまま引用したのだ。そう。ヨシュアTRUE ENDのED台詞を丸パクリである。社交マスターヨシュアのTRUE ENDルートの告白台詞がウケ無いわけがないのだ。エリィはヨシュアと同じように観客に手を振りながら舞台袖に引っ込む。

 もしかしたら、これでノエルとのヨシュアTRUE ENDのルートが消えてしまったかもしれないが、まぁ弟と言うのは姉に虐げられるために存在するのだ。いたしかたが無い、とエリィはニヤリと笑う。そもそもこんな選考会に参加する羽目になったのはヨシュアの提案のせいなのだから、それぐらいは許してほしい。

 エリィが舞台袖に入るや否や、ヨシュアがすぐに飛んできた。少しだけ興奮した様に顔を上気させているのをみると、自然と顔がほころぶ。こう言う直ぐに興奮するような所は子供っぽくてヨシュアが可愛いと思った。


「エリィ、凄くロマンチックだった。正直びっくりだよ」

「自画自賛か」


 興奮気味に話すヨシュアに思わずエリィはツッコミを入れてしまう。自分の実力ではないのに褒められるのは微妙な気持ちである。


「え?」

「ううん、なんでもないよ」


 自分のライバルは自分でした!なんて思ってないだろうなぁとエリィはヨシュアを見る。ヨシュアの方は凄いね、と知らずに自画自賛しながらエリィを褒める。多少罪悪感を感じないでもないが、その罪悪感にはエリィは目を瞑ることにした。




――結果。



 もちろんエリィの勝利。ヨシュアとは接戦ではあったけれど最終的にエリィの方が支持数を稼いだのだ。他の参加者は誰も似たり寄ったりで、一人だけ、ヴィスタだけがぶっちぎりの最下位であったことは言うまでもない。


「何故だ……」

「まぁ、殿下。ちょっとは社交術頑張りましょう」


 愕然とするヴィスタを慰めるのはもちろんヨシュアだ。エリィは決して慰めたりはしない。むしろどん底へ落ちろ。落ちて這い上がってこい!という教育方針である。


「また勝ってしまったわね。敗北を知りたいわぁ~」


 エリィが口元に手を当てて笑って見せるとヴィスタは悔し気に唇をかみしめる。


―― そうだ、悔しがれ!悔しがって真剣に勉強しろ!危機感を持て!そして、ノエルに素敵な口説き文句吐けるようになれ!


「帰る」


 エリィの呪いの様な念を知ってか知らずか、ヴィスタは口をへの字に曲げたまま帰宅宣言をした。するとどこからか現れたのか、護衛が2人出てきてヴィスタを誘導する。

 あの恥ずかしい口説きシーンを見られてたかと思うと辛いが、王子である以上一人でブラブラしている訳はない事を忘れていたので仕方が無い。


「また学校で」


 背中に向けてエリィが声をかけると、ヴィスタは振り向かずに小さく片手を上げた。










ブクマ・評価ありがとうございます!

他作品までブクマ・評価がぐっと増えて嬉しい限りです。

頑張りますのでよろしくお願いします!

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