表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

再会

 雨雲のようなモヤが、静かに少年の額に吸い込まれていきます。ルイスはそれを見てにんまりと笑いました。

「へへへ、これできっとドロッドロの心ができるぞ」

 昨日は変なガキ、ではなく少女に邪魔された所為で大分時間をロスしましたが、今日はうまくノルマを片付けられそうです。


「ほらクソガキ、デケェ声出すんじゃねぇよ」

「ごめんなさい! 謝るから許して、食べられたくない! 連れてかれたくない!」

「ピーピー騒ぐな、往生際の悪ぃ奴め」

 ルイスは泣く少女の鳩尾に蹴りを入れて黙らせました。気を失った所で、スーツケースから出した大きな麻袋に詰め込みます。どんなに詰めても心配無用。この袋は子供なら最大10人は運べます。

「畜生、あんまり騒がれると困るんだよ……他の家族にバレる」

 そこまで言ってハッとしました。昨日会ったあの少女を思い出したのです。あれからずっと、彼の脳みそに引っかかっていたのです。

「あいつ、何で連れて行かれたがってたんだ」

 ルイスは左目の義眼レンズを、呆れたように伸ばしました。


 その夜。

 女の子はやはり薄い布団に包まり、すやすや眠っていました。時々寝返りをうち、布団をぎゅっと握ったりしています。

「俺の気も知らずグーグー寝てやがる」

 醜いボガートは例の煙を出すと、帽子を少し持ち上げ、光線を発射しました。黒い光の筒は真っ直ぐに夢のモヤに当たり、染み込んでいきます。

「今夜はどうだ、4度目だから流石に効くだろ」

 ニヤリと笑って反対の目を向けるとーー少しも黒くなってはいません。

「あぁ、何でだ? 俺の義眼、壊れてる訳じゃないよな」

  ルイスは首を捻りました。

「ん~……あ、ルイスさん? だよね。来てくれたんだ」

 少女が嬉しそうにゆっくり目を開けます。何でこいつは俺が来たって直ぐ解ったんだ? ルイスは思いました。そんなに癖があるのか、俺の悪夢。

「おう、お前が連れてけってうるせぇから、来てやったのよ」

「お仕事は?」

「もう残りはお前ん家だけ」

 少女の顔が明るくなります。やれやれ。ボガートは困ったように笑いました。


 冷えたフローリングに腰を下ろして、ルイスは幾つか質問をしました。自分に対してこんな接し方をしてきた子供など、これまでにいなかったからです。その結果、面白い事が少し解りました――少女の名はベティといって、年はたった六歳。お母さんと二人で暮らしています。

「お父さんはどっか行っちゃった」ベティは何でも無い事のように言いました。「お腹の中にいた時だったから、わからないの。お母さんの話で聞いただけ」

 お母さんはこの頃特にその話をするとも、彼女は教えてくれました。貴女は全くお父さんそっくりだと。特に、『ろくでなしルイス』の話をする時にはいつも言うと。

「俺の話だって?」ルイスは首を傾げます。

「うん。だけどね……」

 ベティは急に口を閉じました。つられてルイスも黙ります。ミシミシ、木でできた床の軋む音。

「あ、お母さんだ。もう寝なくちゃ」

 ベティは布団を頭までかぶりました。ルイスも大急ぎで散らかした仕事道具を片付けます。

「また明日の夜も話しに来てくれる?」

ベティが布団の隙間から目だけ出しているのが見えました。

「おうよ。お前にゃまだ良い悪夢を見せられてねぇからな」

彼は口の端を少しだけ上げて、頷きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ