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「……お姉ちゃん、寄り道したでしょ」
「いーちゃん、ちゃんと頼まれてきたものは買ってきましたよ? それに、寄り道というよりは猫さんと一緒にベンチで日向ぼっこをしただけですよ?」
「違うの! 買い物は出来てるけど生ものがあったでしょ! しかもこんな暑い日に公園のベンチで日向ぼっことかどんだけなの! お店の人が氷入れてくれてなかったらアウトだったのに、氷もほぼ水に近い状態だからほぼアウトなんだからね! しかもそれは寄り道って言うんだよ! それに、論点はそれだけじゃない!」
セレーネが自宅に帰ると、イェソドが出迎えた、仁王立ちで。
そして怒られた、直後、びし、と背後を指さされる。
「誰!?」
背後にいたのは、先ほど公園で出会ったヘリオスだった。
自然にセレーネの家に入ったはよかったが、妙に落ち着かないと内心感じているヘリオス。
恋をしたセレーネの自宅だからだろうか、それとも自然な形ではあるが、急に彼女の家に入った事が原因なのだろうか、と考えを巡らせる。
あと、セレーネが〝いーちゃん〟と呼ぶ彼女が、セレーネの妹で、セレーネとはあまりにも対照的に性格が違うというギャップについていけていない。
そんなことを背後で考えているヘリオスが、自分の家まで着いてきていたのを知ってか知らずか、セレーネは言う。
「ヘリオスさんです。公園で日向ぼっこをしていたら、お会いしたんです」
その名前を聞いて、今まで強気にセレーネに説教をしていたイェソドの表情が強張った。
いつも女性を引き連れて歩いて、遊び人だと噂されている男、ヘリオスが姉の背後にいる。
イェソド自身、ヘリオス本人を直接見るのは初めてだし、姉はその噂すら知っているのか知らないのかもわからない。
いや、多分知らない。
自信があった。
たぶらかされたのかもしれない、イェソドの脳裏にそんな言葉がよぎった。
セレーネのことだ、あり得なくはない。
一抹の不安に襲われて、表情を強張らせて身構える。
「妹のイェソドです。失礼承知でお伺いしますが……うちの姉に何か用でしょうか?」
背後のヘリオスに問いかけると、彼は言った。
「俺のモノになってほしいと言った」
「私、モノではないのに、どうしたらいいんでしょう、いーちゃん」
姉は困ったように、妹に言う。
そんなこと言われても、とイェソドは頭を抱えた。
多分、見るにヘリオスはセレーネの事を気に入ったのだろう。
だからそういう表現でセレーネに近づいたのだろう。
もしかしたら、好かれているのかもしれない。
それなら、ヘリオスは本気でセレーネを我がものにしようとするのだろう、きっとそうだとイェソドはなんとなく理解した。
ヘリオスの口調がどう考えても本気にしか聞こえなかったからだ。
姉に関して言える事としては、もう自分で考えて欲しい。
正直セレーネには警戒心と言うものがまずないのだ。
知らない人には着いて行かないようにしましょう、と言われても、忘れたかのようについて行く。
正直傍から見ていても危なっかしい。
よく迷子になるし、これが性格なのか何なのか、イェソドにも理解不能なのが正直なところだ。
姉の迷惑は今に始まった事ではないが、今回ばかりは自分の手には今のところ負えないだろう、イェソドはそう思った。
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