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山手線の怪

 今日も国際平和管理機構から呼び出された。いつもの品川駅近くのホテルの一室に有る機構の事務所に来ているんだけど、今日はいつもとちょっと違っている。

 川島さんの他に、スーツ姿の女の人とエージェントらしい若い男女が一組いる。いつもとは雰囲気が全然違っていて、緊張するなぁ。


 スーツ姿の女の人が説明を始めた。

「今回皆さんに集まって頂いたのは、山手線で起きている不思議な事象の調査をお願いする為です」

「私達への依頼はいつだって不思議だよね」

 小声で言うと、みらいが同感って言うように頷いた。

「今回の事象は第二地区と第三地区にまたがる地域に発生している為、皆さんに合同で調査をしてもらうことになりました」

 それで私達だけじゃないんだ。向かいのソファーに座っている二人をチラッと見たら、男の人と目が合ってしまった。あわてて目を伏せたけど、気がついたかな? 気付くよね。あぁ~盗み見していたみたいじゃない。恥ずかしいよ~

「山手線において電車が通過しない駅が発生していることへの原因調査と対応をお願いします」

 どうやら電車が駅を通らないらしい。その駅での乗降客はどうしたんだろうか? きっと困ったんだろうな。

「以上が今回の依頼の概要です。詳細に移る前に紹介をしておきましょう」


 スーツ姿の女の人が私達の方を見ながら

「みらいさんとは以前お会いしましたが、あかりさんとは初めてですね。私は第二地区担当の富永です。そして、こちらが第二地区のエージェントのルナさんとライトくんです。そして、こちらが第三地区のエージェントのみらいさんとあかりさんです」

 みらいと私、ルナさんとライトくんの四人は軽く会釈をしあった。

「詳細については、こちらの川島からお話します」


 川島さんが立ち上がって会釈した。

「第三地区を担当している川島です、よろしくお願いします。今回の事象は、昼過ぎのJR山手線外回り列車数本が恵比寿駅を通過しないという報告が入っています。ご存じの通り山手線は環状線ですから、常識的には不停止、つまり停車せずに通過してしまう事が有ったとしても、通過しない事はあり得ません。ところが乗務員も乗客もその列車は恵比寿駅を通過していないと証言しています。又、不通過となった恵比寿駅には、対象の列車が通過した記録が有りません。つまり、山手線の乗員乗客、恵比寿駅の駅員と利用客の数百人が証人なのです。機構の予備調査で、周辺の聞き込みをしたところ、目黒駅を発車した列車がトンネルにでも入って行く様に、先頭部分から消えて行くところを見たと言う証言を得ました。同様に恵比寿駅と渋谷駅の間でも突然列車が現れたと言う目撃情報が有りました」

 ルナさんが川島さんの説明に対する質問をした。

「不通過部分の出入口は判っていると言うことですか?」

「その通りです。ルナさんとライトくんも富永さんから聞いていると思いますが、西大井の児童公園で発生した空間異常と関係していると思われます」

「あのワープするやつですか? スティーブさんが言っていた通りになった訳ですね」

「そう、みらいさんの言う通りです。西大井では児童公園をドーム型に覆っていましたが、今回はフラットなワープパネルを設置し、仮想宇宙船として山手線の列車をワープさせる実験を行っているのでしょう」

「それで、私達は何をしたら良いの? ワープパネルの設置場所も判っているし、装置は専門家が調べるんでしょ?」

 ルナさんが言った。確かに今までの説明では何をしたら良いか解らない。

「警察が動けば装置を撤去することは出来ますが、それでは装置を設置した犯人は、別の場所で次の実験を行うだけでしょう。今回は装置を開発設置した犯人を探して、今後の実験も阻止することが必要と考えています。しかし、今回の様な未来型の事象に対しては、警察ではなかなか対応しきれない体質が有ります。そこで皆さんに犯人を特定するための捜査をお願いしたいと思います。今回も警視庁の浜田さんがバックアップしてくれますので、連絡を取り合ってお願いします」

「解りました。とにかく現場に行ってみましょう」

 ルナさんの言葉に三人は頷いた。川島さんからワープパネルの出現するポイントを記した地図を受け取った。


 私たち四人は現場に向かいながら自己紹介をした。

「第二地区でエージェントをしているルナです。漢字で『月』って書いてルナって読みます。二十一歳の女子大生です。それと、この子が、ほら!」

 ルナさんが隣を歩いている男子の脇腹を小突いた。

「あ、えっと、名前はライト。『光』って書いてライト。十八歳高校生」

 ルナさんはみらいより一歳上、身長160センチ位の色白でスタイルの良い美人さんだ。性格もしっかりした感じでみらいとは正反対って感じかな?

 ライトくんは私と同じ十八歳。身長は175センチ位で痩せ型だけど筋肉は有りそう。ちょっとイケメン風だけど、話し方はぶっきらぼう。優しさは感じられない。見た目男子って感じかな?

「私はみらいです。『月』でルナとか、『光』でライトって読むなんてカッコイイですね。私なんてひらがなですよ~。歳は二十歳、女子大生です。いつも女子大生には見えないねって言われます」

「私はあかりです。私もひらがなです。十八歳高校生です」

「みらいちゃんもあかりちゃんもカワイイね。やっぱり妹が良いよね。私も妹が欲しかったんだけどね。弟は可愛げ無いからねぇ」

 みらいはニコニコしながら聞いているし、ライトくんはブスッと横向いているし……。この四人で合同捜査かぁ、どうなるんだろう? なんだか不安。


「まずは、作戦をたてないとね。現場は入口と出口の二ヶ所有るけど、手分けするか片方に絞るかだね。どっちが良いと思う?」

 今回の行動では、自然にルナさんが主導権を取ることになった様だ。当然だよね。みらいの指示じゃ、普通の人は理解出来ないもの。

「一ヶ所に絞って四人も張り込んだら見え見えだよ。犯人だって警戒するでしょ。俺は手分けの方が良いと思う。尾行したときも片方が見失ってももう一方が突き止められればOKだし……」

「それはそうだけど、犯人に対峙たいじした時の危険は増すよ! 安全を考えたら一ヶ所に絞った方が良くない?」

 なんと論理的会話! みらいと私には有り得ない!

「私は手分け派かな? だって四人一緒に動くのって面倒くさくない?」

 出ました! みらいの訳解らない意見。面倒ってなに!

「じゃあ、手分けすることにしようか? 土地勘の問題も有るから、みらいちゃんと私が渋谷側、あかりちゃんとライトが目黒側で良いかな。ライト、しっかりあかりちゃんのこと守るんだよ!」

 手分けに決まっちゃったよ。ルナさんとライトくんでも、みらいのペースは止められないの?


 ライトくんと私はルナさん・みらいと別れて目黒駅で山手線を降りた。線路沿いを歩いて現場近くで待機することにした。

「なんで目黒駅なのに品川区なんだよ! 紛らわしい」

 ライトくんは住居表示のプレートを見て不満そうに呟いている。そう、この現場は目黒駅周辺だけど、住所は品川区上大崎二丁目だ。

「そうだよ、目黒駅は品川区にあるんだよ。ちなみに、品川駅は港区だし……」

「なんだ、それ! 本当に面倒くせえなぁ」


 そんな会話をしていると、私のスマホが鳴った。みらいからだ。

「こっちは現場に着いたよ。そっちも待機している?」

「こっちもOKだよ」

「犯人が来たら、気付かれないように尾行だからね。もしも犯人に見付かったら速攻退避だからね! 相手はどんな奴か判らないんだから闘ったりしないように!」

「わかっているよ! 私はそんなに好戦的じゃないから……」

 みらいと別れての調査は初めてだから心配してくれているみたい。やっぱりお姉ちゃんなんだね~。


「おい、あの二人組! 怪しく無いか。なんかリモコンみたいなのを操作しているぞ」

 黒いスーツにサングラスと、派手なシャツにパンチパーマの二人の男が跨線橋の上で線路を覗き込んでいる。どう見ても鉄道マニアには見えない。黒いスーツの男が手に持った黒いリモコンみたいな物のボタンを押している。

「うん、なんかしているね。みらい達に連絡してみるよ」

「みらい。こっちに怪しい男の人が来て、リモコンみたいなのを操作しているけど、そっちはどう?」

「こっちにも来ているよ。リモコンみたいなのを操作している。間違いないね」

 みらいと話をしていると、目黒駅の方から電車の音が聞こえてきた。近付いて来た電車が跨線橋の所で先頭から消えて行くのが見えた。

「みらい! 今電車が消えたよ!」

「こっちは電車が現れた! 間違いない、アイツ達が犯人だ! 犯人が動いたら尾行開始して。気を付けてね」

「了解! 何かあったら又連絡するね」

「ライトくん。やっぱりアイツ達が犯人みたい。動いたら尾行開始だって」

 黒スーツとパンチパーマは二本の電車をワープさせると再びリモコンを操作してから、その場を離れて行った。

「おい。尾行するぞ!」

 おいってなんだよ、全く! 私はちょっと不機嫌になりながらライトくんの後に付いて尾行を開始した。


 二人組は中目黒方面へ移動している。大通りには出ないで裏道を選んでいるから、交差点を曲がる度に見失いそうだ。古いアパートの角を曲がった直後だった。カーブミラーが振り返って後ろを確認する黒スーツを映した。やばい、尾行に気付かれたかも……。

「ライトくん!」

 呼び止めようとしたけど遅かった。ライトくんは急いで角を曲がってしまった。二人組は角を曲がって来るライトくんを待ち構えていた。私がライトくんに追い付いたときには、ライトくんと黒スーツ・パンチパーマは対峙していた。


「兄ちゃん達、俺達に何か用か?」

 パンチパーマがヤクザ映画のザコキャラ風に言った。ライトくんはと言えば、焦りまくっているみたい。

「あの…いえ…何でも…」

 交差点まで後退って来た。黒スーツもパンチパーマもライトくんと私をこのまま帰す気はなさそうだ。

「あかり、逃げろ!」

 ライトくんの男らしい言葉が少し震えている。ライトくんを置いて逃げる訳にはいかない雰囲気だよね。

 パンチパーマが黒スーツの目配せで、私の方へ向かって来た。動きもザコキャラって感じで、全体重を拳に乗せて右ストレートを打って来た。パンチパーマのパンチの下を潜る様に避け、肘をボディに当ててから腕を掴んで投げ飛ばした。パンチパーマの背中とアスファルトが激しく衝突した。

 やっぱり受身も取れないザコキャラだったみたいだ。これなら気絶して暫く起きあがれないだろうと思ったけど、一応お腹に一撃、蹴りを入れておいた。

 振り返ってライトくんの方を見ると、黒スーツの左ボディからの右フックがライトくんの左側頭部に決まるところだった。ライトくんは後ろの壁に右側頭部を叩きつけられて苦しんでいる。

「ガキが! ケンカの途中でよそ見なんてしてんじゃねえよ!」

 黒スーツがそう呟きながらライトくんとの距離をつめる。

 私は次の攻撃がライトくんへと繰り出される前に、黒スーツの背中に蹴りを入れた。

 黒スーツはターゲットをライトくんから私に変更して来た。左のジャブから右ストレート。ボクシングスタイルだけれどストリートレベルかな? 場数は踏んでいるみたいだけど、本格的なボクサーではなさそうだ。

 黒スーツのストレートを下から跳ねあげてボディに右の拳をめり込ませて、半歩さがりながら回し蹴りを頭部に決める。黒スーツは仰向けに倒れ込み気絶した。

 黒スーツも大した手練てだれでは無かった。


「ライトくん大丈夫?」

 ライトくんは頭を打って出血している。

「大丈夫だよ」

 立ち上がろうとするライトくんを制止した。

「血が出ているよ。そのまま寝ていて」

 私は浜田さんに電話をし、到着するまで待つことにした。

「おまえ強いんだなぁ」

 ライトくんは倒れている黒スーツとパンチパーマと私を順に見ながら言った。

「それほどでも無いよ。いまだにみらいには敵わないし……」

「えっ! みらいさんってそんなに強いのか?」

「そんな事より、さっきどさくさ紛れに『あかり』って呼び捨てにしたでしょう?」

「そうだっけ? 忘れた」

「『おまえ』って呼ばれるよりも『あかり』の方が良いけど……」

「そうか……じゃあ……俺のこともライトで良いよ」

 以外とカワイイとこも有るじゃん。


 そこへ浜田さんが警察官と一緒に到着した。

「あかりちゃん怪我は無い?」

「私は大丈夫ですけど、ライトくんが……」

「俺は大丈夫です」

「いや、ライトくん。ケガは頭だから病院で検査をしてもらった方が良いな。あかりちゃんにやられた犯人に比べたら、たいしたケガじゃなさそうだけど……。病院まで送るよ。あかりちゃんも一緒に行く?」

 浜田さんのデリカシーの無い言葉にはいつもイラッとさせられる。女子高生に襲い掛かって来た犯人だよ! あれくらいの目に遇ったって当然だと思うんですけど!

「いいえ、ルナさんやみらいと合流しようと思います。ライトくんのこと、よろしくお願いします」

「あかり、無茶するなよ」

「解った。気を付けるよ」

「ライトくんを病院まで送ったら尾行先に行くから、踏み込むのは私が到着してからにすること! 奴等が目を覚ませば聞き出せるけど、相手は暴力団関係者かもしれないからね。どんな危険が待っているか解らないから、勝手な突入は絶対にダメだからね。これ以上ケガ人を出すわけにはいかないからね!」

「解りました、ルナさんとみらいにも伝えます」

 みらいに電話をすると、今尾行中で、代官山から東横線に乗って都立大学で電車を降りたところらしい。私は浜田さんに小まめに居場所を報告することを約束して、タクシーで都立大学に向かうことにした。


 タクシーで都立大学駅まで行き、スマホのGPSでルナさんとみらいの位置を確認して二人と合流した。

「あっかり~、大丈夫? ケガして無い?」

 私の顔を見るなり、みらいが抱き付いてきた。

「私は大丈夫。でもライトくんが犯人に殴られて……。頭にケガしちゃって。頭だから一応検査をしたほうが良いだろうって、浜田さんが病院に連れていってくれました」

「ライトもしょうがないなぁ、あかりちゃんは気にしなくて良いからね。でも、ライトがやられるなんて……。相手はそんなに強かったの?」

「ボクシングスタイルでパワーは有ったけどスピードはあまり無くて、ストリートレベルならそれなりに強いんでしょうけど……」

「ライトもけっこう強いんだけどね。去年お父さんに無理やり出場させられたフルコンタクト空手の大会でいきなり優勝しちゃった位だから、そんなに簡単にはやられないと思っていたけどなぁ。あかりちゃんに見とれていたのかな?」

 ルナさんは笑っているけど、ライトくんのこと、心配しているんだろうな?

 もしかして、ライトくんがケガしたのは、私の方を気にして自分の闘いに集中出来なかったせいなのかな? 黒スーツも『よそ見なんてしてんじゃねえよ!』とか言っていたし。ああ見えて、ライトくん優しいみたいだから……。

「あっそうだ、浜田さんが到着するまで突入は待つように、って言っていたよ。この場所は浜田さんに連絡した?」

「したよ。もうすぐ到着する頃だと思うよ。ワープ機械のこともあるから、スティーブさんも一緒に来てくれるらしいよ」

 浜田さんが到着するのを待つ間に、ふたりから状況を聞いた。犯人はヤクザ風の二人組で、目の前にある雑居ビルの四階に入って行ったらしい。


 浜田さんがスティーブさんと三人の刑事さんを連れてやって来た。

「ちゃんと待っていたね。三人とスティーブさんはここで待機していて下さい」

 浜田さんはそう言って他の刑事さん達と雑居ビルに向かった。私達が様子を伺っていると、たいした騒ぎにもならずに、ヤクザ風の二人組とそのリーダーらしき人が刑事さんに拘束されて出てきた。あっさり逮捕されたみたいだ。

 浜田さんがこちらに向かって手を振っている。

「スティーブさん、みらいちゃん達も来てください」


 私達は浜田さんに呼ばれて雑居ビルに入って行った。四階の部屋に入ると、見たことの無い機械やパソコンが並んでいる。そんな中に、外国人の女の人が椅子に座っていた。

 さっきのヤクザ風犯人達とは釣り合わない。モデルの様なスタイルをした美人で、科学者か学校の先生のみたいに知的な雰囲気をまとっている。

「スティーブさん、この女性が例の機械を作ったようです。警視庁や所轄の警察署に連れていっても、この様な特殊な事象は理解されないし、ヘタすると立件が難しいと言う理由で、事件その物を無かったことにしようとする場合も有りますからね。この場で事情聴取をしてしまいたいと思います。機械の事や目的も聞き出したいので、同席してもらえますか?」


 スティーブさんが要請に頷くのを確認して、浜田さんが事情聴取を始めた。

「まず、日本語は解りますか?」

「はい。解ります」

 流暢な日本語で答えた。見た目からは想像出来ないくらい日本語が上手でビックリ! そう言えばスティーブさんも日本語が上手だ。普通に喋っているもの……。

「それは助かります。では、あなたの名前は?」

「カレン。カレン・シュナイダーです」

「国籍と職業は?」

「国籍はドイツです。職業はベルリン・エレクトロニクス・ジャパンの研究員です」

 急にスティーブさんが声の様な妙な音を発した。

「……‥ …… ‥‥‥ ・‥‥…‥ ・」

 それを聞いたカレンさんも不思議な声らしき音を出した。

「・・‥…… ‥‥… ‥‥‥‥ 」

 この妙な声がクラリオン星人の言葉なの?

「やはりそうでしたか。カレンさんは私と同じクラリオン星人と言うことですね。あぁ、クラリオン星と言うのは、私達の星の名は地球人には発音出来ないので便宜上使っている名称です」

 後半はカレンさんへの説明だったみたい。

「えっ! 異星人? カレンさんが!」

 浜田さんがまたテンパっている。これだけ不思議な事件を担当しているのに、いつになったら慣れるの?

「そうです。先ほどの言語はクラリオン星の言語です。カレンさんも僕と同じクラリオン星人なのです」

「その通りです。カレン・シュナイダーと言うのは、地球用の名前です」

 確かクラリオン星のワープ技術はワープチューブだと言っていた筈だけど、もしかしてカレンさんはクラリオン星人の未来から来たとか? 私は聞いてみることにした。

「スティーブさんの話では、クラリオン星のワープ技術はワープチューブだと聞いていますが、すでにワープパネル技術が開発されているんですか?」

「いいえ、クラリオン星ではワープチューブ技術しか持っていません。そもそもワープはワープチューブだけだと思い込んでいました。だからチューブの短縮化に依る航行時間の短縮を行って来ました。しかし、私が地球に来て半年程経った頃、テレビで偶然見たアニメに青い猫みたいなのが出ていました。その猫が出したドアを開けるとそこには別の空間が広がっているじゃないですか。その時閃いたのです。チューブを使わなくても、二枚のパネルに入口と出口の設定が出来れば良いんじゃないかって?」

「あっ、どこでもドアだ!」

 みらいが嬉しそうに叫んだ。きっとココだけが理解できる所だったんだろう。

「研究を始めてみたら、意外に上手くいって、七年程で電車程度ならワープさせることが出来るようになったわ。まぁ、ワープチューブの応用で済んだからだけどね」

 私もなんだか解らなくなってきた。七年って長い様だけども、新しいワープ技術を開発するにはすごく短いんだろうなぁ。けど、なんでヤクザ風の人達と一緒なんだろう? それにこの雑居ビルは研究に適しているとは思えないし……。なんだか不自然な気がする。

 解らないことは聞いてみるのが一番だ。

「でも、何であんな人達と一緒に研究しているんですか? それも、こんな場所で?」

「ワープパネルの研究には結構費用がかかるのよ。地球では、エレクトロニクス会社の研究員をしているけど、収入はそんなに無いからね。安い部屋を探したら、ここくらいしか見つからなかったの。必要な機械やパソコンなんかを揃えていたら、お金が足りなくなっちゃってね。ちょっとヤバそうな所からお金を借りちゃったのよ。そうしたら、研究に目をつけられてね。あいつら、犯罪に利用出来ると思ったみたい。例えば、銀行の金庫内に設定して置けば、金庫を開けることなく中の物を盗み出せるとか、犯行現場からワープするとアリバイが簡単に作れるとかにね」

「そんな事に協力しちゃったんですか?」

「協力なんかしたく無かったんだけど、脅かされてね。実験が必要だとか適当な事を言って、公園を使えなくしたり、電車をワープさせたりしたら警察とかが動いてくれるかと思ったわけ。実際あなた達が来てくれたから犯罪に利用されないで済んだわ」

「あなたがやったことは、完全に犯罪ですよ! 公園の件もそうですが、山手線の件でどれだけの人が迷惑したと思っているんですか? この捜査でも、けが人だって出ているんですよ!」

 あまりにも罪の意識が無いことに、浜田さんが珍しくキレている。

「装置は完成したのですね? 貴女はその装置をどうするつもりなのですか? 本来ならクラリオン星統括政府に提供するべき技術だと思いますが……」

 スティーブさんには装置の行方が気になるらしい。

「もちろんそれが正解でしょうね。ただ、私の祖国の政府に提供してから、統括政府との交渉になるはずよ」

 クラリオン星の中にもいくつかの国が有るんだね。地球と違って統括する政府が存在するみたいだけど。

「解りました。ここから先は政府間の話になりますね。早い時期に平和的に使用出来ると良いですね」

「今回の件では、カレンさんも犯罪に加担している事は明白です。警視庁でもう少し御話を御訊きしたいと思いますので御同行、御願い致します」

 あらら。浜田さん、上司に電話していると思ったら、カレンさんに敬語を使い始めちゃった! これが警視庁とか日本政府の意向って訳なのかしら?


 私達は雑居ビルを出て都立大学の駅に向かうことにした。

「ルナちゃんはライトくんのいる病院へ行くんだよね? 心配でしょ?」

「そうだね。最近生意気だけどね。あれでも可愛い弟だからね」

「じゃあ私達も一緒に行こうかな? うちの可愛い妹もライトくんの事が心配でたまらないって顔をしているから」

 そんな顔はしていません! 心配は心配だけど……。

 そうは思ったけれど、異論を唱えなかったら三人で病院へ行くことになった。


 病室に入ると、ライトはおとなしくベッドに寝ていた。

「ライト、あんたがやられるなんて珍しいね。よそ見でもしていたのかな?」

「なんだよ! そんな訳無いだろ!」

「おっ! 元気だね。安心したから、みらいちゃんと飲み物買いに行ってくるよ。ゆっくりとね」

 ルナさん、何を言っているんですか! ふたりっきりになったら恥ずかしいじゃないですか! そんな私を残して、ルナさんとみらいは楽しそうに病室を出て行った。

「あの~。ライト、大丈夫?」

「さっきまで、検査でCT撮ったり、診察したりだったけど、やっと終わったみたいだよ。特に異常は無いだろうってさ」

「良かった! 頭から血が出ていたから心配したんだよ。ルナさんから聞いたんだけど、ライトはあんなやつにやられる筈がないって」

「ちょっと油断したかな?」

「ルナさんは私のことが気になっていたんじゃないかって言っていたよ」

「そんな事無いよ。単に俺が油断しただけだから気にするな!」

「わかった。ライトは優しいんだね。ウフフ」

「そんなじゃ無いって言っているだろ!」

「ライトもあかりちゃんも楽しそうだね」

 ルナさんとみらいが戻ってきた。

「何を言っているんだよ!」

「何を言っているんですか!」

「おっ、ふたりで声を揃えちゃって。戻って来るの、早すぎたかな?」

「あかり、顔が真っ赤だよ!」

「あかりちゃん、ライトが寂しがるから毎日お見舞いに来てあげてね」

「何を言っているんだよ! 検査の結果も正常だから、明日退院するんだよ!」

「なーんだ、そうなんだ」


 ルナさんとみらいに散々からかわれた。全くもう!

「もう大丈夫だから、みんな早く帰れよ!」

 ライトが少しキレ気味に言った。あれだけからかわれたら当然だよね。

「じゃあ帰るよ。明日退院する頃にまた来るよ」

 ルナさんの言葉をきっかけに私達が病室を出ようとしたとき、みらいがライトの耳元で何か囁いていた。

「ライトくん、ありがとうね。あかりのこと、守ろうとしてくれて」


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