未来へ(後編)
私達三人は、翌朝早めに起きて、ホテルのレストランで朝食を取っていた。なぜかみらいが昨日こっちへ来たときの服を着て行こうって言うから、三人共昨日と同じ服装だ。
「ルナちゃん、あかり、昨日の萌絵ちゃんの話、どう思った?」
みらいが唐突に質問をしてきた。いつに無く真剣な表情をしている。
「どうって、未来の世界も大変な事に成っているなぁって……、何が起きたのか解らないけど、この世界は大丈夫なのかなって思ったけど?」
「そうそう、大変そうだよね。ライトもとんでもない事に巻き込まれたなって」
私に続いてルナさんも不安を口にした。
「それもそうだけど、何か変だと思わない? 色々と話せない事が有るとか言っている割には、私達をこの世界に連れてきたりして……。私達が出来る事なんか知れているし、そのくらいなら、この世界の警察でも出来るでしょう? 萌絵ちゃんの事を疑う訳じゃ無いけど、何か裏が有りそうだよね!」
そう言われればその通りだ! 萌絵さんは何故私達を連れて来たんだろう。
「みらいは、何で私達が連れて来られたと思うの?」
「そうだねぇ……。まず、私達がライトくんを心配しているから、呼べば来る事はわかっていた。あとは、政府か警察側の都合……、でしょ」
「政府や警察の都合ってなに?」
「政府や警察が直接介入すると何か問題が起きる。そんなところでしょう」
「問題ってなにかな?」
「政府高官か警察上層部の息子が絡んでいるとか、政府か警察と自然環境を取り戻す会が繋がっているかじゃない?」
「萌絵さんから聞き出せないかな?」
「無理でしょ! 聞き出せる位なら最初から話しているでしょう。警察も百パーセントは信用出来ないよ。ホテルの部屋にだって盗聴器くらい付いていると思うよ」
みらいが恐ろしい事を言い出した。ホテルの部屋での、みらいの脳天気ぶりは盗聴を警戒しての事だったのだろうか? いつでもあんな感じだけど……。
ホテルの部屋に戻って用意された服に着替え、萌絵さんの到着を待った。私は動きやすいジーンズが良かったんだけど、ジーンズは用意されていなくて、なぜかミニスカートばかりだった。みらいの陰謀の匂いがしたけれど、仕方が無いのでブルーのミニスカートにTシャツとパーカー、靴はスニーカーを選んだ。これなら動きやすいしね。
ルナさんは黒いレザーのショートパンツに白のブラウス、靴はライダースブーツだった。これならヒールが低いので動きやすいだろう。
それに引き換え、みらいはいつもと同じヒラヒラワンピースだ。靴も厚底で走る気は全く無い様だ。きっとみらいが萌絵さんに用意させたに違いない。全く何を考えているんだか?
暫くすると、萌絵さんがやって来た。
「おはよう、昨夜は良く眠れた?」
「うん、良く眠れたよ。早く寝たから今朝は早起きしちゃったよ」
みらいの言葉に萌絵さんは、微笑んでいた。私は朝食時のみらいの言葉が気になっていて、萌絵さんとどのように接して良いか分からなくなっていた。
「ライトの情報は見つかりましたか?」
「うん、情報はいくつか来ていたよ。先ずは座りましょう」
萌絵さんは私達がソファーに座ると、バックから地図を出してテーブルに拡げた。
「ライトくんの情報だけど、自由が丘駅周辺で目撃されているの。駅の防犯カメラに映っているのを確認したわ。これがその映像」
萌絵さんは一枚の写真を出してルナさんに渡した。
「ライトくんに間違い無いかしら?」
ルナさんが写真を受け取って確認し、頷いた。
「間違い無いです。確かにライトです」
みらいと私も写真を見た。写真の中のライトは、ジーンズにグレーのTシャツで歩いていた。
「すごく鮮明な写真ですね。防犯カメラってこんなにキレイに写るんですね」
「そうなのよ。最近の防犯カメラは百年前のテレビ以上の画質で録画されているからね」
「ライトくんの隣を歩いている女の人、ライトくんと話をしている様に見えない?」
みらいが写真に映る人物を指差しながらいった。確かに話をしているみたいに見える。二十歳前後の女の人だ。
「そう、この人の名前は日野早苗、二十三歳。自然環境を取り戻す会の幹部クラスの人物よ。自然環境を取り戻す会の幹部のほとんどは三十代の男性なんだけど、この日野早苗は十代から会の中心的な活動をしている様なの」
「詳しいんですね? そこまで判っているなら、住居とかも判っているんじゃないんですか?」
朝食の時のみらいの言葉のせいか、私の言葉に萌絵さんへの不信感が出てしまった。
「勿論、調査済みよ。日野早苗は自由が丘のマンションに住んでいるわ。たぶんライトくんもそこに居ると思うわ」
「そこまで判っているなら、警察官を動員して逮捕・救出に行けば良いんじゃない?」
「それが、そう簡単にはいかないのよ。日野早苗はマークしているけど、犯罪行為を立証するだけの証拠が見付からないのよ」
「あかり、何イラついているのよ! ライトくんが日野早苗さんと一緒に居るから?」
みらいが話の間に入って来た。
「そんなことじゃないよ! だって居場所まで判っているのに……」
自分でも意味が解らないくらい感情的になっている。確かに日野早苗という女の人と一緒というのは気になるけど……。
「自然環境を取り戻す会の事務所みたいなのはどこにあるの? 判っているんでしょ?」
みらいが萌絵さんに聞いた。
「自然環境を取り戻す会の事務所は、三軒茶屋の雑居ビルに入っているわ。だけど、名目だけの事務所でね。電話機と事務員が一人居るだけなの。実際はホームページやメールで会員に呼び掛けたり招集をかけたりしているのよ」
「だったら、ホームページをチェックしたら大体の行動は判るんだよね? 警察でメールのチェックとかも出来るの?」
「数人の幹部に関してはメールのチェックをしているんだけど、今のところ情報はつかめていないわ」
萌絵さんや警察の対応に、みらいもイライラしてきた様だ。
「で、私達は日野早苗のマンションに踏み込んでライトくんを奪取して良いんだよね?」
「ええ、それしか無いと思うけど、犯罪行為の証拠がないから警察はサポートすることが出来ないの。それでもやってもらえるかしら?」
「ヤルしか無いでしょ!」
「うん、ヤルしか無いね」
みらいと私の意思は決まっていた。
「みらいちゃん、あかりちゃん、ありがとう」
そう言ったルナさんの目には涙が光っていた。
「警察がサポート出来ないってことは、萌絵ちゃんの同行もまずいんだよね?」
「日野早苗のマンションに入るのはまずいの。でも、それまでは案内するわ。似ているけれどもみんなの時代とは少し違っているからね。と言うよりも、せめて案内くらいやらせて! 本来なら警察がやらなくちゃならない事に三人を巻き込んじゃってごめんなさい」
萌絵さんは申し訳なさそうに言った。
「気にしないで。こんなことになったのは、ライトが勝手に下手な尾行なんかしたからいけないんだし……。みんな、よろしくお願いします」
ルナさんが私達に頭を下げた。
「ルナちゃんこそ気にしないで! それじゃあ、自由が丘のマンションへ急ごうよ!」
私達は自由が丘に有る、日野早苗のマンションへ急いだ。
日野早苗のマンションの入口が見える所にちょっとお洒落なオープンカフェがあった。
「萌絵ちゃんはそこのカフェで待っていて。何かあったら携帯で連絡するから」
「判った。気を付けてね。無理したらダメだよ!」
「了解! 行って来ます」
私達は日野早苗の住むマンションへ入って行った。
エレベーターに乗ると、みらいが人差し指を口に当てて、声を出さない様に指示してから、私達の服をチェックし始めた。目的の階に着いたときには、六個の盗聴器を服から外していた。本当に盗聴器が付けられていたんだ。この鋭さは普段のみらいからは想像も出来ない。ルナさんも驚いている。
盗聴器をエレベーターに残したまま日野早苗の部屋に向かった。
「みらい、どうやって部屋に入るつもりなの?」
「どうって? よその家に行くときはインターホンを押して、『こんにちは』って挨拶するものだよ。ママに教わったでしょう」
「まさか? 冗談でしょ。今は犯人の家に踏み込むんだよ! そんなことで入れてくれるはず無い……あっ!」
みらいが本当にインターホンを押しているよ。
「はーい、いらっしゃい。今開けるからちょっと待ってね」
私とルナさんは顔を見合わせた。まさか本当にインターホンを押すとは……。
カギの外れる音と共にドアが開かれた。玄関には女性がたっていた。ライトと一緒に写真に写っていた日野早苗だった。
ナチュラルなメークが上品な美人で、栗色に染めたロングヘアーが緩やかなウェーブを描いている。優しげな瞳で微笑んでいて、とても過激派組織の女性とは思えない。本当にこの人が日野早苗なの?
「ライトくんのお姉さんとお友達ね。狭い部屋だけど、どうぞ入って」
「おじゃまします」
みらいは何の躊躇もなく日野早苗の部屋に入って行った。ルナさんと私もみらいの後に続いて部屋に入った。
日野早苗の部屋は、玄関を入るとすぐにダイニングキッチンになっていた。その先には、ふたつの部屋が並んでいる。その一つをリビングに使っている様だ。リビングにはテレビとソファーが置いて有る。そのソファーにはライトが座っていた。
「あんた、何やっているのよ!」
ルナさんはそう言いながら、ライトの頭をひっぱたいた。
「姉ちゃん、いきなり何だよ? 痛いじゃないか」
「何だよ、じゃ無いでしょ! 心配したんだからね。みらいちゃんやあかりちゃんにまで心配掛けて!」
ルナさん、すごい剣幕だ。ライトが無事なのは良かったけど、私もライトの頭をひっぱたきたくなった。でも、それはルナさんに任せることにした。
「まぁまぁ、少し落ち着いて。今、お茶を用意するから、その辺に座っていて」
日野早苗がそう言ってキッチンに向かった。すぐに五人分の紅茶を持って戻って来た。
紅茶を前にして最初に口を開いたのはみらいだった。
「日野早苗さんですよね? たぶん知っていると思いますけど、こちらがライトくんのお姉さんでルナさん。そして私がみらい。この子があかりです」
みらいが言い終わるのも待ちきれない様子で、ルナさんが話に割って入った。
「なぜライトを誘拐して連れて来たんですか。何か目的が有ったんでしょう!」
ルナさんは少し興奮気味だった。そんなルナさんの手を握りながらみらいが続けた。
「先ずは、ライトくんをこっちの世界に連れて来た理由から話してもらえますか? 盗聴器はエレベーターで外して来たから大丈夫ですよ」
「あら、みらいちゃんはシッカリしているのね。盗聴器に気付くなんて……。貴女達が警察からどんな風に聞いているか解らないけど、ライトくんをこっちの世界に連れて来ちゃったのはちょっとした手違いだったのよ」
「手違い? ライトを連れて来る予定は無かったってことなの?」
「実はそうなのよ。渋谷のスクランブル交差点辺りからライトくんに尾行されているのは気付いていたんだけどね。タイムチューブに入る前に光学迷彩で姿を消しちゃえば良いと思っていたのよ。でも、私の不注意なんだけど、こっちの警官にも尾行されているのに気付かなくてね。明治神宮に入って、タイムチューブの入口近くまで来たときに警察に襲われたの。そうしたらライトくんが飛び込んできて私に加勢してくれたのよ」
「何でライトが尾行対象者を助けるの?」
ルナさんの問いにライトが答えた。
「だって、警察だなんて知らなかったし……。どう見てもヤクザっぽい奴等に絡まれているみたいだったから……つい、助けに……」
私とルナさんは同時に溜め息をついた。日野早苗さんが話を戻した。
「相手は訓練を受けた警察官だから、やっつけるのは無理でしょ。仕方無くライトくんと一緒にタイムチューブに飛び込んだってわけ。その後、警察官の追跡を阻むためにタイムチューブを閉鎖したから、すぐにライトくんを元の世界に帰せなくなっちゃったの。もちろん、新しいタイムチューブを設置して元の世界に帰すつもりだったのよ」
「それなら、私達がライトくんを連れて帰っても問題無いわけだよね?」
みらいの言葉に頷きながら、
「そうね、何の問題も無いわ。これ以上こっちの世界の事情に巻き込むわけにいかないものね」
やった! 闘うことも無く事が済んだ。後はライトを連れてホテルのタイムチューブで帰れば良いんだね。
私の喜びに水をさす様な事をみらいが言い出した。
「ライトくんが早苗さん達の活動を手伝っていたっていうことは、こっちの世界の問題を知ってしまったんだよね。警察はライトくんをどうするつもりなのかな?」
「どうだかね? 警察はタイムパラドックスを凄く気にしているからね」
「やっぱり、そうだよね」
「みらい、どういう事? ライトくん、帰れないの?」
「このままライトくんを帰して、この世界が抱えている問題が起こらない様な活動をされた場合、タイムパラドックスが発生する可能性があるからね」
「え~、じゃあどうしたら良いの?」
「さ~。とりあえず、その問題って言うのを聞いてみるっていうのはどう?」
「私は話したって良いけど……。本当に聞いちゃって良いの?」
日野早苗さんがイタズラっぽい目で私達に確認した。何だか嫌な予感がする。
「こっちの世界の問題なんて、私は興味無いけどね。警察や萌絵ちゃんに騙されているみたいで何だか嫌だから、いっそのこと知っておいた方が良い気がするな」
私は判断に困って黙ったままだった。ルナさんも黙っていたから、同じなのだと思っていたら、ルナさんがいきなり意思表示をした。
「何も知らないで帰るなんて出来ないよ! 私達は未来の人達の勝手に巻き込まれているんだから、知る権利が有ると思うよ!」
「解ったわ。あなたもそれで良いわね?」
日野早苗さんが私の意思を確認する様に見つめている。私は子供の頃から、判断に困った時にはみらいを頼ってしまう傾向に有る。そっとみらいを見ると、私を見ながら『大丈夫だよ』と言う様に小さく頷いてくれた。
私は日野早苗さんの方を見て頷いた。
「じゃあ話すわね。この東京自体が閉鎖された空間だって事は知っているかしら?」
「はい、萌絵さんから聞きました」
「もえ…?あぁ、時犯の山崎萌絵ね。あの子が担当しているんだ。なんであの子なのかね?」
「萌絵ちゃんが学生だった頃にちょっとした事件で知り合ったからじゃない?」
「ふーん。警察はタイムパラドックスを異常に恐れているから、大事なことは何も話してくれなかったでしょう。山崎萌絵には本当の事は知らされて無いかもね。彼女のお兄さんは私達のリーダーの一人だからね」
みらいは『やっぱり!』みたいな顔をしている。
「時犯の山崎萌絵は近くに居るんでしょう? ここに来てもらって一緒に話をした方が良いわね。呼んでもらえるかしら?」
「あかり、萌絵ちゃんに電話して来てもらって」
私は携帯で萌絵さんを呼んだ。
インターホンが鳴り、早苗さんが玄関まで迎えに出た。
「時犯の山崎萌絵さんね?」
「はい、山崎萌絵です」
「遠慮なく入って。今からこの世界の状況を話すところなの。あなたも一緒に聞いていてね」
萌絵さんがソファーに座ると、早苗さんは話を続けた。
「この東京の外側がどうなっているかと言うと、日本じゃ無くなっているの。五十年位前にアメリカが経済破綻して、世界的影響力を無くしちゃってね。海外に派遣していた軍隊も全て引き揚げちゃったからね。同盟国は大変よ。お隣さんなんか、あっという間に隣国に統合されちゃうし、日本も大陸の二大国家に分割統治されちゃったわけ。ただ、日本はこの東京だけが自治区みたいな形で残されたんだけどね。日本政府はその事を東京の住民に発表していないのよね」
日本、無くなっちゃったの? 何だか実感が無いよ~。日本が無くなるなんて想像したことも無いし……
「どうして東京だけが残ったんですか? 普通そんな風に残さないでしょう?」
ルナさんが言った。そうだよね、そこは不思議だと私も思う。
「それは、貴女達のおかげなのよ。あなた達はクラリオン星って知っているでしょう?」
クラリオン星と言うのは以前の調査で会った宇宙人、スティーブさん達の星だ。
「はい。オリオン大星雲にある星ですよね。スティーブさん達の星」
「そう、貴女達が知り合ったクラリオン星人が中心になって、日本とクラリオン星の間には親密な関係が築かれたの。クラリオン星統括政府も地球との関係に希少性を持たせたかったからかしら、日本との間にだけ窓口を開いて交易を行ったの。その窓口を失いたくない人達の思惑で東京だけでも日本国として残すことになったみたいよ」
「日野さん、なんでそんな事を知っているのですか? それに、過去の人にそんな話をしたらまずいですよ! タイムパラドックスが発生する事態だってあるでしょう。それにこの子たちが帰るときに記憶を操作することになってしまうかもしれないし……」
萌絵さんが慌てて言った。記憶操作? 記憶を消そうとしているってこと?
「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私は日野早苗。『自然環境を取り戻す会』とは、隠れみのみたいな組織でね。実は国家安全保障局のエージェントなの。国家安全保障局っていうのは、日本国政府直属の警察みたいなものね」
国家安全保障局? なんだか話が大きくなりすぎて訳わかんないよ!
「タイムパラドックスの事は、あまり心配しなくても大丈夫よ。歴史はそんなに簡単には出来ていないの。私達の研究では、歴史はそう簡単に変えることは出来ない様になっているのよ。人間はいくつもの選択肢を選びながら、その時代を作っているでしょう。だから選ばれた選択肢は変更出来ない様になっているみたい。たとえば歴史を変えるために過去へ行って関係者を殺害しようとしても、色々な障害が発生して失敗に終わる様になっているらしいわ。たとえば、実行前に暗殺者が交通事故に遇っちゃうとかね。だからこの子たちの記憶を操作する必要も無いのよ。それに、今の話はみらいちゃんのポシェットの中の無線機で過去の人に聞かれちゃっているしね」
ここでの話は無線機の向こうで川島さんも聞いているらしい。みらい、やるね~
「そうなのですか? 私達が警察で教わったこととずいぶん違うけど……」
早苗さんの所属している国家安全保障局が政府直属の警察なら、どうして警察と対抗しているんだろう? 私は全く解らなくなる前に聞いておくことにした。
「でも国家安全保障局のエージェントの早苗さんが、なぜ『自然環境を取り戻す会』なんて言う過激派まがいの組織をやっているんですか? 本来なら警察以上に外の事を隠すんじゃないんですか?」
「日本が統治された当初は警察と同じように、国民には知られないように活動をしていたんだけれどもね。最近になって事情が変わって来たのよ。日本はアメリカに代わって、クラリオン星と同盟関係を結んで、その庇護で国家として独立して元の国土の返還を要求しようとしているの。その為には、国民の理解と協力が必要になったわけなの」
「本当ですか? 私達警察は何も聞いていませんよ」
萌絵さんは本当に何も聞かされていないようだった。
「当然日本国内にも反対する権力者達が居るからね。とりあえず国民に現状を教えちゃおうってわけ。ちょっと乱暴だけれどもね」
「警察は反対派なのですね。私にはどっちが良いのか判らないけど……」
萌絵さんがつぶやいた。
みらいが萌絵さんの肩を優しく抱きながら言った。
「萌絵ちゃん、どっちが良いかなんて誰にも判らないよ。このまま日本が無くなっちゃうのは嫌だけど、クラリオン星の庇護で独立したって、アメリカの時と何も変わらないし……。萌絵ちゃんは萌絵ちゃんに出来ることをやるしかないじゃない」
萌絵さんが顔をあげて頷いた。
「そうだよね。同じように、早苗さんは早苗さんのやるべきこと、そしてみらいちゃん達にはみらいちゃん達の時代でやるべきことが有るんだよね」
それぞれ組織や時代の違う私達はお互いの顔を見つめ合い、頷き合った。
私達は、早苗さんと別れ、萌絵さんと一緒に行った時と同じようにタイムチューブで元の時代に戻って来た。国際平和管理機構の事務所では川島さんが待っていた。
「ご苦労さまでした。話の内容は無線機で聞かせてもらいました。未来では大変なことになっている様ですね」
「詳しい話もしないで協力して頂きありがとうございました。今回は、クラリオン星との関係を築いてくれるライトくんを取り戻すためだったんですが、こんなことしなくてもライトくんは無事に帰って来たんでしょうか? なんだか解らなくなってきました」
そう萌絵さんが言った。
私は、私達の行動によって萌絵さん達の時代やその未来まで変えてしまうのではと思うと、今後どうして良いのか解らなくなってきた。
それに答えるように川島さんが話し始めた。
「萌絵さん、それに皆さんもですが、今回の件で見聞きしたことについては、深く考えなくて良いことだと思います。なぜなら、萌絵さんの時代の過去は、すでに終わっているのですから。そして私達の未来はまだ訪れていないのです。萌絵さん達の時代が私達の未来であると言う証拠も有りませんしね。私達の時代と萌絵さん達の時代は、今の時点で交錯しただけの別の時間の流れなのかも知れません。だから、今回の件に左右されること無く、自由に行動してください。それが私達の未来なのですから」
なるほど、パラレルワールドって言うことね。そうなのかも知れない。いや、そうで有って欲しいと思った。
萌絵さんはタイムチューブで未来に帰って行った。タイムチューブの有った壁も元に戻っていた。
ライトくんは、ルナさん・みらい・そして私の三人にサンザン怒られ、謝っていた。
ちょっとかわいそうな気もしたけど、今後のことも有るので、シッカリと反省してもらわないとね。




