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炎華伝  作者: 眞上 陽
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第二幕 喜子礼講話

宣言通り亀更新進行中です。

そして漢字過多で読みにくいかとは思いますが、よろしくお願い致します。

「昔、三百年もの昔のことです。地上には常に争いが絶えませんでした。未だ『国』という概念は存在せず、大小数多あまたの集落が作られ、それぞれの集団を率いる有力者、つまりは長が生まれました。それは、人が生れ落ち寄り集まり生活していく中で生じる、必然の流れです。人は、己にとってより住みやすい環境・よりたくさんの実りを得られる場所・より安全に暮らしていける土地……、より多くのものを求め、争いました。限りあるものを取りあうのだから、当然の帰結です。時に、いくつかの集落で協力しあい、また時には裏切りも行われ、集落は消えていくものもあり、大きくなるものもあり、次第にそれは現在の所の『国』という形に形成されていきました。しかし、住まう場所による習俗・価値観・儀礼……、それぞれの差異は著しく、互いを受け入れるのは非常に困難でした。

 受け入れられないという感情は争いを生む。

 生まれた争いは長引き、決してなくなる事はありませんでした。

 人々は、長く続く血で血を洗うような争いに疲れていきました。

 しかし、誰もそれを止めるすべを持ってはいなかったのです。

 そんな時でした。一人の青年が地上に現れたのです。彼の名は「伯楽天はくらくてん」。の人はその姿を現すなり、次々とその周辺の集落・有権者達を味方に引き入れ、見る間に一つの国へと纏め上げたと言います。彼が築いた国こそ、史上初めての国家であり、その建国をして定められた元号が今でも各国共通である「伯楽年」なのです。今はその建国時である伯楽天年、つまりは一年目の事ですが、そこから数えて三百年が経過した伯楽三百十四年になります。

 少し話が逸れましたが、とにかく伯楽天の手により、一つの統一国家が創られた訳なのです。しかし、その伯楽天が築いた平和も長くは続きませんでした。建国されてから数十年後のことです。正確には歴史書には記されてはいません。ただ、再び争いが起こったのです。それは、大きな大きな争いになりました。やがて、その争いが鎮まった時には既に、国は一つの形を失っていました。

 伯楽天が築いた一つの国は、今では六つの国に分かれています。それは、かつて伯楽天が建国の指針に掲げたという『知をもって勇と成し 仁を抱きて忠を捧げ 義を通して信を貫く すべて、己の至宝たるものの為に』の一文よりその名を採られたと言う、『ゆうじんちゅうしん』の六国の事です。

 まずは北より、仁の国について。仁の国は北西に位置しています。寒冷の地と言われます。その為作物はうまく育ちません。西には海も広がっています。都市部と農村との落差は激しいけれど、高度な文化水準を持っており、建築技術と細工物の素晴らしさは他国の追従を許しておりません。特に、歴代の王が住まう宮殿は、特に優美かつ華麗な事で知られています。現在この地を治めているのは美貌の冷血帝と謳われる青年王・冷泉れいぜんこと、『冷泉帝れいぜんてい』です。天帝の時代より、帝は全土を治める王に対して付けられる敬称ですが、現仁王はこの呼び名で表されることが多々あり、その存在の大きさの一端を窺い知ることが出来ます。

 その東には義の国があります。義も北の土地にあり寒い国です。そのまた東にはとても高い山脈が連なっています。義国も同じく王政。王位は歴代、せい姓が率いています。現在の王の名は斉衡。凡庸な王と言われていますが、その側近達は有能で知られています。学に力を入れ、貴重な書物も多数保有していると聞きます。鉱山資源が豊富で、武具や金物でも有名です。

 その南には知の国があります。草原地帯の広がる国です。東には広大な砂漠が広がっていて、その砂漠の向こうへ行って戻ってきた者はいないと言われています。知の世襲は特殊で、代々の国のおさの選出方法は他国には知られていません。単純に血族や年功ではないことは、現在の首長である冷白れいはくが証明しています。彼は前首長の血族ではないし、その地位を引き継いだ時はまだ少年と言ってもおかしくない年齢であったからです。草原で産出される上質な馬や織物・砂漠より手に入る産物の交易がこの国の大きな収入源となっています。

 知の国の西にあり、仁の北にあたるのが信です。信は唯一全部の国と国境を接しています。その分、他国との摩擦・関係に神経を尖らす必要があり、人員をそこにく必要も出てくるのです。ただ逆に言うと、そのおかげで商業が発達したとも言えます。物や人の移動は、トラブルを生む原因にも、利益を生む要因にもなり得る訳です。数十年前に王制が廃止された事により、現在はこの信だけが六国の内で唯一議会制を敷いています。その特質もあり、信は情報や物が行き交う交易の場として栄えています。

 その南、忠の国は温暖な国です。信との間はほとんど窪地のような海で遮られてる為、行き来には船を用います。湿地と湖もたくさんあり、質の良い温泉も多く湧きます。景勝地が数あり、文化面では楽器や舞などが盛んで華麗な刺繡や絹織物でも有名です。現在の王は老溯公ろうそこうと呼ばれる、非常に温厚な年配の仙人の様な人です。歴代忠の国の王は天帝の忠臣、という立場を覆さず、自身の事を『王』ではなく『公』と自称しています。また、現忠王には金麗きんれい銀麗ぎんれいというまだ幼い双子の姉妹の孫がありますが、今から将来は絶世の美女になるであろうと言われています。

 最後に勇の国。一番南東にある国です。農業国家とも言われ、様々な農作物を収穫出来る立地を保有しています。伯楽天の時代、国の武を任されていたことから、代々の王は『大将軍』の冠を好みます。現在の王は、王尚おうしょう。六国の王・代表の中では現在最年少です。勇は農業国でもありますが、武勇を良しとする一面より傭兵育成に関しても力を入れています……」




「師匠」

「はい、どうしましたか、賀陽かよう。疲れましたか」

「いや、そういう訳でもないんですけど」

 今まで師の言葉をせっせと口述筆記していた少年は、筆を置くと室の外の空を見上げて言った。

「何やら空模様が怪しくなってきたので。戸締りなんかしてしまった方が良いかと思って」

「ああ、そうでしたか。すみません、お願いできますか」

「はい」

 師の言葉に頷くと、賀陽と呼ばれた少年はさっと立ち上がって室から出て行った。

 


 賀陽に師匠と呼ばれるその人の名は、喜子礼きしれいと言う。姓を喜・名を子礼と言うその男は、見た目はまるで僧侶の様である。

全身を黒い衣装で覆い、頭にも頭巾を被っている。その頭巾の下の頭皮に一本の髪の毛が無いのも、いつも笑っている様に閉じられている瞳が何も映さないのも、過去の大怪我によるものである事を知る者は少ない。

 年は三十を少し越えた所だが、つるりとした面立ちはそれより若く見られるようだ。

 信の国・喜家は代々の資産家であるが、代々の当主が奇人変人であることでも有名な一族である。

 この喜家当代当主・喜子礼も漏れなくその称号を戴いている。

 特に何をするのでもなく、ふらふらと不自由な目で一人出歩き、合間には子供達や望む者であれば大人でも、その豊富な知識を伝え教える。その内容は意外にきちんとしたものであるのだが、世間からは暇人の道楽として見られているようだ。その教えを享受している子供達の親からは、ほんの心ばかりの謝礼で子供に学を授けてくれるとありがたがられてはいるが、子礼はあまりどちらの評価も気にはしていない。

 子供が好きで、学ぶ事が好きで、毎日好きな事が出来ている。

 それだけで、充分なのである。



「師匠、戸締りできましたよ。休憩も兼ねて、お茶でも飲みませんか? 良いお茶の葉が手に入ったんですよ」

 手早く戸締りを終えた賀陽がそう言いながら戻ってきた。

 少年の名は賀陽といい、子礼の身のまわりの世話をしている。

 数年前に子礼がどこぞより連れ帰ってきてから、ずっと子礼の事を「師匠」と呼び、どこか抜けている父親ほどに年の離れた彼の世話を己の役目として奮起しているのである。

 まだ十を少し過ぎた年頃の子供とは思えないほど知恵がまわり、大人びた口のきき方をする少年である。

「ああ、ありがとう。少し、喉が渇いたようだ」

「まあ、あれだけ立て続けに話してればそうでしょう。それにしてもよく覚えていますね、あれだけの内容。師匠自身は目で見て確認する事は出来ないのに」

「人は、どこか悪い所があるとそれを補うように他の部分が発達するものなのだよ」

「そんなもんですか。でも、わかりやすく話してわかりやすく記録する、のも骨ですね。あの小僧ども、物覚え悪すぎる。師匠も同じ話何度も繰り返して疲れるでしょう。ああ、だからこうやって俺が書に書いて起こして、読ませることにしたんですね。納得です」

「賀陽、みんながお前のように一度ですべてを覚えられるわけではないのだよ。それにお前にこうやって書き留めて貰ってるのはすべて子供達の為だけではない。私もうっかり忘れてしまった時の為、こうやって残しておけば、いつでもお前にに調べて読み上げてもらえるだろう?」

「まさか。師匠に限ってそんなことはないと思いますが」

「それだけでは無く、今当然の様にわかっていることは後世の人間にとってはそうではない。その為、少しでもその記録を残しておきたいのだよ。実際私も、それがあればこの疑問を解決できるのに。何かその事実を記した書はないか、と思う事が多々ある。だからきっと、同じ様に望む者は必ずいるであろうから」

「ああ、それならわかります。さすが師匠」

 子礼は苦笑を漏らす。

 賀陽の言葉は少し真っ直ぐ過ぎる嫌いがある。

 子礼に対する信頼も少し荷が勝ちすぎている気がする。

 そして何より、何でも容易にこなせてしまう事から、自分が当たり前の様に出来ることが出来ない者の気持ちを理解出来ない傾向も強い。

 そして、それを思い遣れる度量はまだない。

 まだ、子供だからと言えばそうなのだが……。

 出来が良すぎる弟子も、少し困ったものだ。

「そんな事より師匠、だいぶ空が崩れてきましたよ。風も出てきましたし」

「……そうだね、だいぶ荒れそうだ」

 風が木々を揺らす音が、子礼の耳にも届く。

 天候があまりに崩れると、多方面で被害が出ることになる。


「あまり、酷い事にならないといいが……」

 何とはなしに、子礼はぽつりとそう呟いた。



いきなり話が飛びましたが、今回は説明回です。

次回より義国へ話は戻ります。

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