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炎華伝  作者: 眞上 陽
10/17

第八幕 空位の王

更新遅くなりまして、すみません。

また、今回よりジャンルをファンタジーから戦記へ変更しました。

だって、ファンタジーってカタカナとか魔法とか溢れてるイメージなのに、この話どこにもそれなくて違和感ありまくりでしたから。

 葉容は戸惑っていた。

 何だか思いもよらない方向へ運命が転がりだしたような気がする。

 次々と兄達を実の父である義王に殺され、諦観の思いで日々を過ごしていたところ、突然意味もわからず捕らえられた。ああ、死期が来たのかと思っていたら、今度は今ここに連れてこられた。

 通された室内にいる者は自分を除き三人。

 一人は大司馬である頑堅。

 頑堅には顔をあわせる度、親しげに声をかけてもらっていたので知っている。

 それに、李鳳。

 李鳳とは直接言葉を交わしたことはない。だが、長兄である燵が、「あのような己の利を考えず、国や民の事を第一に考える高潔な者にわたしもなりたい」と言っていたことが強く印象に残っている。

 そして、見たこともない、ただどこか目を離せない空気を纏う、知らない男。

 葉容は己がこの場にいる意味を、視線だけで李鳳に問うた。


「葉容公子、父君であられる義王斉衡がお亡くなりになられました」

 静かにそう切り出した李鳳に、葉容は一瞬目を見開くと、俯いた。

「……反乱、なのですか?」

 その切り返しに、炎雷はヒューっと口笛を吹いた。

「へえ、こいつ結構頭回るのな」

 からかい口調の炎雷に、李鳳は一瞥し言った。

「すみませんが貴方は少し黙っていてください。話が進まなくなりますので」

「へいへい」

 李鳳は再度葉容に視線を戻すと問いかけた。

「葉容公子、貴方は何故そのように思ったのですか? 私は亡くなった、とだけ言って、殺された、とは申し上げてはおりません」

 その問いに、葉容は少し考える素振をしてから答えた。

「ただ、普通に亡くなったのであれば、僕が捕らえられることはないはずです。また、反徒の者が押し入って保護されたのであっても、それは守るという行動であって捕らえるという行動にはなり得ません。ですから、義王はただ亡くなったのでなく、殺された、ということになるのでしょう。……そして、今僕が解放された理由。僕だけが解放され、まだ捕らえられている者がいる、この現状……」

 そこで一旦言葉を切ると、少し躊躇うように、ただはっきりと葉容はその事実を口にした。

「この件の主導、もしくはそれに近い所にいるのは……、李鳳、貴方達でしょう」

「む……」

 思わず声に漏らしたのは頑堅だった。

 李鳳は表情や声には出さなかったが、正直感嘆していた。

 この幼い公子はこれだけの情報で、ほぼ正解に近い結論を導きだした。

 

 惜しい。

 李鳳は心底そう思い知る。

 この義王の血を引いた子供達は、揃いも揃って粒ぞろいだった。

 人望厚き優秀な太子。

 その長兄を羨むことなく力になる事を誓い努力し続けた第二公子。

 武芸に秀で、義国のその名の如く義を重んじた第三公子。

 身体こそ弱くはあるが、気品に溢れた心優しき第四公子。

 女性の身ながら国を想い、兄弟を思い遣る懐深い第一公主。

 そして、この第五公子、斉葉容。

 そのまま成長し、燵太子が王になっていれば、どんなにか良い国になっていったであろうに……。



 しかし、過ぎ去った時は戻らぬし、失われた生命は決して取り戻すことなどは出来ない。


 

 李鳳は隙間心によぎった感傷を一つ首を振る事で振り払った。

「そうだ、と言えば、貴方はどうなされるのですか」

 逆に問い返された葉容は、口を開こうとし、そのまま閉じた。

 言葉は、出てこなかった。

 己には、何も出来ない。

 何をする力もない。

 それを身に染みてわかっていたからである。

「貴方には力がない」

 李鳳からそう断言され、葉容には返す言葉がない。

「貴方は、何がしたいのです? 何を望むのですか」

「僕は……」

 何かを、望んだことがあっただろうか。

 いつも、手からこぼれた何かを、惜しむことの他に。

「人は、生かされたから生きているのではありません。生かされたことに、たとえ何の価値が見出せなかったとしても、それでも人は生きていることに意味を見つけなくてはならないのです。人は、生きた証を残さなくてはならない。それが、死んだ者に対する、生き残った者が最低限果たさなくてはならない礼儀であると……、葉容公子」

 李鳳は葉容を真っ直ぐ見つめて言った。

「貴方の兄弟は、それを、そのことの意味を知っていたはずです。……貴方には、わかりませんか?」

 刹那、葉容の瞳の色が歪んだ。

「あー、うざってえ!」

 そのどこか緊迫した空気を破ったのは炎雷であった。

「あーもー説教くせえな、おい。何餓鬼に小難しいことばっか言ってんだよ。そんなん俺だってわっかんねーよ。黙ってんもの限界。俺が話す」

 ぼりぼりを頭を掻くと、炎雷は葉容に向き直った。

「おい、坊主。俺は炎雷ってんだ。お前の糞親父、ぶっ殺したのは、俺だ」

「……貴方が」

「恨むか?」

「……」

 葉容は無言で首を横に振った。

「まあ、ひでえ親父だったみてえだからな。俺の目的は俺が退屈せずに楽しく生きれること。俺にとってはそれが生きる意味であり、それが信条だな。そいつらは、違うみてえだが」

 ふんっと笑うと炎雷は李鳳と頑堅を見やった。

「無論、わしは国の為を第一に思うておるわ」

 むんっと頑堅は答えた。

「国の為……」

 葉容は、かつて同じ事を何度も口にしていた兄である斉燵の事を思い浮かべた。

 兄は、兄達はいつも国や民の事を第一に考えていた。

 それに対し、己は……。

「……僕も、出来うるなら、この国の為に、何か……」

 気がつくと、葉容はそう言葉に出していた。

「……貴方は、王になりたいとお思いですか」

「王……」

 李鳳の問いに、葉容はただその言葉を繰り返す。

「……わかりません。王とは、そもそも兄がなるものでした。なるはずのものでした。それに、王は、父は、明らかに道を誤りました。だけど、罰せられなかった。それは、父が王であったからでしょう」

「…………」

「王とは、強く、正しく、間違ってはいけない存在のはず。兄様はきっとそうなれたはず。だけど、僕には、そうなれる自信はありません……」

「……貴方は本当に賢いお子だ、葉容公子」

「いいえ、僕は、ただ臆病なだけです」

「……この国は、近く戦乱の渦中へと巻き込まれていくでしょう」

 突然の話の切り替えに、俯くばかりだった葉容は顔を上げた。

「他の信・勇・仁・知・忠の五つの国、それぞれの現状は皆一種の過渡期に入っています。また、この義の国も同じこと。これがいずれ、戦乱の目となる事は容易に窺い知れる。今この国を傾けるわけにはいきません。この国は強くあらねばなりません。わたしはいずれ、この男、炎雷を王に据えたいと思っています。この炎雷は、強い。きっと他国に負けぬ国を築き上げることが出来るでしょう」

 そう言われ、思わず葉容は炎雷を見た。

 炎雷はじっと李鳳を見つめている。

「ただ、物事には順序というものがあります。いきなり湧いて出たどこの誰とも知れぬ者をいきなり王にすることは出来ません。簒奪という形をとれば不可能ではありませんが、それはできることならしたくはありません。それをすれば国が混乱する。混乱は国の疲弊を呼び起こす。そこを他国に衝かれるわけにはいかないのです。炎雷には功績を上げさせ、それが国中に浸透してから、王の座に就いてもらう。だからと言って、それまでの間、王座を空けたままにするわけにはいかない。然るべき時まで、炎雷に王座を譲り渡してもらうまでの間の名目上の国の王を、わたしは今必要としています」

「国の、王……」

「しかし、誰でも良いわけでは決してない。斉家の血筋ももちろんですが、それよりも大事なことがある。この国にとって害になる者にその座を渡すことは出来ません。義王斉衡の愚を再び踏むことはできないのです。……葉容公子、貴方にとっては酷な願いかも知れない。だが、ぜひ受け入れてほしい」

 そう言うと、李鳳は静かに葉容に向かって頭を下げた。


「貴方に、空位くういの王となって頂きたい」

空位=実権の無い地位、の事。

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