上界への道
「…あぁ、疲れた。」
「私の回復は遅いんだが…。まったくもう、どうしてくれるんだ。」
「そういや、お前これからどうすんの?」
「行くあてはない。森の中をふらつくさ。」
「なら、一緒に行動しないか?というか、人間の世界に戻ってきなよ。」
「…その手もあるな。一緒に、か。いいな。」
気づくと、僕と堕天使は友達かのように話していた。あ、そう言えば名前聞いてねぇ。
「ん、ところで名前は?」
「この世界では堕天使としか呼ばれてなかったが…人間の時は、南月杏と呼ばれていた。南の月に、果物の杏。」
「館斬。呼ぶときは斬でいいよ。」
「そうか。斬。」
「なに?」
「なんとなく呼んでみた。」
「なーんだ。杏。」
「呼んでみただけとは言わせないぞ。」
「ハハハハハ。」
ほんと、さっきまで戦ってたのになんだろ。まるで友達じゃないか。
「そろそろ疲れも取れた。行こう。」
「ごめん。行こうって言われても、人間の世界への戻り方がわからないんだ…。」
「それなのに一緒に行こうとか行ったのか!」
「…ごめん。けど、行くあてはあるから。とりあえずついてきて。」
「まったくもう…。」
森を出て街に戻り、吸血鬼の家に戻る。ヨリコさんが出迎えてくれた。
「あの…人間の世界に戻るにはどうすればいいんですか?」
「上界への戻り方…そうね…。条件があるから、それを満たさないとね。」
「ちょっと待って。後ろの子、一緒に連れてくの?」
「はい。一緒に行くかと聞いたら行くと言ったので。」
「め、珍しいこともあるものね…。」
「…?」
「そうだ、条件ね。まず、エネルギーブースト使える?」
エネルギーブーストは、超強力なエネルギーを敵全体にぶつける全体攻撃である。森の中で大木の切り株のような魔物から吸収した。
「はい。」
「空飛べる?」
コウモリ食ったから…多分飛べるってことでいいんだよね?
「一応。」
「なら、いいね。夫が来たらその事はまた詳しく話しておいて。」
「はい。」
吸血鬼さんはその日帰ってこなかったので、2人で布団を借りて寝た。
翌日。目が覚めると不思議な感覚だった。僕は1人っ子で基本1人暮らしのようなものだから、隣に誰か寝ているという経験は7歳の時から無い。杏が隣に寝ていると、すごく不思議な気分になった。誰かが部屋をノックする。杏を起こさないように小声で返事をする。
「私だ。堕天使の方はまだ寝ているのか。」
「はい。何の用ですか?」
「彼女が寝ているのなら、外で話そう。出てきなさい。」
シャンデリアの下がった食堂で吸血鬼さんと話し込む。
「まず、あの堕天使は本当に上界へ戻ると言ったのか?」
「はい。一緒に来ないかと言ったら、じゃあ行く、と…。」
「連れ戻して欲しい人というのは、実はあの堕天使なのだよ。」
「そうだったんですか。」
初耳だ。
「では…好きな時に戻りなさい。戻り方はわかるのだろう?」
「はい。今までありがとうございました。」
「堕天使を起こしてきなさい。朝飯を食べていけばよい。」
杏を抱えて、黒い羽根で空を飛ぶ。空中でエネルギーバーストをすることで、地殻とここの『裏側』の空間を繋ぐ部分を強大な力で歪ませ、上界に戻れるのだと言う。
「おーい!!待て、言い忘れておった!!」
吸血鬼さんが飛んで追いかけてきた。
「なんですか!?」
「ここと上界とでは、時間の流れが違うのでな!!上界では、多分まだここに飛ばされてきた当日の夜だぞ!!」
「わかりました!」
さて、ここまで来たら問題ないな。行くぞ。
「結構すごい力かかるかも知れないから、しっかり掴まってくんない?」
後ろを飛んでついてきていた杏に声をかける。
「わかった。」
短い腕が僕のシャツに巻き付く。その後、心の中で念じて両手を広げる。刹那、すごい衝撃が僕達を襲う。
「「うわぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!!?」」