堕天使の登場
次の日。吸血鬼の奥さんであるヨリコさんから少し話を聞いた。ここは地球の裏側で、地球上ではマントルがあると言われている場所だと言う。たまに地殻にゆがみが生じ、その時できるすき間から裏側に入れる。普通は入ってきた人間は返されるのだが、まれに育てられる。そして、今こっちの裏側の世界で生きている人間の中で力を持って、育てられているのが僕を含めて2人いるらしいこと。本当はある程度力が成長したら返されるのだが、僕以外のもう1人の人が帰りたがらないのだと言う。そして、僕にはこの氷吸血鬼の力をもってそのもう1人の人間を連れ戻して欲しいらしい。まぁ、こんな内容の話を聞いた。
暇なので、地球の裏側の街をふらついた。そこらじゅうに魔物がいて、襲ってこないのかと不安に駆られる。だが、大概の魔物は仲間で、そんな不安は一切要らないらしい。森や海辺に行くと、敵だらけでそうでもないらしいが。
「おい、そこのお前。」
何匹か魔物を倒した後、森の中程で声をかけられた。なんだ、この高飛車そうな幼女は。しかも羽根はえて浮いてるし。天使?
「僕ですか?」
「そうだ、お前だ。」
こいつ…。マジで小せぇ。2歳児の胸を少し大きくした感じ?茶髪に近いショートカットの髪に、赤いポインセチアの形をした髪飾り。服は黒くて…何というかすごく大胆。なんだ、幼女のくせにこの色気は。
「僕に何の用ですか?」
「お前、人間だろ。」
「そうですが?」
「私もそうだった。なぜこんな姿になってしまったか…。」
「その幼女のような格好が嫌なんですか?」
「幼女ちゃうわ!!私は人間だったら13じゃボケ!!」
じゅ、13…、この外見で。
「もしかして、あなたも人間なんだったのなら、この世界に来て何か力を与えられたんですか?」
今気づいたが、伸びて尖った歯だとしゃべりづらいな。
「そうだ。私は天使に食べられた。しかし、やるのに失敗したとか言ってこんな姿にさせられた。私の美脚はこんなに短くされ、くびれはなくなり、細かった指はぷくぷくの短いものになってしまいまったくもう…。顔は大きく見えるし。」
「胸は?」
心にもないことを聞いてしまった。
「そこは尋ねるなバカチン!!」
どうやら人間の時は今より小さかったようだ。
「つうか、力はどんなの使えんの?」
「私としてはこの力は堕天使だと思っているのだが…。とりあえず、ほれ。」
そういって漆黒の矢を放ってきた。危ねぇ危ねぇ。なんとかマントで防ぐ。
「おまっ…!!」
「ほう、なかなかやるではないか。お前は…吸血鬼といったところか。そして力を得たのはつい最近だろう?」
ほとんどお見通しじゃん。あなどれない幼女だ。
「ほとんど正解だね。けど、僕はただの吸血鬼じゃあない。氷吸血鬼だ。」
「まぁよい。では、お互い本気でいくぞ。」
「そうだね。」
こうして、戦いが始まった。
「ダーク!!!」
防ぎきれないなこれは。吸収だ。
「うぉっ…!!!」
強っ!!ドラゴンより絶対強い…。でも、能力吸収しちゃえばこっちの物だ。まだ使わないことにしよっと。あれっ、もしかして1回吸収した能力ってまたいつでも使えるの?よし、使ってみよう。さっき森の入り口の魔物から食らった『ファンキークラッシュ』でも使うか。
「ファンキークラッシュ!!」
猛り狂った獣が何度も堕天使に襲いかかる。3回直撃し、相手はけっこう消耗したようだ。よし、怯んでいるうちにジャックナイフでめった斬りだ!
「やるなぁ…!だが私も雑魚じゃない!ブラック・スターライト!!いっけぇ!!」
尋常じゃない連射が襲いかかる。防ぎきれず、何発か当たる。
「どうだ、痛いだろう?」
「まだ、まだだ…。」
さて、どうする?弱点さえあれば…。羽根?羽根もいじゃう?そうだ、多分それだ。けど…どうする?突っ込むか。よし、行こう。覚悟を決めて突進する。相手は一瞬怯んだが、すぐに漆黒の矢が飛んできた。マントで防いでいるものの、何発か直撃した。もう少し、もう少し近づこう。そしたら、このジャックナイフで…。
「ふっふ…。まだこの矢が残っているぞ…。」
そう言って特大の矢を取り出し、放つ。幅広の刀身でその矢を防ぎながら、もう1つのジャックナイフを背中の羽根に向かって投げる。ジャックナイフは一直線に羽根の付け根に飛んでいく。羽根は切り落とされた。が、大量のコウモリが湧くように出てきた。2匹のコウモリが相手の体を支え、羽根の代わりをしている。残りの大量のコウモリが、僕に襲いかかってくる。どうすりゃいいんだよこの大量のコウモリ。はたき落とすだけでは退治しきれずイラついたので本能に従ったら、1匹のコウモリを食べてしまった。うげぇ…まずい、まずすぎる…。その時、背中に衝撃が走った。体が少しずつ、ふわりふわりと浮いていく。艶のない黒いマントが思いっきり広がり、やがて2つに裂ける。それは大きなコウモリの羽根のようだった。ばさり、ばさり、羽ばたいて上空に舞い上がる。すげぇ、やっぱ僕すげぇ…。
「お前!!1人だけ飛びやがって、卑怯だぞ!!」
「羽根があるならここまで飛べるくせに。」
右手がうずく。どんどん右手の温度が失われていく。さて、今僕の中の氷吸血鬼がしたくてうずうずしてるのが多分、必殺技なんだよな。よし、じゃあしてみるか。
「いっくぞーーーーー!!!!」
一度大きく羽根を動かし、右手から相手に突っ込んでいく。右手が通った軌跡が凍っていく。その上を滑るように、すごい速度で僕の体が下降していく。右手を相手に突き刺す。勢い余って首筋に噛みつく。
「もう…いいか?」
「…うん。仕方ない、私は負けだ。」
こうして、勝負はついた。僕って、堕天使より高く飛べるんだ…。ん?堕天使って堕ちてるんだよな。じゃあ、大して飛べないのか。んー…ま、いいや。とりあえず、新しい能力色々手に入れたからいいや。