双方の進化(2)
丘に着いた。行贄さんが小型の拳銃、町田さんがスタンロッドを武器に戦っているが、圧倒的に押されている。
いきなり襲われそうになったので、とりあえず戦う。
里亥さんが車のドアで機械兵を弾き飛ばす。車を派手にドリフトさせ、地上の敵を一掃する。
とりあえず周りを見渡す。塔があった辺りに、もう一度塔が建っている。動きを見る限りでは、更に強化された機械兵が配置されているようだ。塔もただ機械兵を集合させる目印的な役割ではなく、拠点としての機能が追加されているようだ。あれ、けど何でメールが来なかったんだ?機械兵現れたら来るはずなのに。後で里亥さんに聞いてみよ。
これは長丁場になりそうだ。機械兵の装甲が強化されていて、近接攻撃が通じにくい。里亥さんのトライトンのカンガルーバーも壊れかけていて、威力は落ちている。
「斬!私達ってまた飛べるか?」
陽響が聞いてくる。
「飛べるよ!飛べるけど…」
「けど?」
「こいつら、ただ飛んで攻撃するだけじゃ通じにくいと思う。だから、飛ぶんだったら他の技も与えるよ!」
「わかった!それじゃあ、斬、首筋を貸すぞ!」
「んじゃ、借ります!」
「斬、こっちも!」
「斬さん、私にも!」
こうして、全員が氷属性の技を使えるようになった。さぁ、殲滅するぞ!!
ほとんどの機械兵を倒し、残り数体となった時。
「なんだよあれ!!!」
南町さんが驚いている。
「えっ………。」
そこには、想像を絶した光景が広がっていた。40mは超す、超巨大な機械兵が飛行していた。まばゆい光を放ち、やがてそれは塔を吸収するように塔と合体した。
その超巨大機械兵からは、大量の飛行可能な機械兵が出てきた。そちらに気を取られた磨夏が、速攻で一気に倒そうとした瞬間…
僕は気づいた。大量の機械兵で超巨大機械兵の存在をカモフラージュさせ、腐るほどにいる飛行機械兵に気を取られている隙に、周囲の腐るほどいる飛行機械兵は気にせずにそれと共に気を取られている僕達を叩き潰そうとしているのだと。明らかに賢く、そしてゲスに、そして姑息になっている。イラつく。消えてくれ。僕の目の前から消えろ。
その時。僕は磨夏に忍び寄る巨大な手を確認した。まずい、磨夏が…!!
「磨夏!!」
斬さんの声が響く。すぐに後ろを見ると、不思議な金属感のある大きな物体が迫っていた。え…?どうしよう。叩かれる…?叩き落とされる?周りの機械兵が次々と叩き潰されていく。逃げよう。回避しないと。けど、どうやって?どうすればいいの?誰か、誰か…!!
磨夏がまずい。飛べ、僕!もっと、もっとスピードを出せないのか!!お、追い風だ!!よし、スピード乗ってきたぁぁぁぁぁ!!!!
「磨夏!!!!!!!!!!!」
磨夏が叩かれるまであと50cmというところで、巨大な手と磨夏の間に滑り込んだ。無我夢中だった。磨夏を掴んで、下に回避する。が、予想よりも早く、一気に地面が迫ってきた。遅れて、背中や脇腹に痛みが走る。どうやら叩き落とされたようだ。このまま落ちたら、磨夏は助からない…!磨夏だけは、助けないと!!我を忘れたように、とにかく助ける為の行動を急いでいた。
斬さんが思いっきり羽根を羽ばたかせる。地面が遠ざかる。エビが跳ねるように斜め上に舞い上がった。私は状況が何もわからなかった。恐らく私は機械兵にやられそうだったんだ。それを、斬さんが助けた結果…今こうなってる。斬さんは怪我してないかな?私を助けたせいで、私は何とかなったかも知れないのに。何でこんなに人の為に動けるんだろう。落ちている最中だってずっと、自分が下になるようにしてくれてたし。ほんと、優しい人だな…。
頼む、地面直撃だけはやめてくれ…!僕は強く願って羽根を思いっっっ切り動かす。何とか斜め上に舞い上がったが、ゴツい衝撃が背中を襲った。どうやら塔にぶつかったようだ。激痛と共に地面に滑り落ちていった。
「斬さん!!斬さん!!」
あ、僕は磨夏助けてたらこうなったんだっけが…。
「痛ってぇ…。」
あばらぐらいは折れていてもおかしくない痛みだ。僕は気づいた。磨夏の頬に、血か涙か、もしくは両方がついていることに。
「血、出てるぞ…。」
ポケットからティッシュを出して、磨夏の左頬の傷のあたりを拭き取る。
拭いている最中、気づくと磨夏は泣いていた。なかなか止まらない血を吸ったティッシュの上の方に、透明な染みが出来ていた。
「何で…自分の怪我の方が大変なのに、…よく人に気遣えますね。」
「大丈夫だって…。だいぶ、痛みには慣れたから。」
「大丈夫って…どう考えても大丈夫な表情には見えませんよ!!」
「そんな泣くなって…。傷に染みるぞ。」
「…ありがとうございます。ここから逃げましょう。」
「いや、僕は逃げたら余計見つかるよ。動きが遅くなってるからね。とりあえず、僕はもう少しここで休んでるよ。お前だけここから離れなよ。」
「そんなの嫌です!!こんな所いたら、見つかるのも時間の問題です!!」
「2人でいて、両方とも動けなくなったらどうする。誰も、僕達がどんな状況かわからなくなるだろ?だから、お前が陽響に僕達がどうなってるか、どんな状況かを伝えてくれ。頼むよ。」
「…わかりました。」
そう言って、磨夏は飛んでいった。しかし、戻ってきた。
「絶対に、絶対に死なないでくださいね!!」
「…わかってるって。気をつけろよ。」
さて、どうしよう。皆はどうやら撤収を始めたようだ。行贄さんと町田さんが機械兵の注意を引き付けている間に、里亥さんのトライトンに皆が乗り込む。
目を凝らすと、南町さんがこちらに歩いてきていた。
「その様子見る限りじゃ、歩けなそうだな。」
「頑張れば、立てそうですけど…。」
頑張って立とうして膝を浮かせると、スッと南町さんが腕をそこに入れて僕を持ち上げた。
「痛たたたたたたたたたたたたたた」
「お前、背中打ったのか。」
「はい。」
「頭打ってないならいいさ。よし、急ぐぞ。」
トライトンの後部座席に寝かされた。荷台の窓から丸見えで、皆の視線が気になる。
「んじゃぁ、逃げるぞ。」
アクセルを踏み込むと、丘をほぼドリフト状態で半周してから丘から下りる道に入った。その道はすごくデコボコなのに、メーターの表示は約100km/h。たまーにジャンプしているのがわかる。恐怖の逃避行で、怪我の悪化がすごく不安だった。




