双方の進化(1)
全員が僕の家に集まった。ちなみに里亥さんにはメールで詳しく伝えてあるので来てはいない。
冷房をつけておいた涼しいリビングに全員を座らせる。
「で、話は?」
陽響が促す。
「うん、そうだね。突然ですけど、『名月杏』て言ってわかりますか?」
1年生は皆知っているような表情をしていた。
「っと、信じられないかも知れませんが、僕が連れて歩いてた3歳位の子供いたじゃないですか。あれ、杏なんです。」
沈黙。そして騒然となる。
「「「「えぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!??」」」」
「え、行方不明だった間ずっとかくまってたって言うんですか!?」
結菜が驚愕の表情で問いかける。
「うん、その…まぁね。」
「で、でもさ、なんであんなに小さかったの?中1の身長じゃないでしょ。」
葵衣さんが聞いてくる。
「それはですね…。前に戦った丘で雲の中に突っ込んだんですよね?その雲の中の世界…そこは地球の裏側なんです。僕は、4月にも1度そこに行ったことがあるんです。そこで今の力を手に入れました。その時に、杏を見つけました。そして家にかくまったんです。杏も地球の裏側で力を手に入れたんですが、何かが失敗して格好だけが子供の頃のようになってしまったんです。その姿について、杏はすごくすごく悩んでいました。そして昨日、前の中学生の時の姿に戻れるか試すために、地球の裏側に行きました。結果、杏は前の中学生の時の姿に戻れました。杏の身長が小さかったのは、力を手に入れた副作用って感じですね。」
「てことは、昨日副作用を直しに行ったってことか。力は今まで通り使えるのか?」
「うん。今まで通りちゃんと飛べるし、弓だって使える。」
「なら、よかった。」
その時。全員の携帯が一斉に鳴る。
「またっすか。なんで斬さんの家に来るといつもこれ来るんですかね。」
大夢が言う。
「来たからには、行くしかないだろ。」
陽響の一言で、全員がまとまった。
「行こう。」
皆で僕の家の扉を開け、それぞれ一旦準備しに戻った。
準備完了のメンバーが全員いつもの旧港駐車場に集まった。里亥さん達は諸事情で来れないそうだ。
「なかなか来ないな。」
スピーカーなどのセッティングを終えた南町さんが言う。
「だからね。何やってんだろ。」
葵衣さんも準備体操をしながら答える。
「もしや、行動パターンが変わったのか?」
陽響の推測に、大可士にはピーンとくるものがあったようだ。
「奇襲か?」
大可士が長い竿をテトラポットに突っ込む。刹那、テトラポットの隙間という隙間から機械兵が飛び出てきた。
「やっぱりか…。」
冷静に竿先で1体を突き刺す。
他の皆も行動を開始した。
南町さんのスピーカーがいびつなノイズを吐き出し、機械兵達を混乱させる。その隙を狙って磨夏が素早く3体を処理する。
結菜が苦戦しているのを見て、葵衣さんと朱魅がそれぞれダンスと歌で一部を引き付ける。お、これ背中狙いでいけるじゃん。
「葵衣さん、いただきます!」
「はいよぉ!」
氷をすごい勢いで噴出させる。一発で2体を倒せた。よし、次は結菜の救援だ。氷噴出を全体攻撃に変更して、周囲を一掃する。1体生き残ったのを結菜が斬り飛ばす。
「ありがとうございます。助かりました。」
「大丈夫か?無茶すんなよ。」
陽響が一斉攻撃を指示しようとした瞬間…。
生き残っていた全ての機械兵が上空に舞い、消えた。
「は?」
陽響から間の抜けた声が出る。
突如、上からひょうのように金属の弾が降ってきた。
「ぬわっ!?」
「おいおいスピーカー壊れるだろうが…!!」
しばらく、皆回避に徹する。
「上空で戦闘すればこっちに勝ち目はほぼ無いと考えてるんだろうな。」
冷静に大可士が分析する。
「なら、斬、頼む!」
陽響が指示を出す。
「わかった。行ってきます!!」
そういえば、長時間飛行って出来るのか?ま、やってみるか。
頑張って5体は倒した。だが、至近距離で弾を1発食らってしまった。体勢をちょっと崩しただけで、一気に集まってきた。明らかに前の機械兵よりも賢くなっている。こりゃダメだ。一旦逃げよう。
「那深!何か飛べる生き物で援護して!!」
地面に近づいて那深に応援を求める。
「わかった!」
って、ほんとすげぇな。海からトビウオ飛んできたし。この辺にはいないんじゃないの!?
飛んで攻撃を仕掛けてみるが、やっぱりつらい。トビウオの援護はあまり役に立たず、ほぼ1人の戦いである。
あーあ。杏がいたらな…。空飛べるし、遠距離攻撃出来るし。このパーティー、遠距離攻撃出来る人少ないよな。
ダメだ、どうしよう。上空だからエネルギーブーストすれば裏側行っちゃうし、ジャックナイフで刺してくだけじゃ効率悪いし…。
この時、僕は閃いた。僕が技を吸収出来るんだから、他人に技を与えることも出来るんじゃね?よし、やってみよう!!
こうして、僕は一旦地上に降りた。
「斬、どうしたの?」
来実が聞いてくる。
「1つ、作戦がある。大可士、ちょっと痛いぞ。」
「ん?」
「首筋を借りるぞ。」
大可士にだけ聞こえる声で言う。
「好きにしていいぞ。」
「では、容赦なく。」
大可士の首筋に噛みつく。
「ざ、斬さん!?」
「おいおい何してるんだよ!?」
伝われぇぇぇ!!羽根よ、生えるんだ!!
数秒後、大可士の体から羽根が生えた。
「おぉ…。俺、空飛んでるじゃないか。」
僕は皆に向かって言う。
「こういう事だ。だから、その…少しだけ首筋を貸してください。」
どんな反応が返ってくるのかと不安になったが、皆の反応は肯定的だった。
「その手があったのか!さすがだ、斬!!」
陽響が嬉しそうに声をあげる。
というわけで、全員の首筋を噛んで羽根を生やした。正直言って、女子の首筋を噛んだ時はとても興奮しそうだった。
全員が飛んでいる光景は、すごくかっこよかった。自由に飛び回り、機械兵を倒していく。さて、僕もそろそろ飛びますか!
戦いは終わった。
「空を飛んだのはすごく新鮮な感じでしたよ!」
磨夏が嬉しそうに言ってきた。
「あれ、僕1人だったら難しかったし。勝てたし良かったよ。」
楽しく話をしていると、黒いトライトンが滑り込んできた。里亥さんだ。
「やっぱりこっちにいたか。」
「どうしたんですか?」
「あの丘があっただろぉ?あそこにまた機械兵がたかってやがる。」
「ま、またですか!?」
「あぁ。しかも賢くなってやがってよぉ…。こっちが片付いてるなら、今すぐ来い。頼む。」
「わ、わかりました!!」
「車内に乗れるなら乗れ!無理だったら荷台に捕まっとけ!!」
僕は、荷台の一番前の方に座っていた。窓から車内が見える。
「行くぞぉぉ!!」
アクセルを蹴り落とすように踏むと、少しタイヤを空回りさせながら発進した。
一体、丘では何が起きてるんだろう…。あんなに里亥さんが慌ててるなんて。




