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里亥さんの秘密(2)

 ガレージの中には、車が5台。一番左では黒いトライトンが睨みを効かせている。その隣にはシルバーのホンダ・エリシオンプレステージのV6仕様、その隣は黒いホンダ・シビックタイプRユーロ、その隣は赤いホンダ・ビート、そして一番右にはシトロエン・C5のワゴン。個性的な車ばっかり…。

「お前、車に興味あんのか?」

「はい、とても。」

 「そうなのかい、そいつは嬉しいよ。」

行贄さんが奥から出てきた。右手にはアルミホイール、左手には拭き取り用の布が握られていた。そういえばビートの右前のタイヤが無い。

「ビート、わかる?古い車だけど。」

「はい。軽自動車ですよね?」

「その上オープンだからこの上は無いくらい狭いけどね。」

「ナビつけようとしたらインパネにはまらなかったんだとよ。」

里亥さんが付け加える。

「5台も車ありますけど…それぞれ誰のですか?」

「おぅ…まず一番左の黒いピックアップが、俺のトライトンな。」

何度見ても、とにかく赤いデカールが目立つ。カンガルーバーにくっついている大きなフォグライトも鮮烈な印象を残す。艶消しブラックのホイールも迫力がある。町田さんが乗り込んで空ぶかしをする。トラックに似ているような排気音。なかなか渋くていい。

「その隣のシルバーのも俺ので、エリシオンプレステージ。」

外装はサスペンション以外は手を入れていないようだ。車高の低さが印象的だ。ホイールは純正品。町田さんが空ぶかしする。僕は耳を疑った。重量級ミニバンらしからぬ、ミニバンにはもったいない位の豪華でスポーティーな音。思わず声が漏れてしまった。

「その声だと、この音にどうやら惚れたようだな。」

「はい。…あれ?内装LEDのライトつけてますか?」

「おう。ちょっと光らせてみっかぁ?」

すごい。キラキラだ。もはや車の内装のレベル越してる…。

「めっちゃ金かかったぜこれは。…こっちの黒いシビックタイプRユーロも俺の。」

フロントのLEDデイライト以外はオール純正品のままだ。町田さんがふかすと、どこまでも伸びるような重い音が響いた。ザ・スポーツカーという感じだった。

「ここまでは俺の車だ。こっちの赤いビートは由美子のだ。」

「私の車は私が踏むよ。」

そういってアクセルを踏み込んだ。軽やかそうな外見とは結びつけづらい、案外低い音がした。

「この音が好きだから、純正のマフラーで5年持たせてるんだ。」

「えっ、純正なんですか!?そんな持つもんなんですか…。」

「手入れしてれば大丈夫。」

「んで、これが俺のシトロエンC5のワゴンだ。」

白い車体は全て純正品で、なかなかいい雰囲気をかもし出していた。排気音もそれ相応の高級そうな音だった。

 「にしても、すごい車ですね、全部。ところで、本題は何なんですか?」

「おぉ、そうだな。とりあえず、皆上がってくれ。」


 帰り道。とんでもなくヤバい話を聞いた気がして、僕達はなんとなく重かった。

 里亥さんの話をまとめると大体こういう事だった。

 まず、日本政府は政策として特殊才能開化装置装着を義務付けさせる7年前に、極秘で特殊才能開化装置を無作為に選んだ妊婦10万人の子供に装着したこと。その子供の中に、里亥さんも町田さんも行贄さんも含まれていたこと。3人とも『凄腕運転手』の才能を開化させたこと。

 次に、3人それぞれにまつわる話。

 里亥さんの両親は、こっそり海外製の武器を売買する会社を経営していた。そんな危ない仕事をしていたので、里亥さんも危ない道に進んでしまった。常軌を逸した運転技術を買われ、暴走族に。しかし途中で町田さんと行贄さんと一緒に事情で抜け出し、ここのやけに豪華だった空き家を買い、親の会社の分店的な感じで商売をしながら、今では金銭的には恵まれた生活をしているそうだ。最近はソーレーン連邦の機械兵との戦いの情報収集をしていて、その結果僕達に会ったということだった。

 町田さんは、物心ついた時には既に行贄さんと一緒に住んでいたという。中学で里亥さんと出会い、一生の友人になると確信したという。その後、暴走族に入ったあと抜けてからは里亥さんの仕事を手伝いつつも超自由人となっている。

 行贄さんは、物心つくといつの間にか町田さんと同居していた。学校では女子からは「男たらし」的な目で見られたため女友達はほとんどいないらしく、話の合う里亥さんと町田さんと常に一緒に行動していたという。暴走族時代には女性ということで物珍しがられて性的に危なかったそうだが、里亥さんと町田さんの2人に助けられたという。それがエスカレートしだしたのをきっかけに暴走族を抜け、今では里亥さんの会社のもとで働きながら自由な生活を送っている。

 3人は「何か自分の力を生かしたい」と考え、本来政府が望んだ通りに力を使ってみようと考えた。そして行動に移したらいきなり僕達に会ったのだという。今日呼び出したのは、どうせ目的が同じなら一緒に戦わないか、という提案をするためだった。というわけで、その提案は願ったり叶ったりだということで了承した。最後にメールアドレスと電話番号を交換して別れた。


 にしても、別れ際に僕にだけ言った一言…。「お前よぉ、周りいい女ばっかじゃねぇか。1人くらいくれよぉ…。」その場は誤魔化したけど、あなたの株ガタ落ちですよ?ま、根はいい人だってわかってるから今まで通りにするけど…。


 「じゃあね、斬。今夜チャットで。」

来実が言う。

「わかった。」

「じゃあね、斬。」

鳴実とも挨拶を交わし、2人と別れた。ここから次の曲がり角まで、ほんの少しの間だが陽響と話した。

「今夜の話は秘密会話機能でするから。表にいなかったらそっちに行って。」

「うん。わかった。じゃあね。」

「んじゃ、今夜チャットで。」

こうして、僕はここから杏と一緒に家に向かった。

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