かっこいい人が多すぎる
斬は、秋田県の南西の海沿いのにかほ市の中の平沢という地区に住んでいる。三方を山に囲まれ、北部にそそりたつ鮭呑山は有名で、登山客はかなり来る。凸沢と隣町との境界にもなっている田沢川は、鮭呑山から湧き出る清水を幾多の滝を落ちて海まで運ぶ。そのお陰で、県内有数の港町として栄えている。実際、ど田舎には似合わないような大きな港が2つもある。
そんな街に住む斬は、山に近い所にある凸沢中学校に通っている。生徒数400人弱、特殊才能開化装置装着者率は43%(ちなみに装着率全国トップ)、装着者の内の起動率は97.3%(これは全国平均のちょっと上くらい)の学校で、部活動は盛んな方である。
斬は2年2組の委員長をしていて、人からの信頼は厚い方だ。部活では卓球部の副キャプテンが内定していて、嫌われ者(主に後輩から)の次期キャプテンが内定している人よりも副キャプテン(内定)である斬の方が信頼されている。この卓球部というのもちょっと不思議な部で、先生は2人いるが練習にはほとんど来ない。よって、かなり自由度の高い部になっている。
2013年4月。1年生が入ってきて、部活にだいぶ活気が戻った。3年生5人(男子2人女子3人)、2年生4人(全員男子)の9人の部活は寂しすぎたので、1年生6人(男子2人女子4人)の入部は僕も大歓迎だ。つっても、まだ少ない方か…。3年生いなくなったらまた少なくなるし。にしても、今年の1年生は元気だし積極的だ。さっきから1年女子4人まとめて僕が教えてるんだけど、ちゃんとわからない所質問してくるし。去年の僕達はこんな感じじゃなかったな…。
確か1年生も全員起動してるんだっけ。3年生は女子全員、男子は南町さんが起動してるらしいし、2年男子で起動してないのは僕だけ…。つまりこの部で起動してないのは金藤さんと僕の2人。皆かっこいいな…。
部活が終わって帰り道、後輩全員と話しながら帰ることになった。
「斬さんって起動してるんですか?」
今聞いてきたのが水林磨夏。足がすごく速いようで(県大会2位)、神速師の才能を起動させられる。
「いや、起動してないんだ…。」
「それは意外ですね。何かしら特技とかありそうなのに。」
この子が齊藤朱魅。3年女子の齊藤葵衣さんの妹で、小4の時動画共有サイトに親が投稿した歌声が大反響を呼び、シンガーの才能を起動させられるようになった。ちなみに姉の葵衣さんは小6の時にダンス大会で優勝、ダンサーの才能を起動できるようになった。
「熱中できるものが無いんだよね…。何事も中途半端にはまる感じで。」
「その気持ち、なんとなくわかります。先月起動できるようになるまでそうでしたから。」
こう言っているのが中村結菜。お兄さんとチャンバラしているうちにおもちゃの剣の使い方を完璧に覚えたという。そして先月家に強盗が入った時、おもちゃの剣で強盗を撃退。その時に偽装剣士の才能を起動できるようになったという。
「いい加減、起動させたいな…。」
起動してる人かっこいいし、とは言えなかった。さすがに後輩の前では恥ずかしい。
「けど、実際起動しちゃうと少し戸惑いますよ。」
そう言ったのは満越すずみ。5歳の時、大木の下で雷に打たれたものの、奇跡的な回復を見せて全国を驚かせた少女である。その際に握っていて離さなかった大木の枝に雷の力が宿り、雷術師の才能を起動させられるようになった。
「実際そうなのかもね。けど…人の役に立ちたいんだよね。」
僕はどうしてもその才能を手に入れたかった。起動させたかった。だから、色んな事に中途半端にのめり込んでしまうんだと思う。
「最初は起動してる人がかっこいいと思ってましたね、俺は。」
僕と同じ考えの人がいた!これは嬉しい。後輩だが、僕からすれば先輩みたいなものである。轍海督。前に一度、僕が防波堤で釣りをしていた横で19kgを超える巨大シーバスを釣り上げて一躍有名になった。フィッシャーマンの才能を起動させられる。
「へぇー、そうなのか。海督くんも…海督くんは、そうなのか。あの時、マジですごかったな、あの迫力。つか、大夢のあのぶっこ抜きにも驚かされたし。」
「火事場の馬鹿力ぁ!!てやつですよ!」
この賑やかな人が、枝牙大夢。よく海督と一緒に釣りに行き、当時小4とは思えない怪力でその巨大シーバスの口を片手で掴んでランディングしたのだ。その写真が全国紙にも載り、2人そろって名を轟かせたのだ。その結果、前にも言ったが海督はフィッシャーマンの才能を、そして大夢が怪力師の才能を起動させられるようになった。
「それじゃ、僕はこの辺で。また明日。」
「「「さようなら。」」」
「じゃあね。」
はぁぁ…。ったく、この部かっこいい人多すぎ。いい加減起動したいよマジで…。