孤独
「・・・ どうか、よろしくお願いします。娘が幸せでありますように。」
久しぶりに参拝者がきた。年の頃は60歳を超えているだろう。髪の毛もだいぶ白いおじいさんだ。
参拝者の心は、できる限り覗こうと思っている。本音を把握することで、参拝者の悩みを根本的に解決しようと思っているのだ。あたいは「神様修行中」の身だ。
年寄りの心の中をのぞくのは、若い人をのぞくより、はるかに難しい。いろんな経験の蓄積が複雑な色を加えて、なにが本質かわかりずらい。何よりも頑固になっているので、心の殻が硬すぎて穴をあけて中を覗くのが難しい。特に、男性は厳しい。
「ねえ、レフティ、じいさんの心、読めた? じいさん、娘のことでなにやら悩んでることはわかったけど、あとよくわかんなかった。」
左「うーん、娘さんとはずいぶん会ってないみたいね。」
右「・・・ お腹すいたよー。 ロックちゃん、油揚げ買っておくれよ。」
ライトは、参拝者に関心がないようだ。
芸能関係以外で、お参りに来たのは、このじいさんが久しぶりだ。
芸能関係の連中については、ほぼ無視している。だって、だいたいが嘘っぱちの噂、あたいが祟るという恐怖から参拝に来ているものだし。あたいはたたらないっつうの。ほんとのあたいは貞淑な人妻だったし。しかも人妻、まっとうしてるし。旦那は優しい人で、あたいに毒なんか飲まさなかったし。むしろあたいが毒づいてたし・・・って違うか!
だから、お賽銭はありがたく受け取りますが、芸能関係の人にはナニかしてあげようという気が起こらないのだ。・・・ いやいや、あたいの心が偏狭なわけでなく、たいがいが「どうか祟らないでください、無事に演目がおわりますように! 」というお祈りなのだ。あたいは最初から何もする気はナイので、お願いを適えているのもの同然なのだ。
ともあれ、おじいさんのお祈りに、ただならぬものを感じたあたいは、おごそかに宣言した。
「あのじいさんに、ついていくよ!」
左「今度はちょっと、難航しそうだねぇ。」
右「あははは! 退屈してたから、ちょうどいいや! でも、油揚げ、たべさせてくれるの? 」
じいさんはすたすた歩いて行く。じいさんの後を、あたいと、レフティと、ロックの順でついていく。やはり気配を感じるのか、じいさん、ときどき後ろを振り向くが、何も見えないので首をかしげるだけ。あたいらは、一生懸命手を振ったりして、からかっている。ライトなんか電柱におしっこかけたりしてる(お前はキツネだ。犬じゃない。)。
じいさんは、小さな一軒家に入っていった。窓にぽっと明かりがともった。
ただいまーっとか、おかえりーっとか、人の話す声がしない。小さく、テレビのニュースを伝える声がする。
「さびしいねぇ。じいさん、仕事なにやってたんだろうね。職人っぽいけどね。」
左「少なくとも、公務員って顔じゃないわね。ほら、車庫の奥、いろんな道具置いてない?」
右「電気関係だと思うな。でっかいペンチと、銅線ぐるぐるとか置いてあるし。」
なるほど。こういうところに目をつけるのは、さすが男の子だ。
ガタガタガタ。今時ちょいとめずらしいガラスの引き戸が開いた。
じいさん、がちゃがちゃと鍵をかけると、とぼとぼと歩きだした。商店街の方に戻るみたいだ。
しょぼいじいさんの後をつけたって、わくわくも、もくもくもしないんだけど・・・。
ライトは上機嫌。
右「あはは~ん♪ うふふ~ん♪ じいさんごきげん、あぶらあげ♪ おいらもごきげん、あぶらあげ♪」
じいさん、ごきげんでもないと思うし、油揚げも買ってくれないと思うよ。でも、黙っておいてあげよう。
右「じいさん、買ってくれなきゃ、ロックをかもう♪ ロックの足も、おいしそう♪」
・・・ じいさん、頼む。油揚げ買ってあげてくれ。
爺「こんばんは。」
じいさんが入ったのは、商店街からちょっと横道にそれた、小料理屋というか、居酒屋だ。
よし! いっしょに入るよ!!
じいさんの後に、あたいもレフティもライトもひっついて、せまい店内になだれ込むように入った。
ママ「いらっしゃい。」
店はカウンターと4人掛けのテーブル一つだけの小さな店だ。カウンターの中には、40代後半、あるいは50代前半の、妙にいろっぽいおかみさんが一人だけ。
はは~ん、これがじいさんの好みね。そうだ! レフティちゃん、憑依しちゃって! それでじいさんの本音、探ってよ。
左「いいわよ~ん!」




