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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第10章 散切り頭
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土佐っぽ


玄関に、坂田氏に輪をかけたように小汚い大男が立っていた。よれよれの着物、あちこちほころんでる袴、ぼっさぼさの総髪を無造作に後ろで結んでいる。


「やあ、坂本さん、これは珍しい。」


「あら、朝の稽古はもう済んでしまったんですよ。」


坂田氏とおサノさんが出迎えた。


「いや、剣術の稽古をしにきたんじゃないのです。挨拶ばぁ、しにきました。」


坂本と呼ばれた男は、にかあっと笑った。おや、笑うと結構魅力的じゃない?


「藩から許されとった期限がもうすぐ切れます。土佐に帰ることになりました。」


「それは寂しくなりますねえ・・・ でも仕方ないですね。」


「おサノ様にはお世話になりました。紹介していただいた表の千葉道場で、免許皆伝となりました。鼻高うして帰れますキニ、あっはっは。」


「それはおめでとうございます。始めた頃はほぼ一緒なのに、断然引き離されてしまいましたね。」


「坂田さん、あんたは剣が嫌いなんだろう? サムライとは不便なもんだのう、仇討なんか、やーめたと言えんもんかのう。」


「ほんと、やめられるもんならやめた・・・痛っ! 」


おサノさんが坂田氏の背中を平手で打った。


「もうっ! そんなんだから、いつまでたっても上達しないんですよ! 」


「あっはっは! おまんら、仲いいのぅ! ・・・ところで、そこの人は誰ですかのう? 」


はっ、しまった! 実体化したまま、つい近づいてしまったらしい。盗み聞きしてたみたいで、嫌だわ。あ、盗み聞きしてたのか。


「ああ、こちらはお岩どの。お子さん2人を今日入塾させたので。」


「どうぞよろしくって、もうお別れですね。」


「まっこと残念! こんな美しい女子と知り合ったとたんに別れにゃならんとは、地獄ですらい! 」


そう言って、いきなり両手をとり、ぎゅっと握ってぶんぶん振りまわした。美しい女子・・・ ふふふ、なんか悪い気しないわ。



そこへ・・・


バシーン!!


坂本さんの後ろ頭に、竹刀がさく裂。


「竜馬さん! ちょっと目を離したらこれだっ! まったく油断も隙もあったもんじゃない! 」


柳眉を上げ、にらみつける女性が竹刀を握って立っている。


「何をするんじゃあ、お佐奈さん・・・もうお別れじゃきに、ちくぅと優しくしてくれんかのぅ。」


「・・・ だから、もっとそばにいて欲しいのに。」


「え? なんて言ったんかな? 」


「もう、知りません! 」


頭から湯気をたて、お佐奈という人が立ち去っていく。


「待ってくれ、お佐奈さん! ・・・じゃあ、わしはこれで! 」


・・・


「なんか、突風のような人達でしたねえ。」 私は、思わず感想を漏らしてしまった。


「ええ、本当に。」


ん? おサノさんに、おサナさん。坂田さんに、坂本さん。なんか、ややこしいわね。


「・・・ そうか、サムライだからいけないんだ・・・ サムライじゃなければ・・・ 」


「え? 何か行った、坂田さん? さ、子供たちが待ってますよ。もうちょっと手伝ってくださいな。」


「はい。」


私は聞き逃しませんでしたよ。私は武家の出だから考えにくいけど、このご時世、侍じゃない方が生きやすいかもね。


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