土佐っぽ
玄関に、坂田氏に輪をかけたように小汚い大男が立っていた。よれよれの着物、あちこちほころんでる袴、ぼっさぼさの総髪を無造作に後ろで結んでいる。
「やあ、坂本さん、これは珍しい。」
「あら、朝の稽古はもう済んでしまったんですよ。」
坂田氏とおサノさんが出迎えた。
「いや、剣術の稽古をしにきたんじゃないのです。挨拶ばぁ、しにきました。」
坂本と呼ばれた男は、にかあっと笑った。おや、笑うと結構魅力的じゃない?
「藩から許されとった期限がもうすぐ切れます。土佐に帰ることになりました。」
「それは寂しくなりますねえ・・・ でも仕方ないですね。」
「おサノ様にはお世話になりました。紹介していただいた表の千葉道場で、免許皆伝となりました。鼻高うして帰れますキニ、あっはっは。」
「それはおめでとうございます。始めた頃はほぼ一緒なのに、断然引き離されてしまいましたね。」
「坂田さん、あんたは剣が嫌いなんだろう? サムライとは不便なもんだのう、仇討なんか、やーめたと言えんもんかのう。」
「ほんと、やめられるもんならやめた・・・痛っ! 」
おサノさんが坂田氏の背中を平手で打った。
「もうっ! そんなんだから、いつまでたっても上達しないんですよ! 」
「あっはっは! おまんら、仲いいのぅ! ・・・ところで、そこの人は誰ですかのう? 」
はっ、しまった! 実体化したまま、つい近づいてしまったらしい。盗み聞きしてたみたいで、嫌だわ。あ、盗み聞きしてたのか。
「ああ、こちらはお岩どの。お子さん2人を今日入塾させたので。」
「どうぞよろしくって、もうお別れですね。」
「まっこと残念! こんな美しい女子と知り合ったとたんに別れにゃならんとは、地獄ですらい! 」
そう言って、いきなり両手をとり、ぎゅっと握ってぶんぶん振りまわした。美しい女子・・・ ふふふ、なんか悪い気しないわ。
そこへ・・・
バシーン!!
坂本さんの後ろ頭に、竹刀がさく裂。
「竜馬さん! ちょっと目を離したらこれだっ! まったく油断も隙もあったもんじゃない! 」
柳眉を上げ、にらみつける女性が竹刀を握って立っている。
「何をするんじゃあ、お佐奈さん・・・もうお別れじゃきに、ちくぅと優しくしてくれんかのぅ。」
「・・・ だから、もっとそばにいて欲しいのに。」
「え? なんて言ったんかな? 」
「もう、知りません! 」
頭から湯気をたて、お佐奈という人が立ち去っていく。
「待ってくれ、お佐奈さん! ・・・じゃあ、わしはこれで! 」
・・・
「なんか、突風のような人達でしたねえ。」 私は、思わず感想を漏らしてしまった。
「ええ、本当に。」
ん? おサノさんに、おサナさん。坂田さんに、坂本さん。なんか、ややこしいわね。
「・・・ そうか、サムライだからいけないんだ・・・ サムライじゃなければ・・・ 」
「え? 何か行った、坂田さん? さ、子供たちが待ってますよ。もうちょっと手伝ってくださいな。」
「はい。」
私は聞き逃しませんでしたよ。私は武家の出だから考えにくいけど、このご時世、侍じゃない方が生きやすいかもね。




