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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第10章 散切り頭
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寺子屋


「さあ、かかってきなさい! 」


白い道着に白い袴、面はつけていない。竹刀を青眼せいがんに構え、きりりとたたずむ、サノ女。


対するは、よれよれであちこち塩が吹いてる、いかにも不潔な道着、ボロボロな面をつけた坂田氏。


「うきゃぁぁあああああ!!! 」


変てこな掛け声とともに、竹刀をふりあげ、サノ先生にかかっていく。かかり稽古とよばれる訓練で、一方が面、小手、突き、胴すべての打ち込みをランダムにすごい勢いで行い、受け手がそれを避けたり、払ったり、あるいは隙を見て逆に打ち込んだりする。攻め手はずっと打ち込みを行うので、体力をかなり消耗するきつい稽古だ。


「めぇええん! こてぃええ!! どっ、めえええん!! 」


パァーン! シパーン! パァアアーン! サノ先生は悉く坂田氏の竹刀を自らの竹刀で軽くかわしていく。


「甘い! 」と叫ぶと、竹刀が振り降ろされ、坂田氏の頭頂部にぶちあたる。どすっと鈍い音がして、坂田氏がよろりと揺れる。


「気合を入れよ! 」サノ先生が叫び、「はいっ! 」と答えてさらに坂田氏が竹刀を繰り出す。


パァーン! シパパーン! スパーン!


坂田氏があきらかに体力ゲージを下げ、足元がよろよろしてきた。


「そんなんで、仇討本懐あだうちほんかいがなるかっ! それでも男かっ! 」


どちらの批評に反応したのか、うぐと唸ると、坂田氏の勢いが一時回復する。パアーン! スパァアーン! 激しく面と小手が繰り出される。しかし、体力の限界はあきらかで、肩で息をしているのがわかる。


もはやこれまで、と見たか、サノ先生は攻撃に転じ、「こてっめぇええええーーん!! 」と涼やかな声を道場に響かせたかと思うと、坂田氏の右小手に竹刀を当て、坂田氏が竹刀を落すと、頭上に重い一発を当てた。


がくっ


坂田氏は膝を落とし、そのまま道場にうつ伏せで倒れこんだ。


サノ先生は、倒れた坂田氏に近づくと、腰をおろし


「坂田殿、また朝ごはんを食べてませんね・・・ ほんとしょうがない人」


すっと立ち上がり


「握り飯と味噌汁を差し上げますから、はやくその汗臭い体を井戸水で洗ってらっしゃいな」


握り飯、に反応したのか、むくむくと起きあがると


「かたじけない・・・ 」


よろよろと道場の隅で防具を解き、片付けると裏庭の井戸に向かった。ふんどし一丁になり、腰をかがめて井戸から水を汲み体に掛ける。


ザバァーッ! ザバァーッ!


手ぬぐいを絞って、体のあちらこちらをこすりつける。


「良太郎さん、はい、これ」


道着から薄桃色の着物に着替え、すっかり普通のお嬢さんにもどったおサノさんが、あたらしい男物の着物を腕に抱えてやってきた。


「あ、先生」


すっと立ち上がり、濡れたふんどし一丁でおサノさんに立ち向かう。


ぱっと頬に朱を散らし、顔をそむける。うーん、濡れたふんどしにうっすら浮かぶ黒い影と、もっこり。いくら旦那と死に別れて百年以上の私でも、朝からそんなもん見たくないわ。


「かたじけない・・・ 」


本日2回目のかたじけない。坂田さんって、こうして女の情けにすがって生きてる、ナチュラル・ジゴロなんじゃないかしら。


「あ、あの、下着も、父の買い置きがありますから・・・ 」


ぐいぐいと着物を押しつけるように渡すと、おサノさんは走るように屋敷に戻って行った。


着替えると、体を洗浄したためか、結構さっぱりと見えるいい男だ。月代さかやきも剃らずにぼうぼうの頭髪は武士らしくなく、いただけないが。


道場の端っこに、握り飯と味噌汁が置いてある。あら、おいしそう・・・ 私たちも朝ごはん食べてないことを思い出した。坂田さんは、両手を合わせて「いただきます」と呟いて、おもむろに握り飯にぱくついた。


「良太郎さん、早く召し上がって。子供たちがすぐ来ますよ」


「(もぐもぐ)はい、ただいま! 」


するすると握り飯と味噌汁を平らげると、お椀とお箸を奥に片付けに。


子供たちって、子供向けに剣道を教えるのだろうか?


すると坂田さん、奥から長机をがたごとを担ぎ出してきた。長机をたくさん、道場に並べ終えた頃。


「おはようございます! 」「おはようございます! 」


商家、農家の子供たち、下は3つ位から上は10位まで、たくさんがやってきて長机に座りだした。


そうか、ここは子供向けには剣道場じゃなくて、寺子屋になるのか。


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