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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第9章 それはセンセイ
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モンスター


「沢田先生! ちょっとこっちに来て! 」


「なんすか、校長先生・・・ 」


「ナンスカじゃないわよ。ほら、あの生徒の親御さん、また電話してきたわよ。沢田先生、またあの生徒にナニかしたんじゃないの? 」


「え? ・・・ 吉岡ですか? いえ、心当たりありません」


「ホント困りますよ。前回の問題は、あれで終わったんじゃないんですか?! なんでまた、面会させろと言ってくるのよ? 」


「・・・ さあ。わかりません。校長先生もおわかりのとおり、吉岡の母親はちょっと神経質というか」


「は? 吉岡君のお母さん、そんな神経質という感じじゃないわよ。どちらかというと、沢田先生の方が・・・ まあ、いいわ。明日の放課後にいらっしゃるから、必ず出席してください。いいですね? 」


「はい・・・ わかりました」





レフティもライトも帰り支度を終えて、学校を出ようとしたところ、先生が青い顔をして教室に入ってきた。おや、何かあったな?


「おい、斎藤。お前、吉岡のコンパス、昨日盗んだろ。吉岡に謝っとけ」


「えっ?! 先生、何言ってんですか。昨日、僕が吉岡に嫌なことされた仕返しだって言ったら、『じゃあ、いい』って言ったじゃないか」


「そうもいかなくなったんだよ。吉岡の親がな・・・。そんなこと、お前に関係ない。悪いことしたことには違いないんだから、謝れ! 」


「・・・ はぁーい。吉岡君、ごめんなさい」と、大規模な建設会社が使用するような水平機でも誤差がはかれないほど平坦な棒読みの斎藤君。


「というわけだ、吉岡。先生、斎藤にしっかり謝るよう言ったからな。お前のお母さんに、よく言っとけよ」


「・・・」|怪訝<けげん>そうな吉岡君。


「わかったな!? よ・し・お・か? お前のあ・の・お・か・あ・さ・まに、ちゃんと言っとけよ? 」


「・・・ わかりました」


「・・・ちっ、モンスターペアレントが」


「え? 先生、何か言いましたか? 」


「なんでもない、もう帰れ、吉岡」


なんか変ですよ、先生? モンスターペアレントと言ったつぶやき、聞き逃しませんでしたよ。


さては、吉岡君のお・か・あ・さ・ん、怒鳴りこんできたのかな?


さあ、楽しみになってきましたよ♪


「ロックちゃん、それは不謹慎でしょ」


「・・・ ごめんなさい、レフティちゃん」


「おいら、斎藤もヨッシーも両方かわいそうだと思うよ! 先生、ひどいよ! 盗った子も、盗られた子も2度、傷つけてるよ」


「・・・ そうね、ライト君」


レフティ、ライト、いつの間にか成長している。いつまでも大人げないのは、あたいの方かも知れない。


あれ、待てよ? レフティもライトも、年齢不詳というか、あたいが死ぬ前からずっと神の|眷属<けんぞく>やってるわけだし、あたいの方がずーっと若いわよね? じゃ、幼くても許されないかしら? って、だめか。





ついにそのときがやってきた。あたいと、レフティとライトは実体化を解いて幽体のまま、校長室でひっそりとたたずんでいる。


校長室の真ん中のテーブルがある。長いソファーに吉岡君のお母さんが腰かけ、テーブルをはさんだ反対側の椅子に校長先生とおぼしき中年女性と、|件<くだん>の沢田先生がすわっている。


吉岡君のお母さん、品のよいスーツに身をつつみ、化粧も派手でなくほどよい感じ。でも、目がきりっとして、頭脳明晰な感じがあふれている。


「校長先生、私、こんなことで何度も学校に押しかけたくないんですよ。子供どうし、いろいろ問題があったりするのも当然のことですし、よほどのことがない限り、先生方におまかせしたいと思っているんです。私、仕事もありますし」


「ええ、ええ」


「自分の子供の言うことだから、まる飲みじゃなく、ある程度割り引いて聞いたつもりなんです。でもねぇ・・・


まず、給食のことからお聞きしましょうか。息子から聞いたところによると、くしゃみで汚れた給食を片付けられて、それでみんなが給食を少しずつ分けようとしたら先生が止めたとか」


「はい、それについてはその時子供たちに説明しました。給食は1人ひとりの必要カロリーとか栄養バランスを考えて設計されていますから、みんながわけちゃえば、足りなくなってしまいます」


「・・・ で? 」


「で、と言われますと? 」


「うちの子は、100%足りなくなったんじゃないですか? 」


「そうですね。でも、それは、いわば事故にあったわけで・・・ くしゃみをした加藤君が原因なわけで」


「・・・ 学校では、事故だと被害者にケアはないと」


「はぁ、おっしゃる意味がよくわかりませんが? 」


「校長先生、この学校の生徒数は何人でしょうか」


「1学年で100人程度でしょうか。なので、学校全体では600人前後かと」


「あの日だって、お休みした生徒さんとか、いますよね。給食1食分くらい、どうにでもなったんじゃないですか? そんなに毎日、生徒の人数分かつかつの分量で作っているのでしょうか、校長先生? 」


「いえいえ、もちろん、そんなことは」


「ですよね。じゃあ、配膳室から1食追加で取り寄せるという対応もできたんじゃないですか? 」


「おっしゃるとおりです。沢田先生、どうしてそんなことぐらい、おもいつかなかったの? 」


「・・・」 横を向いて、鼻にしわを寄せている。自分のせいじゃないと思っているのが、アリアリだ。


「・・・ まあ、それはまだ、いいとしましょう。先生、ご納得されてないようですしね。


私が先生方に会わなきゃと思ったのは、コンパスの件なんです。沢田先生、まず、うちの子が自分のコンパスが無くなったといっても、取り合わなかったそうですね」


「はい・・・ 算数の授業を進める必要がありますし、コンパスがない以上は吉岡君にはほかの子の動作を見てもらうほかないので」


「授業の後で、一緒に探すとか、クラスのみんなに探すのを手伝ってもらうとか、しなかったですよね。またまた、事後のケアがなかったんですね」


「それは、失くしたのは吉岡君の問題ですし」


「ちょっと待って下さいよ。放課後の掃除のとき、斎藤君の机から出てきたんでしょう? それってうちの息子の問題なんですか? 」


「ええ・・・ 斎藤君に聞いたら、吉岡君が何か、意地悪をしたので仕返ししたと」


「仕返しならば、盗みは許されるのでしょうか? 校長先生、教育上、相手の落ち度があれば犯罪を犯しても許されるというのでいいんですか? 」


「いえいえ、まさか、お母さん、落ち着いてください」


「校長先生、私は終始、冷静にお話ししています。沢田先生、どういうご見解か、教えていただけますか? 」


「・・・ (小声で)うるせえな」


「はい? 」


「いえ・・・ ですから、その場で吉岡君の意地悪を追求したらかえって吉岡君によくないと思いまして」


「斎藤君はどうでもいいんですか? 悪いことして、なにもおとがめなしで帰したでしょう、先生。それとも、斎藤君は正しいことをしたとでも? 」


「いや、だから後で斎藤に謝らせて・・・ 」


「沢田先生。それは、私が校長先生にお会いしたいと電話したからでしょう? 」


「まあ、そうです」



「・・・ 沢田先生、ちょっと席をはずしていただいてよろしいかしら? 私、校長先生と相談したいことがあるんです」


「・・・ わかりました」


沢田先生は、憮然とした表情で、校長室から出て行った。



「校長先生、沢田先生は、前回のことで、私のことを嫌いになられたようですね。それが今回のうちの子の差別というか、無視みたいなことにつながっているんじゃないかと思います」


「ええ・・・ 本当に申し訳ございません。一言も反論の余地がございませんです」


「公立学校のことですから、あまり融通が効かないのはわかります。でも、このままではうちの子は・・・ あの先生のもとでは、ちゃんとした教育が受けられないのではないかと思います」


「はい・・・ 」


「はっきり申し上げて、沢田先生は、教師に向いてないんだと思います。小学生の一日いちにちは、年をとった私達の一日より、ずっと貴重だと思うんですよ、先生。私、自分の子にできるだけ多く、楽しい小学校の思い出を作ってもらいたいんです。そう考えると、悠長に構えてもいられないんです」


「はい、まったく異存ございません」


「なので、今までの沢田先生の問題を、教育委員会とか、しかるべき筋に報告し、相談したいと考えているんです。でも、校長先生もお立場がおありでしょうから、沢田先生の問題をどのように対処されるおつもりか、お考えをあと1週間くらいのうちにお聞かせいただけませんか? そのお考えに納得できれば、考え直してもいいです。


あの、これは脅しとかそんな風にとらないでください。


私は、自分の子供を守りたいだけなんです。今の沢田先生とのやりとりを見てもおわかりいただけるように、うちの子とは信頼関係が壊れてると思うんです」


「はい・・・ お母さん、おっしゃることはいちいちごもっともです。教育委員会ともすぐに相談、検討させていただいて、ご連絡申し上げます・・・ 本日はわざわざご足労いただいて、ありがとうございました」





「レフティちゃん、沢田って先公、ああいうインテリ然とした女が大っきらいなんじゃない? 」


「・・・ はぁ~、なにその低レベルなコメント。それで神修行中の身なの? 」


「ちょっと、ナニ言ってんのよ。男と女は常に、理屈じゃないのよ。恋愛感情とかなくったって、合う合わないで関係性はだいぶ違うの。かけてもいいわ、斎藤君のお母さんは、きっと沢田先生の好みのちょっと可愛いけど、頭の鈍そうな女よ」


「きっつー・・・ まあ、その可能性はあるわね」


「ロックちゃん、レフちゃん、どういう意味、それ? おいら、さっぱりわかんないよ」


「ライト、あんたはまだしばらく、わかんなくていい」とレフティ。


「ふーん。なんか、お腹すいてきたよ。ロックちゃん、今度いつ、油揚げ食べられるかなあ? 」


あ・・・ 今回、沢田がお願い事の主だった。しかも、吉岡君を追い出せというのが願い事だったのだわ。


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