誤認逮捕
「あ~~~!!! ヒマねぇ!!!。」
左「あの噂があるから、たまーに芸能関係しか来ないしね。・・・ それにこの社、わかりにくいところにあるし。」
「あたしはフツーに主婦してただけなのよ! 旦那も真面目な人で・・・ そりゃ浮気のひとつやふたつ、あったけどさ・・・ 仲良く添い遂げたのに。あの戯作者野郎、呪い殺したいわ。」
左「これこれ、神となったあんたがそんなこと言うんじゃないわよ。それに、戯作者ならもうとっくに死んでるわよ。あんたとその戯作者が生きてたのは『江戸時代』だしね。」
「あー。江戸時代って、違和感あるなー。お江戸が「東京」っていう名前になったのも未だになじめないし。公方様の時代だから、公方時代とか、徳川時代とか呼べないものなのかしら。」
左「政権中枢があった土地の名前を付けるのが好きみたいね、歴史学者。首都移転なんてあったら、今の時代を『東京時代』とか言うのかしら。」
右「・・・ ふわぁぁあああああ(涙)。もうその話、356回目。」
「あれ? そうだっけ? 記憶容量って、人間だったときとあんまり変わらない気がするのだわ。・・・ ねえ、お賽銭チェックして? たまってたら、あんたたちの『油揚げ』、買いに行きましょ。」
右「わーーい!! おいら、お腹すいてたんだ!・・・ えっと、732円だね。まぁまぁじゃん?」
左「この間の女子高生の分もあるけど、いい感じじゃない? ひさしぶりの油揚げ、うれしいよぉ。」
「近所のスーパー丸●でいいよね。・・・ さて、変身しなきゃ。」
どろんどろん
左「・・・。あのねえ、ちょっとは大人の分別持ちなさいよ。この間の女子高生に化けてんじゃないか。あんた、寛永の人だよ? セーラー服の女子高生もないもんだ。」
「いいのよ! あたいが花だったのも娘16位の頃よ。それに、このカッコしてみたかったし。いやなら油揚げ買いにいかないよ! 」
右「ロックちゃん! かわいい! すぐさま油揚げ買いに行こ!」
左(だまって首を横に振る。)
私はおごそかに宣言した。
「さあ! 行くよ!」
☆
スーパー丸●は、いつもにぎやかだ。このあたりでは、一番大きなお店だ。あたいはレフティ・ライトのために油揚げを買いたいだけなので、さっさと買い物をしてお社へ帰ろうと思っていた。
あたいの生きていた時代にはなかった、食べ物がなんでも揃っているこの雰囲気が大好きだ。物があふれているのは、幸せなことだ。野菜もたくさん積まれている。そういえば、棒手振りの辰っつぁん、あの世で元気にしてるかしら。・・・ あの世で元気ってのも、ないか。
あった、あった。レフティ、ライトが好きなのは、このふわふわっとした安めの油揚げだ。3枚入って、105円(税込)。
ふと横を見ると、妙に派手なシャツを着た婆さんが立っている。油揚げを手にとって見つめている。
・・・あ!!
油揚げを手提げ袋の中に入れた!! 万引きするつもりだ!!
「ちょいと! およしよ!! 」
婆さん、怪訝な顔をしてあたいを見る。
「みっともないじゃぁないか。いい年してさ。」
「あんたこそ、年に似合わず、変なしゃべり方するんじゃないよ。」
しまった。あたいは今、女子高生だったんだ。
婆さん、あたいの手首をむんずとつかむと、こう叫んだ。
「店長さんいる!? この子、万引きしたのよ!! 」
店長と思しき中年の男性が飛んできた。
「ち、違うんです!この人が・・・。」
いつの間にか、あたいのスカートのポケットに、油揚げの袋が突っ込まれていた。無茶でしょ、そんな女子高生、どこの世界にいます?
「君!こっちに来給え!」
店長はあたいを事務所に引きずって行った。婆さんの姿はもうなかった。
☆
「君、学校はどこ? なんて名前? なんで万引きなんかしたの! 」
「違うんです! 私じゃありません! 」
「いつまでもシラを切るなら、警察を呼ぶよ。それでもいいの? 」
あたいはシツコイ男が大っきらいだ。
「あたいじゃないって言ってんだろ! いい加減におしよ。爺ぃのしょんべんみたいにいつまでもダラダラとしつこいんだよ! 」
「な、なんだと! 」
しまった。つい、江戸っ子がでちまう。店長は怒りマックスの真っ赤な顔で、携帯に手を伸ばした。
「警察に引き渡す。」
そのとき、事務所にまるっこい中年女性が入ってきた。
「店長さん、その子は違いますよ。」
「吉田さん! どうしてわかるんですか? 」
おばさんは、吉田さんというらしい。
「お嬢ちゃん、あの明るい色したシャツ着たお婆さんと言い争いしてたわよね。」
「ええ、そうです。」
「店長、そのお婆さん、万引きの常習犯で、私見張ってたんです。その人が油揚げの袋をお嬢ちゃんのスカートのポケットに入れたんです。私、お婆さん追っかけてったんですけど、物が学生さんに渡ったのを見てたんで、警察呼んでも引っ張ってってもらえないかなと思って、帰ってきました。」
吉田さんは、頻発する万引きに耐えかねたスーパーが雇った、万引きGメンだ。なんだ、あたいが余計な口出しして、かえって万引き婆さんを逃がしてしまったらしい。
何度も頭を下げる店長に見送られて、店を出た。買おうと思っていた油揚げ、2つもおまけしてくれた。
左「遅かったじゃないか! いったい、何してたんだい。」
右「もー腹ペコで死にそう!! 死なないけどね! 」
あたいは白キツネ二匹に、事の顛末を話した。
左「困った婆ぁだねぇ。ロックちゃん、お仕置きするかい? 」
「お仕置きしてやりたいが、なんかあの婆さん、事情があるんじゃないかねぇ。ほら、万引きってストレス犯罪っていうだろ。」
左「ストレス犯罪・・・ どこでそんな言葉、憶えてくるのさ。・・・いいよ、あたいがちょいと、調べてくるよ。」
右「おいらも行く! 」
左「ややこしくなるから、ライトはお留守番。」
レフティは、油揚げを平らげると、ふわりと風のように社を去って行った。




