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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第8章 初恋
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和解


・・・ はぁ~、ひまだわ。レフティ、ライト、あたいにも何か仕事おくれよ。



「何言ってんのよ、まだミッションは途中よ」


「そうだよ、ロックちゃんにぴったりの役割は、ボクらの母親しかないだろ」



つまらないねぇ。



レフティとライトが『転校』してから、はや1ヶ月がたった。栄勝君のお願い(惠梨香ちゃんと両想いになること)は、その性質からいって、急速になんとかなるお願いじゃない。徐々にやるしかないのだが、かといって成功は極めておぼつかない。大人の男女なら、打算とか計算とかで説得も可能なのかもしれない。あるいは、肉体的な魅力とか・・・



しかし、クライアントは、小学校6年生、微妙な年頃だ。



この1ヶ月で、6年3組の勢力図が変わった。



惠梨香ちゃんグループは、いまやすっかり、レフティグループだ。表面は、惠梨香ちゃんがリーダーであるのは変わりないが、当の惠梨香ちゃんがすっかりレフティになついているので、レフティが惠梨香ちゃんの参謀のような存在になっている。惠梨香ちゃんのとりまき連中も、レフティに一目置いて、反発や嫉妬をすることはなくなっていた。



さて、ライト君。『あいつには、ナニいってもしょうがないや』って意味で、すっかりみんなの人気者だ。いじめっ子連中も、ライトの底抜けの正直さには、手出しがしようがないらしい。



ライトは、栄勝君を終始、友達として扱った。共通の趣味として、二人ともバスケットボールが好きなことがわかった。



「エーショーくーん! 放課後だああ!! 体育館に、バスケやりにいくよー!! 」



「おう! 今日こそ負けねえぞ! 」



シパーン、シパーン!



ライトのすばしこさに対し、栄勝君はずんぐりしているが、まるでそそり立つ壁のように、ライトのボール運びを阻害する。大きな栄勝君のディフェンスに攻めあぐねるライトだが、するりと栄勝君の広げた腕を抜けると、縮こまってパーン!!! 



ガトン



ボールがバスケットに飲み込まれる。



「やったあ! エーショー君! 油揚げ、おごりだよ! 」



「しまった、油断した・・・ しかし、ライト、お前ほんと油揚げ好きだな」



「おーい、俺たちも混ぜろよー!」



と、数人のクラスメイトが駆け寄ってきた。



「よし、試合だ、試合だあ! 」 ノリノリのライト



男の子たちは、バスケットポールに興じていくのだった。



さて、あたいは(やしろ)に帰って、ひとりお酒をちびちびとなめることにしようか。お酒のお供え物、まだ残ってたかしら?





「おいライト、うち遊びに来いよ。おいしい油揚げあるしさ」



「いいよ~」



栄勝君とライト、すっかり仲良しだ。



「なんか損した気分だわ。惠梨香は油揚げおごってくれないし」



レフティ、ちょっとむくれてる。いいじゃない、あたいなんか、出る幕もないのよ。



よし、レフティ、実体化を解いて、ライトについて行っちゃおうよ。



「賛成! 」



しばらく歩いて行くと、例の白亜の豪邸に着いた。



「ただいまー、今日は友達連れてきたよー」



「お坊ちゃま、お帰りなさいませ」



「おっじゃましまっす、ふうー! 」 ライト君、挨拶くらいまともにしようよ。



そこに、頭をまるまると剃りあげた、がたいのいい作務衣姿のお父さんが出迎えた。



「栄勝! 帰ったらまずお勤めだ! お友達には少しの間待ってもらえ」



「え! 何言ってんだよ、ともだちが来てるのに・・・ 」



「お父さん! おいらもお経あげさせてもらっていい? 」



「・・・え? そ、それはいいけど、できるのかい、ボク? 」



「般若心経でいいかな? 」



「そりゃもちろん・・・ じゃ、お堂に入って」



「エイショー、じゃ、いっしょにお唱えしよー! 」



ライトと栄勝君、ふたり仲良く並んで正座して、お唱えが始まった。



観自在菩薩かんじざいぼさつ 行深般若波羅蜜多時ぎょうじんはらみたじ

照見五蘊皆空しょうけんごうんかいくう度一切苦厄どいっさいくやく 舎利子しゃりし

色不異空しきふいくう 空不異色くうふいしき

色即是空しきそくぜくう 空即是色くうそくぜしき

受想行識じゅそうぎょうしき 亦復如是にゃくぶにょぜ 

舎利子しゃりし 是諸法空相ぜしょほうくうそう 不生不滅ふしょうふめつ

不垢不浄ふくふじょう 不増不減ふぞうふげん

是故空中ぜこくうちゅう 無色むしき 無受想行識むじゅそうぎょうしき

無眼耳鼻舌身意むげんにびぜっしんに 無色声香味蝕法むしょくしょうこうみしょくほう

無眼界むげんかい 乃至ないし 無意識界むいしきかい

無無明むむみょう 亦無無明尽にゃくむむみょうじん

乃至ないし 無老死むろうし 亦無老死尽にゃくむろうしじん

無苦集滅道むくしゅうめつどう 無智亦無得むちにゃくむとく

以無所得故いむしょとくこ 菩提薩垂ぼだいさった

依般若波羅蜜多故えはんにゃはらみたこ

心無罫礙しんむけげ 無罫礙故むけげこ 無有苦怖むうくふ

遠離一切顛倒夢想おんりいっさいけいとうむそう 究竟涅槃きゅうきょうねはん

三世諸仏さんぜしょぶつ 依般若波羅蜜多いはんにゃはらみた

是大神呪ぜだいしんじゅ 是大明呪ぜだいみょうしゅ 是無上呪ぜむじょうしゅ

是無等等呪ぜむとうどうしゅ 能除一切苦のうじょいっさいく 真実不虚しんじつふこ

故説般若波羅蜜多呪こせつはんにゃはらみたしゅ 即説呪日そくせつしゅわく

羯諦ぎゃーてい 羯諦ぎゃーてい 波羅羯諦はらぎゃーてい

波羅僧羯諦はらそうぎゃーてい 菩提薩婆訶ぼじそわか

般若心経はんにゃしんぎょう





ゴーン♪



「君、全部暗記してるんだね。感心、感心。もしかして、お寺の子かい? 」



「違うよー、稲荷の子だよー。でも、お寺が長い間ご近所さんだから、憶えちゃった」



「ほほぅ、まさに門前の小僧、習わぬ経を読むだね」



「もんじゃの小エビ? おいら、お好み焼きの方が好きだな。でももっとすきなのは、油揚げ! 」



「はいはい、栄勝から聞いてますよ。後でおやつに差し上げますよ」



「わーい、お坊さんのお父さん、ありがと! 」



お父さん、上機嫌でお堂から出て行った。



「ライト、お前いつ般若心経なんかおぼえたんだよ。俺、嫌で嫌で、まだ時々間違えるよ・・・ 」



「暗記しようとするから間違えるんだよ。歌と一緒だよ、意味と音を憶えて、歌えばいいんだよ♪ 」



「ふーん。意味が難しいけどな・・・ でもライトと一緒にお経よめて、楽しかったよ」



「そうさっ! ノー・ミュージック、ノー・ライフだぜ、ベイベ♪ 」



「あははは・・・ 俺、なんか坊さんになるのが義務みたいな感じがして、まだ運命決められたくないっていうか・・・ それで父さんに反発したりして。


なんか、ライトとバスケットしてるうち、そんなのどうでもいいっていうか、なるようにしかならないっていうか、自分で決めて行こうっていうか・・・ 父さんとこの間話したんだけど、大学までに決めればいいって」



「よかったじゃん。だから、それまでの間、せっかくのご本尊様にお願いすればいいのさっ。仏様との『えにし』だよ、えにし! 」



「ライト・・・ えらく古いこと言うんだな。中身は父さんの言ったことと一緒だぜ、しかも」



ぐぅ~。ライトの腹の虫がなる。



「エーショーくーん・・・ 油揚げ、いつ食べられるのお~? 」



「はっはっは・・・ 家政婦のミタ代さんにお願いするよ! 」



そっかそっか。栄勝君、反抗期だったのね。お父さんと和解できたみたいだし。よかったわ。




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