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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第8章 初恋
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新しい命

「・・・ 惠梨香(えりか)ちゃんと、両想いになれますように。」


お願いをしているのは、小学校高学年と思しき少年。真面目そうだが、まぁ、モテるというには遠い。スポーツも、そこそこだろう。成績も真ん中くらいか、平々凡々な感じ。


私から見て左側に鎮座している白キツネの娘がのたまう。


「ロックちゃん、パス、パス!」


え? 願いかなえてあげないの?


「だって、タイプじゃないもん。ちょっとキモいし。」


こら! 神がより好みしてどうすんのよ。そしたらキモい男子は全然救われないじゃない。


「キモいやつなんか、救わなくったっていいんじゃない? 」


レフティ、いやに冷たいじゃない。


「そんなのダメぇー!! 男の子の夢を奪っちゃダメぇー!! 」


私から見て右側に鎮座している白キツネの男の子が叫ぶ。


そ、そんな大層な話だっけ。この男の子、惠梨香ちゃんが好きっていうだけで・・・


「男の子はとってもナビーブ・・・? ナリーム? ナメタケ? ボクえのきの方が好き」


ナイーブといいたいのかしら。ライトがえのきが好きとは知らなかった。


ファサッ


なに? お賽銭、ファサッ?! 札やんけーーー!


このガキ、い、いえ、おぼっちゃま、お札をお賽銭に!!


俄然、やる気がでてきたよ!


「・・・ 『栃尾』買ってよ。」


栃尾とは、厚さがすごい油揚げで、1枚300円近くする。


じゃ、仕事しますか。あたいはおごそかに宣言した。


「あの男の子についていくよ!」





その男の子は、我が(やしろ)を出ると、住宅街をずんずん抜けて行った。割と速足で、ついていくのが大変。結構歩いたなあ・・・


レフティが疲れたおももちで、つぶやく。


「右側の壁、さっきからずっと続いてない?」


そうね、さっきからおんなじ壁、眺めながら歩いている気がするわ。


壁がとぎれたと思ったら、これまた大きな、屋根付きの門。


男の子は、その門の横ちょにある小さな扉の前に立ち、インターフォンのボタンを押した。


ぴんぽ~ん


「はいー? 」


「僕だけど」


がちゃっ。施錠がはずれた音がした。男の子は、小さな扉を開けて、中に入って行った。


あらま、この豪邸のお坊っちゃまだったのね。さ、この中入ってみましょ。


レフティが唸る。


「う~ん、ここって・・・ 」


ライトも言い(よど)む。


「入りにくいよね、立場上・・・ 」


なんでよ? 神であるあたいらが遠慮すべき相手なんて、この世にいるのかしら? さ、入りましょ、とその時・・・


ゴオォォォオオオン


鐘の音? もしかしてここって・・・・


「お寺よ。」


「お墓もたくさんあるのを感じるよ。」


宗旨違いか・・・ でも、あたいは寛永生まれ、神仏混淆の世代。あたいの生まれる前から、日の本の国は、その点、緩やかなのだ。八百以上もの神々が住まう国だもの、異国のものがちょっとくらいまじったって、関係ない。


おおらかさも、時代が下ると、人間的な事情から変更を余議なくされる。徳川様の世から、明治天皇の御世に変わったとたん、こっちは神、こっちは仏と区別がうるさくなった。


徳川様は、耶蘇教(キリスト教)を禁教にしたものの、神道や仏教の特定宗派を少なくとも民草に強制したことはなかった。耶蘇教は中身の問題というより、欧州の国々が亜細亜の国々を侵略する手段として利用していたからこそ、予防策として禁教にしたのよ。わかる? 耶蘇教の内容の問題じゃなくて、それを政治利用した国が悪いってこと。えぇ、えぇ、大君様も、民の把握・管理の手段として寺や神社に身元を登録させたりしましたけど、例えば徳川様御信仰の浄土宗を全大名、民草に強制はしなかったのよ。


脱線しちゃったわね。


お寺の子供が、神社に願い事ってことでしょ? 余計にただならぬ感じじゃない? あたいはかえって好奇心むんむんになってるんですけど!


「お先ー。」


ライト君、とっとと壁をすり抜けて、中に入って行った。


「待ってよー。」


レフティちゃんもライトを追いかけて行ってしまった。


ちょちょちょっと、なんで置いて行くのよ! あたいも行くわよ!!





白亜の豪邸が目の前にあった。お寺には見えないわね?


レフティが私の袖を引っ張った。


「上、上を見てみなよ。」


うーわ。白亜の豪邸の奥に、巨大な伽藍の屋根が見える。てっぺんには金色に光る、マニ宝珠。巨大なお寺の裏に、住職の住居があるってことか。


ライトが興奮して、


「ロックちゃん、見て! たーくさんカッコいい車があるよ! 」


左手車庫に、三ツ矢にマルのエンブレム、連続する四つ輪のエンブレム、スマートな豹のエンブレム、Rを重ねたエンブレムの車が駐車している。おっと、黄色の背景にお馬のエンブレムのペッたんこカーもあったぞ。(さあ、みなさん、何の車か、わかるかな?)


おいおい、この国の税務署はどこに目をつけてんだか・・・ はっ! どうせ縁のない車なんぞに見とれてる場合か。お坊っちゃまについていかなくちゃ。


大理石の床の玄関を入ったところで、頭を坊主にして、てっぷり肥った中年男性が、吠えた。


「こらッ! 栄勝(えいしょう)! 帰ったら本堂でお勤めせんか!(注: お経を読むこと)」


お父さんね、この人。その後ろに、赤ん坊をだっこした、若い女性が立っていた。


「あなた、あまり怒鳴らないでくださいな。栄勝さんも、学校でお疲れになっているし・・・ 」


「馬鹿もん! そうやってお前が甘やかすから、栄勝がいつまでもだらしないんだ! もう、『なさぬ仲』じゃ困るぞ、母親らしく叱ってくれよ」


・・・ ちょっと説明的な臭いもするけど、事情がわかったわ。


夫婦が口げんかしている間に、栄勝君、とっとと玄関を抜けて奥に入って行った。


「おい! こら! 言うことを聞け! 」


「あなた! もうやめてください・・・ 」


ははぁ。この家庭環境で、栄勝君、今反抗期の真っ盛りなのだわ。


レフティ、ライト、いったん引き揚げよ。明日の朝、栄勝君と一緒に、学校に行きましょう。


「「オッケー! 」」




ライトが、夜明けと共に咆哮する。


「コケコッコー! 」


わかってるわよ! もう起きてるってば。さあ、栄勝君のところに行くわよ!


眠そうなレフティを無理やり起こし、ライトと共に栄勝君のお寺(実家)に向かった。


例のお寺に着いたら、ちょうど栄勝君が学校に出かけるところだった。よかった、間に合った。


栄勝君、速足ですたすた歩いていく。近くの地下鉄の駅から線を乗り継いで出たところは、おしゃれな街として有名なところ。さらに向かった先は、誰もが知ってる坊ちゃん、嬢ちゃん学校、KO学園小学部。「筆は銃より強し」をモットーとして、筆2本がクロスしている意匠が学園のシンボルだ。


「おーい、エイショー! 今日もナンマンダブしてきたかぁー? 」


「なあ、今日もちっとばっかし、都合つけてくれよぉ・・・ ふところさびしいんだよぉ」


悪ガキどもが、おとなしそうな栄勝君に絡みだす。栄勝君、ガン無視を決め込む。


「ざけんなよ、ウラぁ! 」


急に切れた悪ガキその1、うしろから栄勝君に蹴りを入れる。卑怯だ。


栄勝君、前に2、3歩たたらを踏んだが、立ち止まって振り向く。無表情なまま、その1をじっと見つめる。案外、キモが太い。改めてみると、体格もいい方だ。ひそかに鍛えているのか。


「・・・ ちっ・・・ 行こうぜ」


「ああ。エイショー、いい気になるなよ」


捨て台詞を残して、いじめっ子二人が去って行った。


栄勝君が入ったのは、6年3組。栄勝君の机は一番後ろの、窓際。話しかけたりする友達はいないらしい。


教室内に、女の子やら男の子やらが固まっている島がいくつかできている。


惠梨香(えりか)ちゃんを見つけるのは、簡単なことだった。


教室で一番目立つ、可愛い娘。それが惠梨香ちゃんだった。


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