連続殺人
「て、てえへんだぁ! 」
どたどたどたと、文吉が走る。
「お、親分! また、殺されたぁ! 」
「なんだとぉ? またってぇと、なにかぃ? 若ぇ娘か! 」
「へい、また素っ裸でさ」
「案内しろぃっ! 」
・・・ しまった、左娘が予言したとおりになった。これはおぼこ娘の心の臓をねらった犯罪、連続する可能性は大であったのだ。
あたいらは、人に見えないように霊体のまま、親分と下っぴきについていった。次の犯罪を阻止できなかった罪悪感というか、後ろめたい気持ちを抱えながら・・・
前を歩く親分の後ろ頭をながめながら、親分、心なしかうつむいているなと思った。下手人をすぐに捕えることができなかった、悔しい気持ちになっているんじゃないだろうか・・・
そこは、大胆にも、大通りの真ん中だった。
全裸の娘が、うつぶせに倒れている。地面が血をすって、娘の下がぐずぐずになっている。
「文吉、仏さん、仰向けにしてくれぃ」
「へ、へい・・・。こればっかりは、慣れねぇなあ」
ごろりん。
おおお・・・ 野次馬たちから、ため息が漏れた。
・・・ クビの下から胃の腑にかけて、すっぱりと切れた刀傷。そして、小ぶりの双丘を泣き別れさせ、真ん中が少しえぐれている。
やはり、心の臓がない。
文吉、ちょいと離れた道端で、また盛大に吐いている。
「・・・ ひでぇことしやがる。情け容赦ねぇ。人の子をなんだと思ってやがる。伊勢屋の娘と同じやり口だな」
親分、娘の口元に鼻を近づけた。
「・・・ 同じ毒の臭いがすらぁ」
「うぐぅ・・・ぐふっ、ぐふっ。お、親分、この娘さんは、一体誰ですかね」
「それを探り当てるのがおめぇの仕事だ・・・ 所見を言ってみろい」
「・・・ 顔はめちゃかわいいですな。吸いつきてぇくらいの形のいい唇で・・・ 年は伊勢屋の娘と同じころ・・・ 胸も同じくらいの膨らみで・・・ このくらいがちょうど愛嬌があるというか・・・ 腰の張り具合は伊勢屋よりいい具合で・・・ 秘処の草むらも勢いがあって、あぁ、なんかにおい立つというか・・・」
ばしーん!! 盛大に頭をはる音がした。
「馬鹿野郎!! おめえ、そんなんだからいつまでたってもモノにならねえんだ。誰もおめえの女の好みなんざぁ聞いてねえんだよ。そんな話は岡場所でやれ!
・・・ はぁ~(ため息)。要するにだ、伊勢屋の娘と同じく、この仏さんも生粋のお嬢さんだ。手荒れもねぇ。肌荒れもねぇ。様子からして、おぼこだ。伊勢屋の娘と同じなんだよ」
犯人が一緒だ。今度の娘さんと、伊勢屋の娘さんとの共通点を探せば、犯人にたどりつけるかもしれないのだ。しっかりしろ、文吉!
「伊勢屋の親御さんを探してくれた、あの娘さんと妹、弟も探してくれねぇか。同じ年頃の娘だ、犯人を見つける糸口をみつけてくれるかもしれねぇ」
はいはい! 呼んでくれますか! 即、実体化した。
「親分さん! あたいはこ・こ・よっ」
「うわあ、びっくりした! いつ来たんでえ」
右坊も両手を広げて親分に存在をアピール。
「じゃじゃーん!! 呼んだ? オヤビン! ボクはここだよっ! 」
左娘も控えめにアピール。
「えっと・・・ ま、ここにいるから」
「神出鬼没ってのはこのことかぃ。お前さんら、一体・・・? 」
亡骸は、近くの番所に運ばれた。娘の身元は、すぐにわかった。人形町で生地問屋を営む越野屋の娘で、お綾。越野屋夫婦は、昨日娘がでかけたきり帰って来ず、必死にあちこち探していたのだが、最悪の事態になってしまった。
番屋に呼ばれた店主とその嫁、亡骸の前で泣き叫ぶ。
「お綾・・・ いってぇ、誰がこんな酷いことを・・・ 」
「お綾! お綾! 」
親分が店主夫婦の背後からそっと尋ねる。
「つれぇところ悪いがな・・・ 犯人を捕まえるためだ、質問に答えてくんな。お綾さんは、昨日どこに行くといって出て行ったんだい? 」
「それが・・・ どこに行くとも言わずに・・・ 」
「何かおかしいことはなかったかい? 男につけられていたとか」
「いえ、そんなことはなかったと思いますが・・・ お前何か知ってるかい? 」
店主がおかみさんに尋ねるが、おかみさんは手ぬぐいを顔に押しつけたまま、首を振った。
「・・・ 日本橋の『伊勢屋』知っているかい? そこの娘のお清が、同じ殺され方をしたんだが・・・ お綾さんは、お清さんと友達だったとか? 」
「いえ、伊勢屋さんを存じ上げませんし、お綾の友達にお清さんという方もいないと思います」
「・・・ う~ん、手がかり無しかぃ。・・・ そこのお嬢さん、何か気付いたことはないかい? 」
お嬢さん?・・・ お嬢さん! そっかー、あたいのことだ! ああ、なんていい響きだろう。お嬢さん・・・ むふふ 100年振りかしら、お嬢さんだなんて。
「・・・ ちょっと、親分さんが変な顔してにらんでるよ! 」
左娘があたいの脇をつつく。
「ほんとはねー、お岩ちゃんはねー、寛永・・・ むぐぐ」
右坊、何を言い出すやら! あわてて右坊の口をふさいだ。
「す、すみません。あの、思うんですけど・・・ お清ちゃんもお綾ちゃんも、誰にも言わずに、自分から出てってますね。これって、やっぱり、男なんじゃないかしらん? 」
「お綾にそんな男がいたことはないと思うが・・・ おい、どうなんだ? 」と、店主、隣に座っている奥さんをつつく。
「親に隠れて男と付き合うような娘じゃありませんっ! 」 ヒステリーに叫ぶ。
「でも、この娘らの・・・ いえ、あたいらの年頃って、恋にあこがれたり、いい男にのぼせあがったりするもので・・・ そうだ、お綾ちゃんは最近、どこかに頻繁に行く場所とかありませんでしたか? 芝居小屋とか・・・ 」
「いや、まさか、役者なんぞに! ・・・頻繁と言うか、ちょっと体の調子が悪いとかで、医者の源斎先生のところに通ってはいたが・・・ 」
「そういえば、お綾がいなくなった日の朝も、源斎先生のところに行きました。でも、お昼には帰ってきてましたよ」
ふむ、源斎先生って、男よね。
「源斎先生って、かっこいい男かしら? 」
「馬鹿言っちゃいけねえ。源斎先生は、このあたりじゃ有名なお医者様だが、もう齢50を超えるんじゃねぇか? 」
なんだ、がっかり。じゃあ、違うのかしら。お医者様だと、毒薬も扱えるだろうにね。
「うーん、やっぱり小娘にゃ無理か。」
・・・ かちーん
「親分さん、でもね、お医者様って今回の事件に、関係ないわけじゃないと思うのよね。明らかに、毒が使われてるし」
「・・・ まあ、そうだな。伊勢屋にもあたってみるか」
伊勢屋に行くことになった。親分と下っ引きの文吉がてくてく歩く後を、あたいと右坊、左娘がついて歩く。
右坊が歌いだす。
「歩こぉ、歩こぉ、あたしはー元気ぃ♪」
文吉が振り向きざま、
「その歌、面白いね。ここいらじゃ聞いたことねえや。なんていう歌? 」
「んーとね、『さんぽ』っていう歌なんだ。化けもののトロトロとか、真黒メラニン色素とか、メイ牛山とか、化け猫車とかでてくるんだ! 」
左娘が右坊の尻を蹴っ飛ばす。
「おいおい。未来情報むやみにに流すな。後半かなり間違ってるし」
☆
伊勢屋に着いた。かなり繁盛している店で、ひっきりなしに人が出入りしている。親分さん、店の奥に入って、おかみさんを呼び出す。
「・・・ おめぇさんら、人形町の越野屋は知っていなさるかい? 」
「・・・ 亭主に確認しなきゃはっきりとは言えませんが、まずお取引のある先ではないと思います」
「そうけぇ。じゃあ、越野屋の娘の『お綾』も知らねえな? 」
「ええ・・。親分さん、まさか、そのお綾さんて・・・? 」
「ああ、昨日の夜、お清さんと同じ殺され方をしたんだ。・・・ つかぬことを聞くが、お清さん、お医者の源斎先生のところに通っちゃあいなかったかい? 」
「ええ、ええ。なんか最近、体の調子が悪いとかいって。年頃の娘だし、嫁入りに差し支えると困りますし、親としても気になりますから・・・ そういえば、家を出たあの日の朝も行ってました。でも、お昼ころには帰ってましたけどね」
「そうけぇ。いやさ、人形町の『お綾』も、源斎先生のところに通っていたのよ。こいつぁ、ただの偶然かねぇ。いや、邪魔したな。ありがとよ」
☆
伊勢屋を出て、通りで親分があたいに尋ねた。
「・・・ お嬢さんよ、どう思う? 源斎先生、関係してると思うか? 」
「偶然かも知れないけど、源斎先生のところに何かあるんじゃないかしら・・・ どう親分、あたいが源斎先生のところ、行ってみてもいいわよ? 」
「・・・ うん、行って様子を見るなら、お前さんの方が適任だろう。頼むよ、お嬢さん・・・ そう言えば、お嬢さんの名前を聞いてなかったな。あっしは、『又蔵』ってえんだ。お前さんは? 」
「『お岩』です。」
「おいらは右坊! こっちは左娘!」
「ちょ、ちょっと! 」
「弟、妹はずいぶん変わった名前だな、お岩さん」
「あ、いや、右坊は『右の助(うのすけ』、左娘は「お左与』という立派な名前があるんですよぅ。右坊、左娘はあだ名です」
「そうけぇ。・・・ ま、まずは源斎先生のところにいっておくんな。ただし、危ない真似だけはやめておくんな」
「あいよ! 」




