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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第7章 十手持ちはいい男
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連続殺人


「て、てえへんだぁ! 」


どたどたどたと、文吉が走る。


「お、親分! また、殺されたぁ! 」


「なんだとぉ? またってぇと、なにかぃ? 若ぇ娘か! 」


「へい、また素っ裸でさ」


「案内しろぃっ! 」


・・・ しまった、左娘が予言したとおりになった。これはおぼこ娘の心の臓をねらった犯罪、連続する可能性は大であったのだ。


あたいらは、人に見えないように霊体のまま、親分と下っぴきについていった。次の犯罪を阻止できなかった罪悪感というか、後ろめたい気持ちを抱えながら・・・


前を歩く親分の後ろ頭をながめながら、親分、心なしかうつむいているなと思った。下手人をすぐに捕えることができなかった、悔しい気持ちになっているんじゃないだろうか・・・


そこは、大胆にも、大通りの真ん中だった。


全裸の娘が、うつぶせに倒れている。地面が血をすって、娘の下がぐずぐずになっている。


「文吉、仏さん、仰向けにしてくれぃ」


「へ、へい・・・。こればっかりは、慣れねぇなあ」


ごろりん。


おおお・・・ 野次馬たちから、ため息が漏れた。


・・・ クビの下から胃の腑にかけて、すっぱりと切れた刀傷。そして、小ぶりの双丘を泣き別れさせ、真ん中が少しえぐれている。



やはり、心の臓がない。



文吉、ちょいと離れた道端で、また盛大に吐いている。


「・・・ ひでぇことしやがる。情け容赦ねぇ。人の子をなんだと思ってやがる。伊勢屋の娘と同じやり口だな」


親分、娘の口元に鼻を近づけた。


「・・・ 同じ毒の臭いがすらぁ」


「うぐぅ・・・ぐふっ、ぐふっ。お、親分、この娘さんは、一体誰ですかね」


「それを探り当てるのがおめぇの仕事だ・・・ 所見を言ってみろい」


「・・・ 顔はめちゃかわいいですな。吸いつきてぇくらいの形のいい唇で・・・ 年は伊勢屋の娘と同じころ・・・ 胸も同じくらいの膨らみで・・・ このくらいがちょうど愛嬌があるというか・・・ 腰の張り具合は伊勢屋よりいい具合で・・・ 秘処の草むらも勢いがあって、あぁ、なんかにおい立つというか・・・」


ばしーん!! 盛大に頭をはる音がした。


「馬鹿野郎!! おめえ、そんなんだからいつまでたってもモノにならねえんだ。誰もおめえの女の好みなんざぁ聞いてねえんだよ。そんな話は岡場所でやれ!


・・・ はぁ~(ため息)。要するにだ、伊勢屋の娘と同じく、この仏さんも生粋のお嬢さんだ。手荒れもねぇ。肌荒れもねぇ。様子からして、おぼこだ。伊勢屋の娘と同じなんだよ」


犯人が一緒だ。今度の娘さんと、伊勢屋の娘さんとの共通点を探せば、犯人にたどりつけるかもしれないのだ。しっかりしろ、文吉!


「伊勢屋の親御さんを探してくれた、あの娘さんと妹、弟も探してくれねぇか。同じ年頃の娘だ、犯人を見つける糸口をみつけてくれるかもしれねぇ」


はいはい! 呼んでくれますか! 即、実体化した。


「親分さん! あたいはこ・こ・よっ」


「うわあ、びっくりした! いつ来たんでえ」


右坊も両手を広げて親分に存在をアピール。


「じゃじゃーん!! 呼んだ? オヤビン! ボクはここだよっ! 」


左娘も控えめにアピール。


「えっと・・・ ま、ここにいるから」


「神出鬼没ってのはこのことかぃ。お前さんら、一体・・・? 」



亡骸は、近くの番所に運ばれた。娘の身元は、すぐにわかった。人形町で生地問屋を営む越野屋の娘で、お(あや)。越野屋夫婦は、昨日娘がでかけたきり帰って来ず、必死にあちこち探していたのだが、最悪の事態になってしまった。


番屋に呼ばれた店主とその嫁、亡骸の前で泣き叫ぶ。


「お綾・・・ いってぇ、誰がこんな酷いことを・・・ 」


「お綾! お綾! 」


親分が店主夫婦の背後からそっと尋ねる。


「つれぇところ悪いがな・・・ 犯人を捕まえるためだ、質問に答えてくんな。お綾さんは、昨日どこに行くといって出て行ったんだい? 」


「それが・・・ どこに行くとも言わずに・・・ 」


「何かおかしいことはなかったかい? 男につけられていたとか」


「いえ、そんなことはなかったと思いますが・・・ お前何か知ってるかい? 」


店主がおかみさんに尋ねるが、おかみさんは手ぬぐいを顔に押しつけたまま、首を振った。


「・・・ 日本橋の『伊勢屋』知っているかい? そこの娘のお清が、同じ殺され方をしたんだが・・・ お綾さんは、お清さんと友達だったとか? 」


「いえ、伊勢屋さんを存じ上げませんし、お綾の友達にお清さんという方もいないと思います」


「・・・ う~ん、手がかり無しかぃ。・・・ そこのお嬢さん、何か気付いたことはないかい? 」


お嬢さん?・・・ お嬢さん! そっかー、あたいのことだ! ああ、なんていい響きだろう。お嬢さん・・・ むふふ 100年振りかしら、お嬢さんだなんて。


「・・・ ちょっと、親分さんが変な顔してにらんでるよ! 」


左娘があたいの脇をつつく。


「ほんとはねー、お岩ちゃんはねー、寛永・・・ むぐぐ」


右坊、何を言い出すやら! あわてて右坊の口をふさいだ。


「す、すみません。あの、思うんですけど・・・ お清ちゃんもお綾ちゃんも、誰にも言わずに、自分から出てってますね。これって、やっぱり、男なんじゃないかしらん? 」


「お綾にそんな男がいたことはないと思うが・・・ おい、どうなんだ? 」と、店主、隣に座っている奥さんをつつく。


「親に隠れて男と付き合うような娘じゃありませんっ! 」 ヒステリーに叫ぶ。


「でも、この娘らの・・・ いえ、あたいらの年頃って、恋にあこがれたり、いい男にのぼせあがったりするもので・・・ そうだ、お綾ちゃんは最近、どこかに頻繁に行く場所とかありませんでしたか? 芝居小屋とか・・・ 」


「いや、まさか、役者なんぞに! ・・・頻繁と言うか、ちょっと体の調子が悪いとかで、医者の源斎先生のところに通ってはいたが・・・ 」


「そういえば、お綾がいなくなった日の朝も、源斎先生のところに行きました。でも、お昼には帰ってきてましたよ」


ふむ、源斎先生って、男よね。


「源斎先生って、かっこいい男かしら? 」


「馬鹿言っちゃいけねえ。源斎先生は、このあたりじゃ有名なお医者様だが、もう(よわい)50を超えるんじゃねぇか? 」


なんだ、がっかり。じゃあ、違うのかしら。お医者様だと、毒薬も扱えるだろうにね。


「うーん、やっぱり小娘にゃ無理か。」


・・・ かちーん


「親分さん、でもね、お医者様って今回の事件に、関係ないわけじゃないと思うのよね。明らかに、毒が使われてるし」


「・・・ まあ、そうだな。伊勢屋にもあたってみるか」


伊勢屋に行くことになった。親分と下っ引きの文吉がてくてく歩く後を、あたいと右坊、左娘がついて歩く。


右坊が歌いだす。


「歩こぉ、歩こぉ、あたしはー元気ぃ♪」


文吉が振り向きざま、


「その歌、面白いね。ここいらじゃ聞いたことねえや。なんていう歌? 」


「んーとね、『さんぽ』っていう歌なんだ。化けもののトロトロとか、真黒メラニン色素とか、メイ牛山とか、化け猫車とかでてくるんだ! 」


左娘が右坊の尻を蹴っ飛ばす。


「おいおい。未来情報むやみにに流すな。後半かなり間違ってるし」





伊勢屋に着いた。かなり繁盛している店で、ひっきりなしに人が出入りしている。親分さん、店の奥に入って、おかみさんを呼び出す。


「・・・ おめぇさんら、人形町の越野屋は知っていなさるかい? 」


「・・・ 亭主に確認しなきゃはっきりとは言えませんが、まずお取引のある先ではないと思います」


「そうけぇ。じゃあ、越野屋の娘の『お綾』も知らねえな? 」


「ええ・・。親分さん、まさか、そのお綾さんて・・・? 」


「ああ、昨日の夜、お清さんと同じ殺され方をしたんだ。・・・ つかぬことを聞くが、お清さん、お医者の源斎先生のところに通っちゃあいなかったかい? 」


「ええ、ええ。なんか最近、体の調子が悪いとかいって。年頃の娘だし、嫁入りに差し支えると困りますし、親としても気になりますから・・・ そういえば、家を出たあの日の朝も行ってました。でも、お昼ころには帰ってましたけどね」


「そうけぇ。いやさ、人形町の『お綾』も、源斎先生のところに通っていたのよ。こいつぁ、ただの偶然かねぇ。いや、邪魔したな。ありがとよ」





伊勢屋を出て、通りで親分があたいに尋ねた。


「・・・ お嬢さんよ、どう思う? 源斎先生、関係してると思うか? 」


「偶然かも知れないけど、源斎先生のところに何かあるんじゃないかしら・・・ どう親分、あたいが源斎先生のところ、行ってみてもいいわよ? 」


「・・・ うん、行って様子を見るなら、お前さんの方が適任だろう。頼むよ、お嬢さん・・・ そう言えば、お嬢さんの名前を聞いてなかったな。あっしは、『又蔵』ってえんだ。お前さんは? 」


「『お岩』です。」


「おいらは右坊! こっちは左娘!」


「ちょ、ちょっと! 」


「弟、妹はずいぶん変わった名前だな、お岩さん」


「あ、いや、右坊は『右の助(うのすけ』、左娘は「お左与さよ』という立派な名前があるんですよぅ。右坊、左娘はあだ名です」


「そうけぇ。・・・ ま、まずは源斎先生のところにいっておくんな。ただし、危ない真似だけはやめておくんな」


「あいよ! 」


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