踏んづけて
女子高生に彼との雨宿りをプレゼントしてから、1週間ほど経ったろうか。ライトが騒ぎ出した。
「くんくんくん・・・ あ、あの女子高生のにおいがするよ! 」
「・・・ 聞きようによっては変態みたいだよ」レフティが顔をしかめる。
あ、あの女の子だ。例の彼を連れているじゃありませんか。そうか、チャンスをつかんだのね。付き合うようになったみたい、うれしいじゃないの。
「この神社なの・・・ ここでお願いしたら、遼クンと一緒になれたの」
遼クンと呼ばれた男子、あの日は遠くから見ただけなのでわからなかったが、かなりチャラい。
「え、お前、マジかよ! 」
・・・いやな予感がした。あの噂を口にするつもりか・・・?
「遼クン・・・? 」
「知らないのか、ココ・・・ ほら、お芝居とか映画とか、ここの神様を題材にしたやつやると、俳優とかスタッフとかに死人が出るんだよ」
「ウッソー!! ウソでしょ?! 」
「えっと確か、旦那さんが金持ちの若い女と結婚するために、古い女房が邪魔になって、毒をもって、それでその奥さんが髪の毛ずるむけになって、まぶたが腫れて・・・おう、気持ち悪! そのお化けがここの神様」
ああ・・・ おそろしい風評被害。私はそんな化け物じゃない! 許し難い、あのツル禿南北という戯作者!
「えー・・・ 知らなかった・・・ 」あからさまにガッカリしている。
「行こうぜ、マコ! 」
お礼参りに来たはずなのに、男子の言葉で女子はすっかりひいてしまったようだ。二人は鳥居の前でまわれ右して、去って行った。
その時、チャラ男の心の中が読めてしまった。
「あっちゃー、参った! 雨宿りさせる前に、男の子の心のぞけばよかった・・・ こりゃひどいわ」
「ひどいわね、野獣ね」
「はふっ、はふっ! おいらも獣だよ! 」
「あんたはみたまんま、獣。あいつは『女泣かせ』という名の獣よ」
どうしよう・・・ あの男の浮気が発覚したら、あの女の子、やっぱり崇り神にお参りしたせいだとか思わないかしら?
「そうね・・・ 人間は何でも他者のせいにしたがるからね」
くっつけちゃった以上、きれいに別れさせるのも神の務めか。っていうか、これ以上の風評被害はごめんだ。
私はおごそかに宣言した。
「さ、ついていくよ! 」
「わーい! ストーカーだ! 」
「もういいってば」
☆
遼クンとマコちゃんは、仲良く手をつないで、商店街を抜けて、地下鉄Y駅近くの某ハンバーガーショップに入って行った。
ああ、私はこのニオイ、ダメだわ。なんで四足の肉なんて食べるのかしら。
レフティが四足に反応する。
「ちょっと! それ差別語! 」
あ、ごめんごめん。あなたたちを普通の動物霊だなんて思ってないわよ・・・ そうだ、レフティーちゃん、あなた、あの二人の近くにいる女子高生に憑依してくれない?
「憑依? ロックちゃん、まさか・・・? 」
そう、その女の子を彼の女に仕立てて、嫉妬で暴れて、マコちゃんに彼を嫌わせればいいのよ! これで円満解決!
「そうかなあ・・・ ロックちゃんあんた、やっぱり崇り神の素質あるんじゃない? 」
いいから、やる! 私の神社に人がこないと、あんたたちに油揚げ買ってあげられないよ!
キツネたちは、油揚げが大好物だ。
「じゃ、しょうがないわねぇ・・・ あ、あの子いいんじゃない? 彼を見つめてるし、ちょっと暗そうだし、雰囲気あるわ」
レフティーはそういうと、その女の子に向かって駆けていった。
「おぅりゃああああああああ!!!!遼クン返せ、泥棒ネコおおお!!死ねやヴォけぇええええええええ!!!! 」
暗い女の子が豹変し、手にぶっとい業務用カッターナイフを握って、マコちゃんに向かっていった。
ちょ、ちょっとレフティちゃん! それやりすぎよ!
レフティは、私の目の前に戻っていた。
「憑依できなかった。てか、憑依する前に、あの子殺気ぶんぶん。あの女子高生殺す気満々で、暴走してんのよ」
ええ! じゃあ、あの子、本気!? ライトくん! なんとかしてよ!!
「よし! やっつけてくる!! 」
ライトはそういうと、どろんどろんと煙を出した。
「キャン! キャン! キャン! 」
白い子犬に化けた・・・ 白い子犬は、ハンバーガーショップに入り、カッターナイフを振りかざしている女の子に向かって突進していった・・・
女の子がカッターナイフを振りおろそうとした瞬間、白い子犬が体当たりした。
どすん! 女の子がちょっとひるんだとき、ババババァーーーーーーー!!!!!
真っ赤な液体が女の子の顔めがけて飛び、顔にあたって周囲に飛び散った。
な、何だ?! 血か?!
「ひぇえええええええ!!! 」「きゃぁああああああ!!! 」
ハンバーガーショップの客の悲鳴があちこちから聞こえる。
カッターナイフをもった女の子も、「うぎゃっ」と、小さく叫ぶとカッターナイフをぽろりと落とし、ハンバーガーショップを飛び出していった。
ラ、ライトくん! ライトくん、刺されてしまったのか!?
レフティが冷たく言い放つ。
「もういいわよ、戻っておいで。トマトくさくてかなわないわ」
白い煙がぽよんとあがって、ライトくんが帰ってきた。
「先手必勝! 赤いのが入った筒があったから、ふんずけてあの女の子にむけてぶちまけてやった」
・・・そうか! トマトケチャップ! 店のあちこちに、マスタードの黄色い筒と一緒に、赤いケチャップの筒が置いてあった。ライトはカッターで切られることはなかったようだ。
くだんの女子高生「マコちゃん」は、果敢にもカッターナイフを振り回す女の子に立ち向かい、学生かばんを前に突き出していた。突然子犬があらわれ、ナイフ女がケチャップだらけになって逃げ出したので、呆然として立ちつくしていた。
ふと後ろを見ると、ぶるぶる震えてうずくまっている遼クンの姿があった。
マコちゃん、しばらく遼君を眺めていたが、そのうちついっと顔をひきあげると、ハンバーガーショップの出入り口に向けすたすたと歩き去った。
終わったわね。
「そうね、終わったね」 相槌を打つレフティ。
「おなかすいた」 鼻をひくひくさせるライト。
☆
ケチャップ事件から数日。今日も私のお社は平和だ。
やっぱり、別れたのかなあ、マコちゃん。あたい、崇り神って思われてるかなあ。
「どっちもイエスだと思う。あ、キリストのことじゃなくて」
「くんくんくん・・・・ あ、あの女子高生の匂いがする! 」
「あいかわらず、変態のように聞こえるわよ。」
ライトくんが言うのは、マコちゃんのことだ。マコちゃんが境内に入ってきて、お社の前で手を合わせた。
「怖い神様、この間は助けてくれてありがとうございます。今度こそ、素敵な彼氏がみつかりますように! 」
「あら、遼クンの正体がわかってよかったって思ってるみたいね。助けたってわかってるみたいだし」
「わかってないよ! 助けたのはおいらだよ! 」
怖い・・・というのがひっかかるけど、感謝されるのは気持がいい。さて、この娘の新たな願い、適えるべきか?
「さ、どうする、お岩、いえロックちゃん?」




