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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第1章 雨宿り
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踏んづけて

女子高生に彼との雨宿りをプレゼントしてから、1週間ほど経ったろうか。ライトが騒ぎ出した。


「くんくんくん・・・ あ、あの女子高生のにおいがするよ! 」


「・・・ 聞きようによっては変態みたいだよ」レフティが顔をしかめる。


あ、あの女の子だ。例の彼を連れているじゃありませんか。そうか、チャンスをつかんだのね。付き合うようになったみたい、うれしいじゃないの。


「この神社なの・・・ ここでお願いしたら、遼クンと一緒になれたの」


遼クンと呼ばれた男子、あの日は遠くから見ただけなのでわからなかったが、かなりチャラい。


「え、お前、マジかよ! 」


・・・いやな予感がした。あの噂を口にするつもりか・・・?


「遼クン・・・? 」


「知らないのか、ココ・・・ ほら、お芝居とか映画とか、ここの神様を題材にしたやつやると、俳優とかスタッフとかに死人が出るんだよ」


「ウッソー!! ウソでしょ?! 」


「えっと確か、旦那さんが金持ちの若い女と結婚するために、古い女房が邪魔になって、毒をもって、それでその奥さんが髪の毛ずるむけになって、まぶたが腫れて・・・おう、気持ち悪! そのお化けがここの神様」


ああ・・・ おそろしい風評被害。私はそんな化け物じゃない! 許し難い、あのツル禿南北という戯作者!


「えー・・・ 知らなかった・・・ 」あからさまにガッカリしている。


「行こうぜ、マコ! 」


お礼参りに来たはずなのに、男子の言葉で女子はすっかりひいてしまったようだ。二人は鳥居の前でまわれ右して、去って行った。


その時、チャラ男の心の中が読めてしまった。


「あっちゃー、参った! 雨宿りさせる前に、男の子の心のぞけばよかった・・・ こりゃひどいわ」


「ひどいわね、野獣ね」


「はふっ、はふっ! おいらも獣だよ! 」


「あんたはみたまんま、獣。あいつは『女泣かせ』という名の獣よ」


どうしよう・・・ あの男の浮気が発覚したら、あの女の子、やっぱり崇り神にお参りしたせいだとか思わないかしら?


「そうね・・・ 人間は何でも他者(ヒト)のせいにしたがるからね」


くっつけちゃった以上、きれいに別れさせるのも神の務めか。っていうか、これ以上の風評被害はごめんだ。


私はおごそかに宣言した。


「さ、ついていくよ! 」


「わーい! ストーカーだ! 」


「もういいってば」



遼クンとマコちゃんは、仲良く手をつないで、商店街を抜けて、地下鉄Y駅近くの某ハンバーガーショップに入って行った。


ああ、私はこのニオイ、ダメだわ。なんで四足の肉なんて食べるのかしら。


レフティが四足に反応する。


「ちょっと! それ差別語! 」


あ、ごめんごめん。あなたたちを普通の動物霊だなんて思ってないわよ・・・ そうだ、レフティーちゃん、あなた、あの二人の近くにいる女子高生に憑依(ひょうい)してくれない?


「憑依? ロックちゃん、まさか・・・? 」


そう、その女の子を彼の女に仕立てて、嫉妬で暴れて、マコちゃんに彼を嫌わせればいいのよ! これで円満解決!


「そうかなあ・・・ ロックちゃんあんた、やっぱり崇り神の素質あるんじゃない? 」


いいから、やる! 私の神社に人がこないと、あんたたちに油揚げ買ってあげられないよ! 


キツネたちは、油揚げが大好物だ。


「じゃ、しょうがないわねぇ・・・ あ、あの子いいんじゃない? 彼を見つめてるし、ちょっと暗そうだし、雰囲気あるわ」


レフティーはそういうと、その女の子に向かって駆けていった。




「おぅりゃああああああああ!!!!遼クン返せ、泥棒ネコおおお!!死ねやヴォけぇええええええええ!!!! 」


暗い女の子が豹変し、手にぶっとい業務用カッターナイフを握って、マコちゃんに向かっていった。


ちょ、ちょっとレフティちゃん! それやりすぎよ!


レフティは、私の目の前に戻っていた。


「憑依できなかった。てか、憑依する前に、あの子殺気ぶんぶん。あの女子高生殺す気満々で、暴走してんのよ」


ええ! じゃあ、あの子、本気!? ライトくん! なんとかしてよ!!


「よし! やっつけてくる!! 」


ライトはそういうと、どろんどろんと煙を出した。


「キャン! キャン! キャン! 」


白い子犬に化けた・・・ 白い子犬は、ハンバーガーショップに入り、カッターナイフを振りかざしている女の子に向かって突進していった・・・


女の子がカッターナイフを振りおろそうとした瞬間、白い子犬が体当たりした。


どすん! 女の子がちょっとひるんだとき、ババババァーーーーーーー!!!!!


真っ赤な液体が女の子の顔めがけて飛び、顔にあたって周囲に飛び散った。


な、何だ?! 血か?!


「ひぇえええええええ!!! 」「きゃぁああああああ!!! 」


ハンバーガーショップの客の悲鳴があちこちから聞こえる。


カッターナイフをもった女の子も、「うぎゃっ」と、小さく叫ぶとカッターナイフをぽろりと落とし、ハンバーガーショップを飛び出していった。


ラ、ライトくん! ライトくん、刺されてしまったのか!?




レフティが冷たく言い放つ。


「もういいわよ、戻っておいで。トマトくさくてかなわないわ」


白い煙がぽよんとあがって、ライトくんが帰ってきた。


「先手必勝! 赤いのが入った筒があったから、ふんずけてあの女の子にむけてぶちまけてやった」


・・・そうか! トマトケチャップ! 店のあちこちに、マスタードの黄色い筒と一緒に、赤いケチャップの筒が置いてあった。ライトはカッターで切られることはなかったようだ。



くだんの女子高生「マコちゃん」は、果敢にもカッターナイフを振り回す女の子に立ち向かい、学生かばんを前に突き出していた。突然子犬があらわれ、ナイフ女がケチャップだらけになって逃げ出したので、呆然として立ちつくしていた。


ふと後ろを見ると、ぶるぶる震えてうずくまっている遼クンの姿があった。


マコちゃん、しばらく遼君を眺めていたが、そのうちついっと顔をひきあげると、ハンバーガーショップの出入り口に向けすたすたと歩き去った。


終わったわね。


「そうね、終わったね」 相槌を打つレフティ。


「おなかすいた」 鼻をひくひくさせるライト。





ケチャップ事件から数日。今日も私のお(やしろ)は平和だ。


やっぱり、別れたのかなあ、マコちゃん。あたい、崇り神って思われてるかなあ。


「どっちもイエスだと思う。あ、キリストのことじゃなくて」


「くんくんくん・・・・ あ、あの女子高生の匂いがする! 」


「あいかわらず、変態のように聞こえるわよ。」



ライトくんが言うのは、マコちゃんのことだ。マコちゃんが境内に入ってきて、お社の前で手を合わせた。


「怖い神様、この間は助けてくれてありがとうございます。今度こそ、素敵な彼氏がみつかりますように! 」


「あら、遼クンの正体がわかってよかったって思ってるみたいね。助けたってわかってるみたいだし」


「わかってないよ! 助けたのはおいらだよ! 」


怖い・・・というのがひっかかるけど、感謝されるのは気持がいい。さて、この娘の新たな願い、適えるべきか?


「さ、どうする、お岩、いえロックちゃん?」


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