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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第6章 温泉に行こう
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修善寺


このところ、いくつかのお願い事を叶えてきた。どれも、一筋縄でいかないようなお願い事で、あたいは結構疲れてしまった。疲れたときは、温泉よ、温泉。というわけで、レフティ、ライトをつれて、伊豆に行くことにした。なぜ伊豆?


そりゃあ、伊豆はね、あたいがお江戸で生きてたとき、憧れの湯治場だったわけよ。でも、箱根にゃぁ関所があるし、おいそれと女のあたいが行けるような場所でもなかったし、何より、お家は貧乏で・・・。


死んでから何度か行ってみたの。そしたらさぁあ、お湯は多いしさぁあ、なんか楽しい施設も増えてきたしさぁあ、楽しいじゃない? 期せずして神様扱いで地上にとどまることになっちゃったけど。温泉っていいわぁ。あたいの管轄する稲荷社をあんまり長く離れるわけにもいかないから、箱根あたりがちょうどいいのよね。


てなわけで、今、踊り子号とかいう、電車に乗ってます。車掌さんがいない間、あたいも、レフティも、ライトも、実体化して楽しんでます。レフティ、ライトはキツネのままじゃなくて、小学生くらいの女の子、男の子に化けています。


「あ!! 海だ!! 海が見えてきた!! ねぇねぇ、海だよ!! 」


ライトがはしゃぎます。


「わかってるって、うるさいな、もう。ガキじゃないんだから、静かにしてよ! 」


クールなレフティがライトをガキよばわり。


「僕、まだ子供だよ! あーーー!! みかんだ、みかんだ!! ねぇねぇ、ロックちゃん! みかんがなってるよ!! 」


ライトはかなりのハイテンション・・・ いまどき、電車に乗ったくらいでここまでおおはしゃぎする子供もおるまい。


そのとき・・・


「冷たい生ビールをご用意しております。コーヒー、お茶、ジュース、サンドイッチにお弁当もお求めいただけます・・・ 」


車内販売のお姉さんが、重そうにワゴンを押しながらやってきた。


くんかくんかくんか・・・ ライトが鼻をひくつかせる。やばい、ライトの目が光った。


「ねぇねぇ、お姉さん! 油揚げないの? 」


「え! あ、油揚げですか? あいにく、ご用意がございません・・・ 」


「えーーーーー。あんなにおいしいもの、持ってないの? そんな車内販売、やめた方がいいんじゃない? 」


こ、こら! 馬鹿なこと言うんじゃないよ! す、すみません、この子、冗談がきつくって・・・


怪訝そうな顔をする売り子さんを見送り、売り子さんが隣の車両に移った時にライト君の頭を押さえていた手を離した。


「あのさ、私達どこに行くか聞いてないんだけど。今回は、一体どこの温泉に行くの?」


修善寺よ。





修善寺駅についた。もちろん、あたいらは実体化を解いて(つまり見えない幽体になって)、改札をくぐりぬける。


無賃乗車? そうよ、だから何? あたいらは、もうこの世に命のない身なんです。重さもないし、電車になんらの負荷も与えてないのよ。・・・ 売り子さんの迷惑になるくらいよ。


修善寺駅から、温泉の中心街に行くには、ちょっと距離がある。お客がバスに乗り込むのと一緒に乗り込んで、いざ、温泉の中心地へ。


バスを降り、しばらく修善寺川に沿って歩くと、川に向かって飛び出した、大きな石を積み上げた人工の小山がある。「独鈷の湯」だ。足湯が楽しめる無料の施設である。


地名の由来となった「修繕寺」は、弘法大使が西暦807年に真言宗の寺として開いたといわれている。鎌倉幕府第2代将軍、源頼家は、ここ修善寺で殺害された。母の北条政子は1210年に、頼家のために大日如来像を修善寺に寄進している。それがなぜか今は曹洞宗らしい。なにがあった? 修善寺?


あたいらがめざすのは、修善寺と独鈷の湯に近い、「駒井旅館(仮称)」。明治初期営業開始の名湯で、文人の湯としても知られている。この湯を訪れた著名人は、岡本綺堂、芥川龍之介、尾崎紅葉、泉鏡花、夏目漱石、島崎藤村、田山花袋、川端康成、井伏鱒二など、そうそうたるメンバーだ。といっても、全員あたいより年下だし、あたいはかれらの小説とか、読んだことないし。


「やっぱり、実体化して泊まるのは無理よね。」 レフティが尋ねます。


そうね、お金ないもの。


「えーっ! じゃあ、油揚げ食べられないの? 」


ライトは不満そうですが、実体化したって、夕飯に油揚げだけ頼むなんてできないわよ。


駒井旅館の中に入ってみた。もちろん、誰も止めるものはいない。


いかにも古めかしい旅館で、実体化して歩いたらキシキシと音がしそうな板廊下。風呂へ向かう廊下の途中に、ちょっとした小部屋があって、たくさんの額縁がかけてある。あー、これらが島崎だの井伏だの、文人さんか。


夕食の「精」がいただけるまで時間あるから、ちょっとお外散歩しようか。


竹林の小径(こみち)、歩いてみた。すっと伸びた青々とした竹が適度に日差しをさえぎり、ひんやりとした空気が心地よい。


小径を抜け、旅館に戻る通り沿いには、ファンシーショップや喫茶店などが並ぶ。ああ、お金さえあれば。


修善寺の境内に入った。あたいらも神だけど仏さんにお参りでもしよか。


ほら、レフティちゃん!ライトちゃん!一緒に手を合わせて


「お賽銭儲かりますように・・・」



「こら! そこの新神(しんじん)! 」


え?! なになに?!


「四谷の稲荷よ! わしはここじゃ! 」


そこには、とても上品そうな、でも頑固そうな爺様が立っていた。あたいらが見えるってことは・・・


「わしは隣の日枝神社に住んどる、大山咋神(おほやまくひのかみ)じゃ。」


日枝様? 山王様? そ、それは大変えらい神様!


へへ~・・・ おもわずひれ伏す、あたいと2匹のキツネ。


「これ、お前たち、ちゃんとコンコン通信で休暇届けだしたであろうな? 」


あ! 忘れてた・・・

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