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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第5章 黄昏のお願い
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向き不向き

しょぼいお父さん、ひぃひぃ言いながら、面接会場と思しきビルに到着した。


『カシコ販売株式会社 営業部 面接会場』


はぁ、はぁ、はぁ。肉体をなくしたあたいらでも、なんで息が切れるんだろ。


左「生きてたときの記憶なのよ。」


レフティちゃんも、舌をだし、はぁはぁ肩で息をしている。


あのお父さん、営業職になろうとしているの? それはどうかなぁ・・・ みたところ事務職向きなんだけど。面接の様子を、のぞいてみましょうね。うふふ、なんか楽しみ。


廊下にスティール椅子が並んでいて、スーツ姿の男女が10名くらいか、だまって座っている。携帯をいじってたり、文庫本を読んでたり、新聞読んでたり、会社のパンフレット読んでたり、さまざまだ。


「鈴木さーん! 鈴木さーん! 」


「はいっっ! 」


「お入りください。」


きれいだけど目がきつい女性が面接会場のドアを開ける。お父さん、声ひっくり返ってる。緊張しているのが伝わってくる。どきどきどき・・・ レフティちゃん、いっしょに部屋に入るよ!


男「えっと、鈴木さん、どうぞお座りください。」


父「はいっっ! 」


男「・・・ どうぞ、そんなに緊張なさらずに。前にお勤めの会社は・・・ あ、倒産ですか。どういうお仕事をされていたんですか? 」


父「はい、け、経理をしておりました。」


男「経理ですか。失礼ですが、会社がおかしくなっていること、経理をされていて気がつかなかったのでしょうか。」


父「はい・・・ おかしいな、と思って上司に告げたところ・・・ 君は知らなくていいんだと言われ・・・ 」


おいおい、会社の危機を嗅ぎつけながら、上司の一言で引っ込んじまったのかい。気が弱いねぇ。さっきの眼鏡姉さんが質問するみたいだ。


女「鈴木さん、営業のご経験は? 募集要項、お読みになりましたか?」


父「ええ、もちろん読んでおります。 ・・・ 営業の経験はありませんが、一生懸命がんばります! 」


女「あのねぇ、鈴木さん。がんばってどうなるというお年でもないでしょ? うちは、即戦力がほしいのです。・・・ どうぞ、お帰りください。」


あちゃー! それにしても、はっきりいう女ね! お父さん、かわいそうじゃないの! でも、お父さん、営業向きじゃないのは確かだし。この会社の面接の時間を、別の職業の採用面接にあてた方がずっといいのに。・・・ うーん、お父さん、自己認識が甘いか、段取りができないタイプ?


そのとき、勢いよく面接会場のドアが開いた。


「どうだ、いい人来てくれたかね。」


あ! 交差点でお父さんをボッコにした、偏屈じいさんだ!


男女「「会長! 」」


「どうだね、今不況だからな。いい営業が会社を盛り上げるってもんだ。・・・ あ! き、きさま! 交差点でわしを突き飛ばした奴! 」


交差点のじいさんだ・・・。もう、絶望的! レフティちゃん、あの女に憑依して、なんとかして!


左「なんか、気が進まないけど。ほんじゃ行きますよ。」


眼鏡女、一瞬くらっとしたかと思うと、目が金色に輝き、黒眼に戻った。憑依完了。


女「会長、実は私、あの交差点で目撃したんです。そのお父さ・・、いや鈴木さん、会長を突き飛ばすことで、つっこんできたトラックから会長をお守りしたんですよ。」


会長「なーにをいっとるんだ! わしは普通に交差点をあるいておったのに、このボンクラが急に背中を押したんじゃ。わしはトラックが来ることはわかっておったんじゃ! 危なかったら、トラックの方を止めればいいんじゃ! わしが怪我でもしたら、どうするんじゃ! 」


女「はぁ? こんな骨に皮をはりつけたような男に、どうやってトラックを止めろっていうのよ。 じいさん、耄碌してんじゃないわよ! 」


レフティちゃん! だめだめ、切れちゃだめ!


女「切れてないわよおお! さっきから無茶ばっか言いやがって!! 」


・・・ 切れてるわよ。あたいに返事しちゃだめじゃない! 誰にも見えてないだろうけど、あたいは頭を抱えた。


会長「・・・ おもしろい! おい、君、なんていう名前だ。君、明日から営業部に異動な。あー、人事部長、それでいいな? じゃ、新規採用もなしじゃな。ふふふ。費用助かった。」


男「は、はい、わかりました。」





とぼとぼ、さっちゃんの待つアパートに帰るお父さん・・・


レフティちゃん、やっちゃったね・・・


左「・・・ でもね、やっぱりあの会社、お父さんには合わなかったわよ。言い訳じゃないけどさ。」


そうね・・・ あのきっつい女、人事なんかにゃもったいないし。ちょうどよかったのかもね。でも、レフティちゃんが憑依した性格はレフティちゃんだったわけで、あの女の人、レフティが離れた後で営業できるんだろうか?


左「それは大丈夫。憑依しているとき、感じたもん。営業、前からやりたかったみたい、あの眼鏡女。」


あー、じゃあ結果オーライね。それにしても、お父さんに合う仕事ってあるのかしら。


こまったもんねえ。お父さん、経理とか総務とかそういうの探せばいいんだけど、たぶん、そういう職種って、人が余ってこそすれ、足りてないってことはないんだろうな。


あ、アパートから、「さっちゃん」が出てきた。ついて行こう!


左「なんかさ、ほとんど趣味になってない? ストーカー。」


右「おいらも、混ぜてよ!」


あれ?! ライト君、いつの間にかあたいらのもとに来ていた。


右「寝てるのも、あきちゃったよ。ロックちゃん、油揚げ、今度いつ食べられるの? 」


このミッションが成功したら、もしかしたら・・・ なんだけど・・・



さっちゃん、買い物かごを抱えている。今時、買い物かごって珍しくない? お買いもの、なつかしいなあ。あたいも、主婦だったから、ほぼ毎日お買いものに行ったわよ。


左「お武家さまでも、自分で買い物行くんだ。」


何言ってんのよ! 武家ってったって、うちみたいな下級武士は・・・。あん、もう、いいじゃない! 買い物はとても楽しかったのよ。


まずは八百屋さん。


「さっちゃん、いつも感心だねえ! 台風とかの影響で、今野菜高けえんだよ。・・・ どう、この白菜、昨日の売れ残りで、ちょっと色見悪いけどよ、50円でいいや。」


「おじさん、いつもありがとう。頂いていくよ。」


次は魚屋さん。


「いらっしゃい、さっちゃん! 今はこの魚が旬だけど・・・。あ、しゃけの切り身、持ってかない? 昨日、親戚からいただいたのがあるんだよ。魚屋にさかなの贈り物ってねえ、だからあそこはだめなんだ・・・ あいやいや、モノは確かだよ。もちろん、お代なんか頂かないよ! 」


「おばちゃん、いいのかい? ホントにありがとう! 」


ふーん、さっちゃん、商店街のみんなに、好かれてるね。


あ、あの交差点だ。じいさんにお父さんがボコられた場所だ。そこに、こじゃれたパン屋さんがあった。


「サンタさーん! いつもの、パンの耳ある~? 」とさっちゃん。


奥から、白髪、白ひげのサンタクロースの風貌な初老の爺さんがでてきた。


「おお、いらっしゃい! はい、持ってきな。」


「いつもありがとう! うち、貧乏だから、助かるよ! ・・・ ごめんね、パパの仕事が見つかったら、シュークリーム買ってって、パパにお願いするよ! 」


「はっはっは。パパの仕事、すぐに見つかるといいね。早く、うちのシュークリーム、食べられるといいね。」


「うん! さちこ、サンタさんのシュークリーム、大好きなんだよ! 」


さっちゃんは、ちょっとしなびた白菜と、さけの切り身と、パンの耳をゲットして、アパートに帰って行った。


あたいはなんか気になったサンタもどきのじいさんの店に残った。


お店はとても繁盛していて、食パンや総菜パン、スイーツまで置いてある。中高生から主婦の人、会社員やら爺さん婆さん、たくさんの人が訪れる店。匂いからわかるが、きっとおいしいお店だ。


このお店、いいねえ。お父さん、会社員より、こっちの方が合ってると思わない?


左「・・・ そうね。商品の販売、営業をやるタイプじゃ全くないし。」



この店に、欠員ないかなあ・・・


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