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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第5章 黄昏のお願い
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減点パパ

頑固じいさんと頑固娘のちょっとした事件の後、参拝に来るものもなく、わが(やしろ)はヒマムードがあふれている。


日が照っていると暑いくらいだが、木陰の風がひんやり気持ちよく、こくん、こくんといねむりするにはとてもいい気候だ。ライトもレフティも、昼間はほとんど居眠りしている。


お日様も傾いてきて、空の色が(だいだい)色になってきたとき・・・


赤いランドセルを背負った、小学4年生か5年生くらいの女の子が、やってきた。


パンパン! 柏手を打つと


「神さま! パパに新しい仕事がみつかりますように! 」


あたいは、女の子の心をさっと読んだ。近くに来た人の心は、ある程度読むことができるのだ。


そうか、お父さん、失業中なんだ。・・・って、今のお願いのまんまか。


「お賽銭、あげたいけど、うち貧乏だから・・ 冷蔵庫から、油揚げもってきました。お稲荷さんって油揚げ好物でしょ? 」


左右「「油揚げぇ?!!! 」」


ライトとレフティ、同時に叫んだ。もちろん、女の子は気付かない。


女の子はちょこんと頭を下げると、お社から出て行った。


「『タイムサービス』ってシール貼ってあるけど、2枚あるね。よかったね、ライト、レフティ! 」


右「うれしいよぉ! うれしいよぉ!」


左「早く食べましょ! 」


「あれ、この油揚げ、賞味期限は昨日までみたいだけど・・・ 食べる前に、今の女の子のお願い、どうする? 」


右「うれしいよぉ!うれしいよぉ!]


だめだこりゃ。ライトは聞く耳持たない。


左「手伝ってあげてもいいけど、油揚げ食べてから。」


レフティは女の子、ライトより現実的だ。


あたいは、油揚げ超ラブなキツネ2匹に賞味期限切れの油揚げを分け与えながら、おごそかに宣言した。


「食べたら、後を追うからね!」





ほら!行くよ! 油揚げを完食したキツネ2匹の尻を叩いた。あの娘の後を追うのよ!


・・・ きつねって、犬と同じように、鼻がきくのかしら?


くんかくんかくんか くんかくんかくんか

くんかくんかくんか くんかくんかくんか


2匹はそろって鼻をひくひくさせながら、歩いて行く。あー、キツネってやっぱり犬の親戚なんだわ。


右「あ! 今食べた油揚げのにおいがする! 」


左「わかりやすいわね! こっちよ! 」


この2匹、油揚げ以外のにおいは区別できるのだろうか・・・


しばらく、くんかくんか歩きをしていると2匹ともピタッと立ち止り、両耳と長いしっぽがぴんっと立った。


右左「「ここだ! 」」


ここ新宿区Y谷あたりでもすっかり少なくなった、昭和臭ぷんぷんの木造アパートだ。あの女の子が、竹ぼうきで落ち葉をかきあつめている。


がりり、がりり。


「さっちゃん、いつもお掃除、ありがとね。」


「おばちゃん、お帰りー。」


ふーん、感心、感心。今時、こうしたお手伝いをする子も珍しい。


そのとき、黒ぶち眼鏡をかけ、よれよれのスーツの貧相なおじさんがやってきた。


「パパ! お帰りなさい!」


「さちこ、ただいま。」


「今日の面接、どうだった?」


「んー、だめだった。」


「・・・ そう、また明日頑張ればいいじゃない?」


「はは、そうだな。」


「あのね、パパ。ほら、近所に『怖い』って言う神社あるじゃない? 怖いってことは、力も強いと思って、その神社に、油揚げお供えして、パパが早く就職先みつかりますようにってお願いしてきたの。だから、今晩はプレーンのお味噌汁なの。」


「プレーン? あ、具なしか。いいよ、いいよ。さちこと一緒だと、なんでも美味しいよ。」


「ママも早く一緒に食べれるようになると、いいのにな。」


母親は病気で入院中のようだ。


右「おっとりまったりだね。」


左「・・・ ふんだりけったりでしょ。」


よくないことは立て続けに起こることはよくあることですが・・・ それにしても、このあたいが怖いって何ごとよ。



「レフティちゃん、ライトくん、どうする? あのお父さんの仕事見つけてあげるの、ハードル高いわよ。」


左「そうねえ・・・。優しいだけが取り柄みたいだもんねぇ。」


右「優しいといけないの? ねえ、なんで? 」


左「ダメなわけじゃないんだけどね。仕事って、優しさだけじゃだめなのよ。」


右「ええ? おいら、わかんないや。寝てていい?」



「お父さん明日、面接って言ってたわよね。ついて行こうか。」


左「そうね。」


右「すぅ・・・ すぅ・・・」


ライト、ほんとに寝ちゃったわ。





翌朝、あたいとレフティは、あのアパートの前で、しょぼいお父さんが出てくるのを待っていた。


アパートのほの暗い玄関から、よれよれスーツのお父さんが出てきた。うしろから、さちこちゃんが声をかける。


「パパ! よく見せようとしちゃだめよ! リラックス、リラックス! 自分のいいところをアピールして、理解してもらいなよ! 」


「ああ、パパ頑張るよ。」


よく見せようとせずに、いいところをアピール? ちょっと矛盾してるかもしれないが、彼女なりに一生懸命、励まそうとしてるんだろう。


ぶんぶんと手をふるさっちゃんをアパートに残し、しょぼくれお父さんの後をついて行く妙齢のイイ女(和風)のあたいと、女狐(白)。


左「ロックちゃん、今、ひっかかる言い方で私のこと呼ばなかった? 」


大通りに出ると、交差点の信号を渡ろうとしている。お父さんがとぼとぼと横断歩道を渡りだした。正面信号がちかちかして、赤信号に変わった。


お父さん、ちょっとあわてて渡り切ろうとしたところ、前におじいさんがとぼとぼ歩いている。そこへ、大きなトラックが勢いよくカーブを曲がってきて、大きなクラクションをヒステリックに鳴らす。


パァーパァーパァー!!!!


「あぶなああい!!! 」


お父さん、かつてないほどの瞬発力でおじいさんに飛びかかると、背中を抱えるようにして対岸の歩道になだれ込んだ。間一髪、トラックが交差点を通過していく。運ちゃんの捨て台詞付きで。「死にてぇのか、くそじじぃ! 引き殺すぞばぁあああかっ! 」


「大丈夫ですか?」 と、お父さん。


「何をするんじゃあ! 」と、じいさん、持っていたステッキでお父さんの頭をはたく。


「いたい! ひ、ひどいじゃないですか! 」


「ひどいのは、きさまの方だ! 年寄りを突き飛ばすとは、どういう料簡じゃ! 」


「え、いや。だって、あのままだと、トラックにひかれてましたよ? 」


「いいわけするんじゃない! わしがトラックにひかれるわけなぞない! 人を突き飛ばして、怪我をしたらどうするつもりじゃ! 」


「・・・え、いや・・・その・・・ たしかに、突き飛ばしたのは間違いありません。すみませんでした。しかし・・・ 」


「それであやまっているつもりか! きさま、いい歳して、ナニごとじゃ!●▲■○・・・ 」


じいさんは、ぷんぷん怒って、お父さんを叱り続ける。なんで、きちんと反論しないのだろう? 自分の主張ができないんだろう・・・?


「こんなんじゃ、面接、思いやられるわね。」


左「・・・ 善人もほどほどにしないとね。減点1! 」



偏屈じいさんにようやく解放され、歩きだすお父さん。


左手の腕時計をちらりと見ると、びくん! と体が脈打った気がしたと思ったら、ダダァーっと駆けだした。どうやら面接の時間が迫っているらしい。


「レフティちゃん、急ぐよ!」


左「あぁもう! もっと余裕もって家を出なさいよ! 減点2! 」


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