和解
「ところで、お父さん元気?」
千秋「え? なんで?」
・・・ 突然過ぎの質問、これで2回目? 反省。挽回しなくちゃ。
「いえね、あたいの父も、元気だけが取り柄だなんて思ってたんだけど、突然ね。あっさりと。・・・ 脳溢血? あたいも、憎まれ口きいてないで、もっと優しくしてあげればよかったなんてね。」
千秋「・・・。 あたし、何年も会ってないの。会わせる顔がないっていうか。結局父さんのいうとおり、旦那もあたしもガキで、離婚しちゃったしね。」
「元気なんでしょ? お父さん。今のうちよ、孝行できるのも。あたいみたいに、突然いなくなっちゃうと・・・」
ちょっと泣いて見せた。あたいって、女優? うそも方便よね、許されるわよね?
千秋「そうね。・・・ 玄太にもまだ会わせてないし・・・。あ、父の名前、玄太郎っていうの。おかしいでしょ? 私、結構ファザコンなんだわ。」
ファザコン? なにそれ? あ、テレビゲームのやつ?
右「それはファミコン! しかも古いし。」
玄太君と前を歩いていたライトが振り向いて言った。あたいの思念につっこみを入れるな! 不自然すぎるだろ。
玄太「ライトくーん、どうしたの?」
いぶかる玄太君。やばい、そろそろ限界だわ。
「ライト、おいで。じゃ、私たちはこの辺で・・・ 」
千秋「また、明日。さようならー。」
このぐらいプッシュしておけば、いいでしょう。いったん社に帰って、選手交代。ライトを置いて、レフティちゃんと出かけます。
☆
さあ、夜の部スタート。行く先はもちろん、あの色っぽいママさんの居酒屋。ほうら、今夜もじいさん、鼻の下伸ばしてるわよん。
ま「玄さん、わかってるんでしょ。千秋ちゃん、戻ってきてるわよ。」
じ「・・・ ああ。電気工事の会社に勤めたんだって。昔の仲間がその会社にいてさ。知らせてくれた。」
ま「じゃあ、なんで会いにいってあげないの? ・・・ 意地っ張りねえ。妙なところは親子そっくり。・・・ まさか、まだ許してないの? 」
じ「許すも許さねえも、ねえよ。・・・ どうしていいもんだか、よくわからねえんだ。」
ま「千秋ちゃんね、男の子生んだのよ。知ってた? 」
じ「え! 本当かい、そいつぁ・・・。」
ま「離婚しちゃって、一人で育ててんのよ、お孫さん。・・・ 子供を一人で育てるって、玄さんと同じじゃないの。」
じ「・・・ そうか、孫が。・・・ 孫がいるのか。あいつ、子供を一人で育ててるのかい。」
ま「会いに行ってあげなよ。こういうのは、目上の方から頭下げる位でちょうどいいのよ。」
じ「・・・ そうだな。考えてみるよ。」
ま「考える時間なんてないの。明日、会いにいきなさい。いかないと、もうここでは飲ませないよ! 」
じ「え! ・・・ ママさんにはかなわないや。・・・わかったよ。」
ナイス! レフティちゃん! 今夜はさえてるじゃないの!!
左「あたしは、ここよ。」
えええええ?!! まだママさんに憑依してなかったの? てっきり、レフティちゃんが誘導してるんだと思った・・・
左「あたしたちの出番、ないみたいね。」
そうか、ナイスなのはママさんか。なんだ、なるようになってるじゃない! よしよし、じゃあ今晩は、帰りましょう。
ところで、レフティちゃん、じいさんとママさん、なんかいい感じじゃない?
左「いわずもがな、よ。」
☆
翌日の朝がきた。
ライトはまだグーグー寝てる。レフティちゃんはもう、顔も洗って、太陽に向かって考え事してる感じ。何考えてんだろ。
さてさて、世の老人男性は普通、朝早起きなはずだ。
じいさんが千秋さんに会いに行くとしたら、朝なんじゃないか。
よし、また25歳のあたいになって・・・ おっと、今度は洋服を着よう。どろんどろん。
「ライト、玄太君に会いに行くよ!」
右「ふにゃ?(今起きたらしい。) わーい! 玄太と遊ぼうっと!」
ライトの精神年齢、保育園の年長さんと一緒か。
保育園に着くと、千秋さんと玄太君が先に玄関あたりにいた。なにやら、もめているみたいだ。
玄太「やーだー。ママ行っちゃだめ! ママが行くなら、ボク帰る! 」
千秋「何言ってるの。ママはお仕事でしょ! わがまま言わないの。」
玄太「やだよー。またお迎え、遅いんでしょ? いつもボク、最後なんだもん。」
あー、そういうことか。女手で子育ても、大変なもんだ。
千秋「玄太! わがまま言っていると、おじいちゃん悲しむよ! 」
玄太「おじいちゃん? 」
千秋「そう、ママのお父さん、とっても厳しかったの。わがまま言うと、すーぐ、ごつんって、ゲンコくれたのよ。」
玄太「ママもゲンコする? 」
千秋「言うこと聞かないと、するかもよー。・・・ おじいちゃんは、とっても強かったんだよ。間違ったことは大嫌いだしね。玄太の名前は、おじいちゃんの名前からもらったのよ。」
玄太「ママ、おじいちゃんのこと、好き? 」
千秋「大好きよ。ほら、玄太、おじいちゃんにゲンコもらわないように、もう行きなさい! 」
じ「・・・ 千秋!」
おっと、いつの間にか、じいさんが来ていた。
千秋「お父さん・・・。」
玄太「・・おじい・・・ちゃん? 」
千秋「・・・ そうよ。玄太、おじいちゃんよ。」
玄太君、おじいちゃーんと大声で呼びながら、じいさんに駆け寄った。じいさん、玄太君をしっかりと抱きよせた。
「帰ろう、ライト。」
右「そうだね。帰ろう。」
☆
「・・・ ってなわけよ。やっと和解できた感じ?」
左「よかったわねー。でもさあ、ロックちゃん、今回あたしたち、何かしたのかしら? ママさん全部わかってたみたいだし、結局ママさんが二人を仲直りさせたんじゃないの? 」
「ちょっ! 何言ってるのよ! ・・・ 神は、自ら助けるものを助けるのよ! 」
左「それ、宗旨違ってるし。結局助けてなんていないし。」
右「ロックちゃん! 約束守ってよ! 油揚げ食べたいよ!」
さて、困った。お賽銭、入ってないし、スーパー丸●に買い出しにい行けない。
そのとき・・・
じいさんと千秋さん、それに玄太君が参拝にやってきた。
じ「ここのお稲荷さんに、お願いしてたんだ。」
千秋「なにを、父さん?」
じ「あ、いや・・・。 お前らが無事でありますようにって。」
千秋「じゃあ、ご利益満点ね、ここの神様。」
そうよ!もっとほめて!!
じいさん、財布をとりだし、お賽銭箱に・・・。音がしない?
わーお! お札だ!
やったね、ライト、レフティ! 油揚げ、たくさん買ってあげられるよ!!
玄太君、帰り際、右側に鎮座するキツネの石像に向かって・・・
「ライト君、またね! 」
・・・ え?