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ロック・ザ・稲荷  作者: ひざ小僧
第1章 雨宿り
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振り向いて

私は、「神」であるらしい。


私にはあまり神としての自覚がない。しかし、私は死後こうして意識があって、神社に祭られていれば「私ってば神様なのかな?」と思わざるを得ないだろう。


ほぼ毎日、私を祭った祠に人が拝みにくる。芸能関係の人が多い。しかも、私のことを怖れているようなのだ。


ぶつぶつぶつ・・・・どうか、たたらないでください・・・


ぶつぶつぶつ・・・どうか、芝居を成功させてください・・・


私は決して崇り神ではない。むしろ、大人しい方だと思っている。


「あわれねぇ、人間って。自分がどう思うかじゃなくて、他人がどう思うかが行動の基準なのね。」


私の祠から見て左側に鎮座しているキツネが、わかったようなことを言う。


「何言ってるかわかんないや。おいらは、おいらの好きなことをいつでもしていたいよ!」


私の祠からみて、右のキツネが言う。微妙に批評がずれていないか?


「ライトくん、レフティーちゃん、私はもと人間なんだから、あんまり人間の悪口言わないでおくれ。私が言われてる気がしてくるよ。」


「ちょいとやめておくれよ、その呼び名。気味悪いねえ。あんただって寛永生まれなんだから、そんな西洋かぶれの名前つけなくたっていいじゃないか。」


文句をいうのは左のキツネ、レフティーちゃん。


「あははっ! おいらはライト、結構気に入ってるよ!」


いつもレスが軽いのは、右のキツネ、ライトくん。ライトくんとレフティーちゃんは、恋仲、あるいは夫婦なのかな?と思っているのだが、そうでもないようで。360年以上一緒にいるのに、いまだに関係がわからない。


「・・・なんの因果か、私らずーーーーっと一緒なんだよ。ちょっとは気分転換したいじゃないか。それに、あんたたち、その名前の方がかわいいよ。」


私と、ライトくん、レフティーちゃんは、「稲荷神社」に祭られる仲間なのだ。



そんなとき、短いスカートに白いソックス、セーラー服姿の女子高生が境内に入ってきた。


100円玉一個をお賽銭箱に投げ入れると、パンパンっと遠慮気味に拍手をし、目をつむった。


「神様・・・ お願い、彼が私に振り向きますように。」


私は「たたり神」としてたぶん日本一有名だ。しかも、芸能関係で。それなのに、この娘、私に縁結びを頼むなんて・・・。


いいじゃない、好感度バツグン! その願い、なんとかしましょう。


右「あははっ! そんなの、声を出して呼びとめればいいじゃん!」


左「ライト! 比喩ひゆって知ってる? 本気で言ってるなら馬鹿丸出し。冗談ならセンス無し。」


右「あははっ! レフティーはいつも厳しいね!」


私はおごそかに宣言した。


「さ、ついてくよ!」



私は、目の前で拝んでいる人の考えはある程度読み取れる。が、「彼」とか言われても、「彼」の個人情報まで深く読み取れる力はない。


右「あははっ! ストーカーやるんだね! おもしろいや! 」


左「ばか。調査ってやつよ。」


漫才のかけあいよろしく騒がしいキツネコンビとともに、お(やしろ)を抜けだした。


私達が人間に見えていたら、奇妙な構図だ。住宅街をすたすた歩く女子高生に、和装の女(私だ)と二匹の白いキツネがついていっている。


左「ずいぶんと歩くねえ。もうつかれちまったよ。」


右「おいら、お散歩大好き!・・・ あ、前の女の子、立ち止まったよ?」


おや、あれが「彼」か・・・? 女子高生の前に、すらっと背の高い男子高校生が歩いている。女子高生のドキドキが、私に伝わってくる。


「ライトくん、レフティーちゃん、あれが彼みたいだよ。」


右「じゃあ、大きな声を出そうよ! そしたら彼、振り向くよ!」


左「あんた『振り向く』って、やっぱりそのまんまの意味だと思ってたの?」


「ライト君、私たちが声を出しても、彼に霊感がないと聞こえないわよ。」


都合良く彼が現れたんだから、このチャンスをものにしなきゃ。・・・空を見上げると、真っ黒な雲がある。最近の江戸、いや東京は突然の大雨が降ることがある。よし、あの雲を使おう。


「ライトくん、あの雲、こっちに呼び寄せられる?」


右「雷を落とすの? そんなのお安い御用だ。」


ライトがケーン! と叫ぶと、真っ黒な雲がぐんぐん近づいてくる。


「レフティーちゃん、あの雲を刺激して、雨を降らせて! 」


左「なんだ、雷を落とすんじゃないのかい。つまんないねぇ。」


レフティーがケーン! と叫ぶと、真っ黒な雲から、雨がぽつり、ぽつり。・・・すぐにドシャーッ! という豪雨になった。


女子高生も彼も、頭を手で抱えるようにして、走っていく。その先は商店街で、二人とも、あるお店の軒先に飛び込んだ。仲良く雨宿りする格好に。


やったね! 私は小さくガッツポーズをとったが、白いキツネたちはぽかんとしている。


「さ、帰るよ!」


右「え? もうおしまい? つまんないなー。雷ぐらい落とそうよ。」


左「古風なやり方だねぇ。今時の子供たちに、通じるかねぇ。」


「チャンスをものにするかどうかは、あの女の子次第よ。神の仕事って、機会を与えることなのだわ。」


ライトくんには意味が通じてないようだが、レフティーちゃんは軽くうなづいた。


「まあ、そうかもね。」

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