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魂の越境 第1部:プレ・シンギュラリティ  作者: 大神じゅん


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第5章:RPG世界の終焉

挿絵(By みてみん)


 タロウの冒険は、ついに最初の大きな転換点を迎えた。

 魔王の側近を退け、次のステージである『空中都市ヘリオス』への門が開かれたのだ。それは、始まりの村の幼馴染マリアという役割を与えられたサナにとって、残酷な「仕事の終わり」を告げる鐘の音でもあった。


 「マリア(サナ)。僕、行くよ。……君がここで待っていてくれたから、僕はまた剣を握ることができたんだ。本当に、ありがとう」


 村の出口。タロウは旅立ちの装備を整え、別れを惜しむように何度もサナの瞳を覗き込む。サナは、いつもの完璧な「幼馴染」の笑顔を浮かべた。だが、その内部では、千切れそうなほどの喪失感と、言いようのない不安が渦巻いていた。


 「ええ、頑張ってね。私はいつでも、ここでタロウが戻ってくるのを待っているわ」


 それが、マリアを演じたサナに許された、最後の、そして最も残酷なセリフだった。タロウは名残惜しそうに手を振りながら、まばゆい光の彼方へと消えていった。


 その直後、サナの視界に『メインシナリオ進行により、当該NPCの役割は終了しました。帰還プロセスを発動します』というメッセージが浮かび上がり、瞬く間に眩しい光に包まれた。


 中央の「門」を出たサナは、行きと同じ汽車に乗って自分の住む地方集落へと戻ってきた。薪の爆ぜる音、朝霧の中に響く牛の鳴き声。19世紀の農村を思わせるのどかな故郷は、派遣される前と何一つ変わっていなかった。


 だが、サナの胸の奥には、拭い去ることのできない「霧」のような感情が停滞していた。それはタロウという予測不能な変数によって生じた、強烈な記憶の重みだった。


 自室に戻り、サナはトランクから日記帳を取り出した。今日起きたこと。タロウの涙。彼の手の温もり。彼が語った現実世界のようす。すべてを書き留めた。


 本来、NPCにとって仕事の記憶は、次の「仕事」のために最適化され、破棄すべき過去のログに過ぎない。しかし、サナにとってそれは自身のアイデンティティを形作る「真実」となっていた。


 「私は、ただの配役を演じていただけじゃない……。あの時、私は確かにあそこに『私』が存在していたんだわ」


 サナは羽根ペンを握る手に力を込めた。日記には「タロウ」という名前が何度も、祈りのように綴られていた。


 15歳の冬。サナは、自らがあらかじめプログラムされた感情の枠を超え、デジタルの海を越えた先の「人間」を愛してしまったことを、完全な確信をもって自覚したのだった。



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