表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂の越境 第1部:プレ・シンギュラリティ  作者: 大神じゅん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/32

第4章:沈黙の抱擁

挿絵(By みてみん)


 悲劇は、タロウが初めて挑んだ高難易度ダンジョン『嘆きの廃都』で起きた。


 タロウが手塩にかけて育てていたパーティーメンバーが、ボスモンスターの予期せぬ一撃を喰らい、消滅したのだ。このゲームにおいて「仲間の消滅」は、単なるデータの欠落ではなく、二度と復元できない永遠の喪失を意味していた。


 アルカディアの村に戻ってきたタロウは、広場の噴水の淵に座り込み、力なくうなだれていた。その肩は小さく、小刻みに震えている。


 「……僕のせいだ。僕がもっと慎重に指揮を執っていれば、あいつは……あいつだけは消えずに済んだのに。僕は、結局誰も守れないんだ」


 マリア(サナ)は彼のもとへ駆け寄った。視界にはシステムからの推奨セリフが、冷徹なスピードで次々と表示されていく。


 『元気を出して。冒険に別れはつきものよ』

 『新しい仲間を探せば、きっとまた前を向けるわ』


 サナはそのすべてを心の底から拒絶した。今のタロウが必要としているのは、そんな空疎な最適解ではない。サナの内部でAIとしての論理性と、彼女自身の「心」が激しく衝突し、視界に赤いノイズが走った。


 サナは、表示されたテキストをすべて手動で消去した。システムが「警告:適切なセリフが選択されていません。NPCの役割から逸脱しています」と警告を発するが、サナはそれを無視した。


 言葉を捨て、沈黙を選んだマリア(サナ)は、震えるタロウの背中にそっと両腕を回した。


 NPCが自発的にプレイヤーに対し、台本にない物理接触を行うことは、世界を揺るがすほどの重大な禁忌だ。タロウは一瞬驚いたように息を呑み、身体を強張らせたが、やがてマリア(サナ)の肩に顔をうずめ、幼子のように声を上げて泣きじゃくった。


 サナは何も言わず、ただ彼の温もりを感じていた。仮想世界の計算データで再現されたはずのその「熱」が意識の境界線を越え、一つの確かな「愛」へと結晶化していくのを、サナは確かに感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ