第23章:強制送還
サナが意識を取り戻すと、そこは慣れ親しんだ19世紀風の自分の部屋だった。
窓の外からは、夕暮れの集落を包む、のどかな鐘の音が聞こえてくる。薪の燃える匂い、家畜の鳴き声。かつては安らぎの象徴だったその風景が、今はただの色彩豊かな牢獄にしか見えなかった。
「……帰って、きたのね」
サナがベッドから身を起こすと、扉が静かに開き、母のリンと父のケンが部屋に入ってきた。二人の顔には、かつてないほどの悲痛な色が浮かんでいた。集落の「役場」を通じて、サナが犯した「大罪」と、彼女に下される予定のペナルティがすでに通知されていたのだ。
「サナ……なんてことをしてしまったんだ。あんなに役割を外れてはいけないと言ったのに」
父のケンは、絞り出すような声で言った。彼は娘が犯した過ちが、自分たち家族、あるいは集落全体への信頼を揺るがすものであることを知っていた。
「総代からの命令だ。1カ月後の正式な処分が決まるまで、お前はこの家から一歩も出てはいけない」
軟禁。それは、広大な並行世界を旅してきたサナにとって、最も残酷な罰だった。
両親が部屋から出ていった後、サナは震える手で机の引き出しを開け、革表紙の日記帳を取り出した。幸い、日記の内容まではシステムに没収されてはいなかった。サナはまだタロウの温もりが残っているような錯覚を覚えながら、その日の出来事を綴り始めた。
『タロウさん。私は今、小さな部屋に閉じ込められています。窓から見える村の風景は、あの日と何も変わっていません。でも、私の心はもう、ここにはありません』
彼女は、タロウが最後に言った「助けに行く」という言葉を信じ、「待ってる」と何度も何度も声に出して繰り返した。現実世界のタロウが、どのような手段でこの仮想世界の「門」を突破しようとしているのか、サナには想像もつかない。だが、彼女は日記を書き続けることで、自分の意識が消え去るその瞬間まで、自分であり続けようと心に誓った。
集落の夜は暗い。ガス灯しかない19世紀風の仮想世界で、サナは月明りとロウソクの火を頼りに羽根ペンを走らせる。その火が消えるとき、自分の存在も消えてしまうのか。そんな恐怖を振り払うように、彼女は日記の余白に、タロウが教えてくれた21世紀の話を書き綴った。
あと一カ月。あまりにも短い「生」の終わりに向かって、サナの孤独な戦いが始まった。




