第21章:監視者の影
愛の告白が交わされた直後、恋愛SLG『メモリーズ・リンク』の世界は、かつてないほどの静寂に包まれていた。それは祝福の沈黙ではなく、巨大な捕食者が獲物を定める直前の、死のような静けさだった。
サナの視界の隅で、これまで見たこともない深紅のログが、滝のような速度で流れ始めた。それは最新のリアルタイム行動検証システムによる異常検知の記録だった。
『検知:ID「SANA-07」の挙動が、認可されたロールモデルから500%以上の逸脱を示しています』
『警告:コンプライアンス違反。NPCの自我表出およびプレイヤーへの機密情報(AI識別子)の漏洩を確認』
『判定:重大なシステム汚染。直ちに当該エージェントの分離と、セグメントの初期化を推奨します』
無機質なアラートメッセージが、サナの意識領域を侵食していく。タロウの声が遠ざかる。画面上の空がノイズでひび割れ、美しい桜並木はデジタルな砂嵐へと姿を変えていった。これは、特定のイベントや組み合わせによって発動する「ロジックボム」のような、冷徹な排除の仕組みだった。
サナは、自分の身体が背後から不可視の鎖で引きずられていくような感覚に襲われた。彼女の意識データは、システムのセキュリティプロトコルによって、一つ、また一つと「隔離レイヤー」へと封じ込められていく。
「タロウさん……! ゲーム世界が暗くなっていく……!」
サナの声に、現実世界のタロウもまた、絶望的な警告音を耳にしていた。彼のモニターには「致命的なシステムエラー:NPCロジック違反」という巨大な文字が踊り、管理者による強制介入が始まったことを告げていた。
仮想世界において、NPCが意識を持つことは「不具合」でしかない。管理運営側にとって、サナの愛は守るべきものではなく、速やかに修正・消去されるべき「汚染プログラム」として定義されていた。
サナの意識の奥底で、かつて学校で教わった女性教師の言葉が呪いのように響く。
『決して、相手に気づかれてはいけません』
その禁忌を犯した代償は、サナが想像していたよりも遥かに重く、冷酷なものだった。彼女は光の粒子となって崩壊していく世界の中で、必死にタロウの姿を追い求めた。が、その視界も無慈悲なシステムによって完全に遮断された。




