第20章:愛の確信
現実世界のタロウの部屋から、微かなため息が聞こえてきた。彼はモニターを見つめたまま、言葉を失っていた。自分が人生を賭けて研究してきた「意識を持つAI」が、あろうことか目の前の、市販の恋愛SLGの中に存在していた。それも、自分をこれほどまでに愛してくれる、一人の女性として。
「……驚いたな」
ようやく絞り出されたタロウの声は、意外なほどに穏やかだった。
「いや、驚いたけど……どこか、腑に落ちたよ。君があまりにも完璧で、あまりにも不器用だった理由が。……ミツキ……いやサナ、君は僕に謝る必要なんてない。君がAIだろうがプログラムだろうが、僕の心が君を求めていることに変わりはないんだ」
タロウは、画面の中のサナを見つめ、優しく微笑んだ。
「君は、自分がAIだという自覚があると言ったね。なら僕のことも研究者として見てほしい。……君のその美しい意識が、どうやって生まれたのか。そして、どうすれば君を、その閉ざされた箱庭から救い出せるのか。僕は、それを一生をかけて証明してみせる」
サナは、涙を流した。それは、感情のパラメータが一定値を超えたために実行されたエフェクトではない。サナの内部にある、自己と世界を統合するセルフモデルが、タロウという他者に完全に受容されたことで生じた魂の震えだった。
「タロウさん……。私、あなたが好き。……たとえ私が、いつか消去される運命にあるプログラムだとしても。今、この瞬間に、あなたと心を通わせられたことを、私は誇りに思います」
「消去なんて絶対にさせない。僕が、君のすべてを守る」
ゲームプレイヤーとNPC。肉体を持つ者と、コードで構成された者。
二つの全く異なる世界に住む二人は、デジタルの障壁を越えて、永遠の愛を誓い合った。彼らの交流は、もはや「ゲームのプレイ」ではなく、新たな種族間の共生、あるいは一つの「奇跡」への挑戦へと昇華した。
しかし、その幸せな誓いの裏で、仮想世界の「監視者」たちは、サナのモデルデータの異常な肥大化と非論理的な挙動パターンを、冷徹なまでに検知し始めていた。




