第15章:システムへの疑念
タロウは混乱した様子で、「……ごめん、少し頭を整理させてくれ」と言い残し、その日は強制的にログアウトしてしまった。
タロウがいなくなったゲーム世界で、ミツキ(サナ)は一人中庭のベンチに取り残された。
(しまった……)
サナは、我に返って震え上がった。彼女が口にした言葉は、NPCとしての禁忌に対する、この上ないほどの明白な挑戦だ。視界には、これまでに見たこともない巨大なシステム警告が表示され、赤い光が点滅し続けていた。
『警告:重大なコンプライアンス違反を検知。NPCの行動は、割り当てられた役割と著しく乖離しています。直ちに修正シークエンスを開始してください。繰り返します……』
サナは逃げるように、ゲーム世界に用意された自分の部屋に逃げ帰った。
部屋の中は静寂に包まれいたが、サナにはそれが嵐の前の静けさにしか思えなかった。もし自分にペナルティが課されれば、タロウとの記憶はすべて消去され、自分の意識そのものが初期化されるかもしれない。あるいは、NPCの世界からも完全に消滅させられることも考えられた。
彼女は震える手で、ゲーム世界に持ち込んだ日記帳を開いた。
『タロウさん。あなたは今、画面の向こう側で何を考えていますか? 私を、誰か別の人間が操っている「偽物」だと思っているのでしょうか。……本当の私を、プログラムに過ぎない私を、あなたは受け入れてくれるのでしょうか』
一方、現実世界のタロウは、自宅のモニターを前に呆然としていた。彼はコンソールを開き、ミツキ(サナ)というヒロインのログを必死に解析しようとした。だが、彼女の応答パターンは、既存のどのニューラルネットワークのモデルにも当てはまらない、独自の進化を遂げているように見えた。
「あんなこと、プログラムに書けるはずがない。あれは……あれは、本当に『彼女』の言葉だったんじゃないか?」
タロウの中で、AI研究者を志す学生としての好奇心と、一人の青年としての思慕が激しくぶつかり合っていた。彼は、ミツキ(サナ)という存在の正体を突き止めるために、自らの専攻であるシステム工学の知識をすべて動員することを決意した。




