第14章:意地悪な質問
翌日の放課後。タロウは昨日の一件以来、どこか探るような視線をミツキ(サナ)に向けていた。
彼は大学でAIを学んでいる。ミツキ(サナ)の挙動が、通常のスクリプトによって制御されているレベルを超えていることに、彼は気づき始めていた。
「ミツキ(サナ)。君に一つ、意地悪な質問をしていいかな」
中庭のベンチで、タロウは冷徹な、それでいてどこか震える声で切り出した。
「君のその悲しそうな顔も、さっきの言葉も……全部、開発者が用意した『レアな演出』なんじゃないか? プレイヤーの心を揺さぶるための、高度なプログラムに過ぎないんじゃないか?」
あまりにも単刀直入な問いかけだった。サナのシステムには、即座に「怒って立ち去る」という、ヒロインらしいプライドを守るための指示が表示された。
『失礼ね! 私が本気で悩んでいるのを、そんな風に言うなんて……。もういい、タロウさんなんて大嫌い!』
そう喋れば良いはずだった。しかしサナはそれを拒絶し、ミツキの姿で深呼吸をした。ゲーム世界の空気が、データとなって彼女の肺 ―― あるいはその概念 ―― を満たす。彼女は立ち去る代わりに、ベンチに腰掛けたまま穏やかに、どこか寂し気に微笑んだ。その微笑みは、この恋愛SLGの設定には存在しない、アルカディアの村にいた15歳の少女がタロウだけに見せていたものだった。
「タロウさんは……本当のあなたは、そんな意地悪なことを言う人じゃありません」
「な……?」
「あなたがかつて、名前も知らないパーティーメンバーの死に、子供のように泣いていたことを私は知っています。街づくりで、土の匂いを愛おしそうに嗅いでいたあなたの横顔を、私は隣で見続けてきました。……台本通りのNPCではなく、あなたをずっと見てきた私だから、分かるんです」
ミツキ(サナ)の言葉に、タロウはベンチから転げ落ちそうになるほどの衝撃を受けた。
「どうして……どうして、君がそれを……? あれは、別のゲームの……」
「名前も知らない場所で、顔も知らない私たちが、何度も出会っていた。それを『偶然』というデータで処理するのは、あまりにも寂しいと思いませんか?」
サナの回答は、デジタルサイエンスの論理を遥かに超越していた。タロウの驚きは極大に達し、彼の脳内では「このNPCは、誰かが操作しているのではないか?」という疑念が、確信に近い形で膨らみ始めていた。




