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EP 3

冬将軍を金で殴れ――ロジスティクスの魔法

昭和14年(1939年)冬。

帝都・東京、大本営(最高統帥機関)の会議室。

「……ソ連軍三十万、国境へ接近中! しかしご安心を、総理! 我が大日本帝國の皇軍将兵は、マイナス三十度の極寒であろうとも、強靭な『大和魂』と気合いで必ずや耐え抜き、赤いヒグマどもを撃滅してみせます!!」

陸軍の古い将官が、胸を張り、力強く精神論をぶち上げた。

当時の日本軍にとって、シベリアや満州の冬は「耐え忍ぶもの」であり、寒さによる凍傷や戦死は「名誉の負傷」として美化されるきらいがあった。

だが、その場に同席していた近衛総理(若林幸隆)は、呆れ果てたように深くため息をつき、手元の分厚い書類の束を将官の顔面に叩きつけた。

「……痛ッ! そ、総理、何を……!」

「気合いで寒さが凌げるなら、お前は今すぐ全裸で富士山の山頂に行ってこい、馬鹿野郎」

幸隆の氷のように冷たい三白眼が、大本営の将官たちを射抜いた。

「いいか。凍え切った指じゃ、ライフルの引き金すら引けない。腹が減っていれば、戦場を走ることもできない。……『冬将軍』ってのはな、大和魂なんかで戦う相手じゃない。圧倒的な『カネと科学』で殴り倒す相手だ」

幸隆は、叩きつけた書類――第四章から全国の財閥や化学工場にフル稼働で生産させていた『特需物資』の納品書を指差した。

「本日をもって、前線の全将兵に『最新の越冬装備』を配備する。……軍靴の底から胃袋の中まで、資本主義の温かさで満たしてやれ」

   ◆

数日後。満州国境付近の最前線陣地。

吹き荒れる猛吹雪の中、気温はすでにマイナス三十度を下回っていた。

通常であれば、銃の金属パーツに素手で触れれば皮膚が張り付き、兵士たちは塹壕の中で身を寄せ合って凍死の恐怖と戦う過酷な環境である。

しかし。

「おい、新兵。ちゃんと『首元』までジッパーを上げたか? この新型の防寒着は、隙間風さえ防げば中は天国だぞ」

「はいっ、小隊長殿! ……しかしこれ、本当に信じられないほど軽くて温かいですね! 従来の分厚い綿入れ軍服とは大違いです!」

日本の兵士たちが身にまとっていたのは、幸隆が化学メーカーに巨額の開発費を投じて作らせた『ナイロン(合成繊維)』製の極寒冷地用オーバーコートだった。

史実では1930年代後半にアメリカで発明されたばかりのこの「魔法の糸」を、幸隆の未来知識チートによっていち早く軍事転用し、防風・防水・保温性を極限まで高めた最強の防寒着として全軍に支給したのだ。

「それに、これも最高であります! ポケットに入れておくだけで、ずっと温かいなんて……!」

新兵が嬉しそうに胸ポケットから取り出したのは、手のひらサイズの小さな布袋だった。

「ああ。内地の工場で大量生産された『化学懐炉(使い捨てカイロの原型)』だ。鉄の粉が酸化する時の熱を利用しているらしい。……総理大臣閣下は、俺たち末端の兵隊の指先一つまで、絶対に冷えさせないおつもりのようだ」

極寒の塹壕の中で、日本の兵士たちは誰一人として震えていなかった。

最新の科学素材に包まれ、懐には温かいカイロ。彼らの士気と体力は、マイナス三十度の雪原においても、なんと「100%」のまま維持されていた。

「よし、そろそろ腹ごしらえと行くか! メシ番、例のやつを持ってこい!」

「了解であります!」

メシ番の兵士が運んできたのは、カチカチに凍った乾パンでも、冷え切った握り飯でもなかった。

それは、分厚いアルミ箔のような袋(レトルトパウチの原型)に入れられた食料だった。兵士たちがそれに付属の紐を引っ張ると、袋の底に仕込まれた生石灰と水が化学反応を起こし、シュウゥゥゥッと高温の蒸気を吹き出し始めた。

数分後。

「うおおおおッ!! 今夜は『すき焼き』と『豚汁』だぞ!!」

封を切った瞬間、極寒の塹壕に、醤油と砂糖で煮込まれた牛肉の甘い匂いと、豚肉の脂が溶け出した味噌汁の強烈な香りが立ち込めた。

湯気を立てる熱々の白米の上に、たっぷりとすき焼きを乗せて、兵士たちは夢中でそれをかき込んだ。

「美味い……ッ! はふっ、美味すぎる……!!」

「まさか最前線の塹壕の中で、こんな熱々の肉が食えるなんて……生きててよかった……!」

精神論(大和魂)など必要ない。

兵士の士気を極限まで高めるのは、いつの時代も「温かい環境」と「最高に美味いメシ」なのだ。

「……おい、小隊長殿。前方から、地響きが聞こえます」

すき焼きを平らげ、熱い茶をすすっていた新兵が、スコープ越しに吹雪の向こうを睨んだ。

雪煙を上げて接近してくる、無数の黒い影。

ソ連極東軍の誇る、数千輌の戦車部隊と、三十万の赤軍兵士たちだった。

「来たか、赤いヒグマども。……あの薄着を見る限り、満足な越冬装備も、温かいメシも食わせてもらってないようだな」

小隊長は、最新の防寒着のジッパーを少し下げ、熱くなった体を冷ましながら、哀れむような目でソ連軍を見据えた。

「腹一杯の俺たちが、腹ペコで凍えきった連中に負けるわけがない。……さあ、総理が用意してくれた『おもちゃ(新兵器)』の出番だ。ヒグマどもを、資本主義の火力で解体してやるぞ!」

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― 新着の感想 ―
ココでソ連を゙叩くと間接的にヒトラーを助ける事になる 日独同盟の義理を果たした、と言い逃れできるな
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