EP 5
銃器の解体と尋問
幸隆は、床から拾い上げた黒光りする金属の塊の冷たさを、掌の中で弄んだ。
「ほう……十四年式拳銃か。陸軍将校の私物だな」
仰向けに倒れ、折れた手首を押さえて呻く暗殺者を見下ろしながら、幸隆は手慣れた動作で弾倉を抜き取った。
さらに遊底をスチャリと引き、薬室に装填されていた実包を床に弾き出す。
一切の無駄がない、流れるようなクリアリング(安全確保)の動作。
そのあまりにも堂に入った手つきに、痛みに悶えていたはずの暗殺者は目を剥いた。
「な、なぜ……華族の公爵が、帝國陸軍の銃の扱いを……!?」
「ただの趣味だ。それより、こんな『玩具』で俺を殺せると思ったのか?」
幸隆は鼻で笑い、カチャカチャと手元を見ずに拳銃の分解を始めた。
「いいか、小僧。暗殺ってのは一瞬の隙を突くもんだ。だが、この十四年式は致命的に実戦に向いていない」
幸隆は、トリガーガードの上にあるレバーを指で弾いた。
「この安全装置だ。解除するには、わざわざレバーを180度も回転させなきゃならない。銃を構えた手(右手)の親指だけじゃ絶対に操作できない、欠陥だらけの設計だ」
「ひっ……!?」
「おまけに……」
チャキッ、と小気味良い音を立てて、幸隆は銃の内部から細長い金属部品を引き抜いた。
「この撃針は折れやすい。連射中にこれがポキリと逝けば、ただの重たい鉄屑だ。現に、お前の手入れも甘い。油の匂いでわかるぞ」
バラバラに解体された十四年式拳銃の部品が、無惨にも暗殺者の顔の横にバラバラと放り投げられた。
完全に無力化された愛銃の残骸を見て、暗殺者の目に明確な「恐怖」が浮かぶ。
ひ弱なはずの近衛公爵が、合気道で屈強な軍人をねじ伏せ、さらには最新鋭(当時の感覚では)の軍用拳銃の構造的な弱点までを完全に把握し、冷酷にダメ出しをしてくるのだ。
得体の知れないバケモノを前にして、暗殺者の戦意は完全にへし折られていた。
「さて、講義の時間は終わりだ」
幸隆はしゃがみ込み、暗殺者の胸ぐらをガシッと掴み上げた。
そして、防衛大臣時代に幾度も国難を乗り越えてきた、本物の修羅場をくぐった政治家特有の「殺気」を叩きつける。
「吐け。お前のような下っ端の狂犬を放った、首輪の持ち主は誰だ?」
「ひ、ひぃぃっ……!!」
「軍の総意だの、昭和維新だのという寝言は聞かん。テロの裏には必ず『カネ』と『権力』の筋書きがある。黒幕の名前を言えば、命だけは助けてやる。言わなければ……今度はその逆の手首を、複雑骨折させてやるぞ」
氷のように冷たい三白眼に見つめられ、暗殺者はガチガチと歯の根を鳴らした。
誇り高き青年将校の面影はそこにはない。ただ怯えるだけの子供のように、彼は泣き叫びながら秘密を吐露した。
「ご、郷田だ……! 陸軍省の中枢にいる、皇道派の郷田重吉中将閣下が……公爵を殺せば、自分が実権を握れると……!」
「郷田中将……なるほどな。威勢がいいだけで、裏では軍の機密費を横領して私腹を肥やしていると噂のタヌキおやじか」
幸隆は暗殺者を床に放り捨てると、ゆっくりと立ち上がった。
ワイシャツのシワを払い、部屋の隅で腰を抜かしている秘書官を振り返る。
「おい、いつまで震えている。仕事の時間だぞ」
「は、はいぃッ!? な、なにをすれば……!」
「決まっているだろう」
幸隆は、ニィッと口角を吊り上げた。
「軍に武力でやり返すのは三流のやることだ。俺たち『政治家』の戦い方を見せてやる。大蔵省の息のかかった連中を総動員して、郷田中将の裏帳簿と資金源を徹底的に洗い出せ。……『兵糧攻め』にしてやる」
昭和の帝都に、現代の「最強与党幹事長」による、容赦のない報復のゴングが鳴り響いた。




