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EP 2

偽善者アメリカの武器を奪え――正義という名のプロパガンダ

昭和14年(1939年)秋。

ワシントンD.C.、ホワイトハウス。

「……経済制裁ブロックが、まったく効いていないだと?」

ルーズベルト大統領は、国務長官のハルが読み上げる報告書に、苛立ちを隠せずにいた。

「はい。ヨーロッパ大戦の勃発により、日本は完全に『世界の工場』と化しております。中立を盾に東南アジアや中南米の市場を独占し、我が国からの禁輸措置など意に介さないほどの莫大な外貨を稼ぎ出しています」

「あのフミマロ・コノエという男……どこまで先を読んでいるのだ」

車椅子の怪物は、シガレットホルダーをギリッと噛み締めた。

武力でも、経済でも、あの極東の島国を抑え込めない。ならば、アメリカが伝統的に用いる「最後の最強の武器」を使うしかない。

「ハル長官。……『大義名分モラル』の準備を急げ」

「大義名分、ですか?」

「そうだ。我が国の新聞とラジオを総動員し、大々的なネガティブ・キャンペーンを張るのだ。『日本は非民主的で、人権を持たない野蛮な軍国主義国家である』と。……いずれ我が国が武力行使に踏み切るための、世論という名の『正義の免罪符』を作り上げろ」

   ◆

数日後。東京、首相官邸。

「……というわけで、ワシントンから各国のメディアに向けて、我が国を『野蛮な土人国家』と非難する露骨なプロパガンダが撒き散らされておりますぞ」

外務大臣の吉田茂が、アメリカの英字新聞をデスクに放り投げた。

そこには、大日本帝國を前近代的なファシズム国家として描き、アメリカこそが自由と民主主義の守護者であると声高に謳う社説が並んでいた。

「正義の守護者、ねえ」

幸隆は、ブラックコーヒーをすすりながら、冷ややかに鼻で笑った。

「1930年代のアメリカが、どの口で人権を語るんだ。……あいつらの国じゃ、南部に行けばまだ平気で黒人を隔離(ジム・クロウ法)し、女性の社会的地位も男のオマケ程度だ。そんな『偽善者』どもに、道徳で殴られる筋合いはない」

現代日本で、ポリコレ(政治的妥当性)や人権問題という厄介な「言葉の刃」を嫌というほど浴び、そして利用してきた最強の与党幹事長。

その三白眼が、極悪な、それでいて痛快な輝きを帯びた。

「吉田。アメリカの政治家が一番恐れているものは何だ?」

「はて。強大な軍事力、あるいは経済の暴落ですかな?」

「違う。……『自国民(世論)の支持を失うこと』だ」

幸隆は、デスクの引き出しから、あらかじめ用意していた一枚のファイルを取り出した。

「ルーズベルトが『日本は非民主的だ』と喚くなら……奴らの国よりも遥かに進んだ、完璧で、美しく、誰一人民主主義のケチをつけられない『究極の人権と平等の法案』を世界に向けて発表してやる」

幸隆は、ハイライトの煙をふうっと吐き出した。

「アメリカ国民自身に、『うちの政府ルーズベルトより、日本の方がよっぽど自由で民主的じゃないか!』と熱狂させるんだ。……そうすれば、ルーズベルトは絶対に日本に手を出せなくなる。自国の有権者が許さないからな」

「なるほど! 奴らの『正義という大義名分』を、さらに上位の正義でへし折る(奪い取る)わけですな!」

吉田茂が、悪党全開の笑い声を上げた。

「ですが総理。我々のような小汚いオッサンの政治家が、いかに立派な人権宣言を英語で読み上げたところで、アメリカの世論は『どうせ嘘だ』と疑うでしょう。……誰が、その美しい法案を書くのです?」

「決まっているだろう」

幸隆はニヤリと笑った。

「アメリカの大衆が最も感情移入し、そして、完璧な西洋の知性を持った『最高のゴーストライター』を、すでに手配してある」

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