表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/52

第五章 ルーズベルトの絶望と、世界一の人権・情報大国への飛躍

アメリカの兵糧攻めと「特等席」――死の商人(世界の工場)

昭和14年(1939年)夏。

ルーズベルト大統領が発動した『日米通商航海条約の破棄』の通告は、日本国内の経済界に少なからず動揺を与えていた。

アメリカという巨大市場からの締め出しと、屑鉄や石油などの重要資源に対する輸出制限(兵糧攻め)の気配。それは、超大国が本気で大日本帝國を干し殺そうとする、明白な敵意の表れだった。

「総理。財界の連中が、連日のように陳情に来ております。『アメリカ市場を失えば、我が国の輸出産業は壊滅する。なんとかルーズベルトのご機嫌をとってくれ』と、泣きついてきておりますぞ」

外務大臣の吉田茂が、呆れたように葉巻の灰を落とした。

「放っておけ。温室育ちの財閥どもは、少し風が吹いただけで大騒ぎする」

幸隆は、執務室のソファで退屈そうに新聞をめくっていた。

「アメリカの市場が閉じたなら、他の市場(国)に売ればいい。……それに、もうすぐ世界中の『工場の煙突』が、モノを作るのをやめてしまう時期が来る」

「……と、おっしゃいますと?」

幸隆が短くなったハイライトを灰皿に押し付けた、その数日後だった。

昭和14年9月1日。

歴史の歯車が、最悪の音を立てて回り始めた。

『ナチス・ドイツ軍、ポーランドへ侵攻!』

『イギリス・フランス両国、ドイツへ宣戦布告! 第二次世界大戦勃発!』

号外の鈴の音が帝都を駆け巡り、世界中は恐るべき大戦争の炎に包まれた。

「総理ッ!! ヨーロッパで戦争が始まりました! さらにベルリンのドイツ政府から、我が国へ最高レベルの緊急暗号電報が届いております!!」

結城秘書官が、血相を変えて執務室に飛び込んできた。

吉田茂がその電文をひったくるように受け取り、素早く目を通す。

「……ヒトラーの野郎、完全に血走っておりますな。内容は『協定に基づき、大日本帝國は直ちにイギリスのアジア植民地を攻撃し、背後からソ連を牽制せよ! 我が第三帝国と共に、世界を分割する聖戦に参加せよ』……だそうです」

「聖戦、ね」

幸隆は、ふうっと呆れたようなため息をついた。

「結城。ドイツの外務省へ、直ちに返電を打て」

幸隆の三白眼が、極めて事務的で、冷酷な政治家の光を放つ。

「『我が大日本帝國は、ヨーロッパの紛争において絶対なる不介入(中立)を宣言する。また、帝国議会において全会一致の賛成が得られなかったため、誠に遺憾ながら、貴国への軍事的支援は不可能である』……とな」

「は、ははっ!! 直ちに!!」

第三章で幸隆が仕込んだ、最悪のリーガル・トラップ。

『議会の全会一致がなければ軍事支援はしない(検討する用意があるだけ)』という一文が、ここで完璧な効力を発揮した。

日本は国際法上、一切の義務違反を問われることなく、ヨーロッパの殺し合いから合法的に「完全バックレ」を決めたのだ。

   ◆

Neinナイン! Nein! Nein!! あの極東の詐欺師どもめェェェッ!!」

ドイツの総統地下壕で、ヒトラーが再び発狂して電話機を叩き壊している頃。

日本国内には、幸隆の冷徹な計算通り、空前の「大特需」が舞い込んでいた。

「総理! イギリスやオランダのアジア植民地(東南アジア)から、莫大な物資の発注が殺到しております!」

結城が、山のような発注書の束を抱えて報告に上がる。

「当然だ。ヨーロッパの連中は今、自国の工場で大砲の弾と戦車を作るのに必死で、服や日用品、工作機械なんかを作っている余裕はない。……そこに、ぽっかりと『巨大な需要の穴』が空く」

幸隆は、ホワイトボードに東南アジアと中東の地図を描いた。

「我が国は、第四章の改革(規格化と労働者の待遇改善)で、すでに世界最高水準の『基礎工業力』と『生産ライン』を持っている。……ヨーロッパの奴らが殺し合いをしている間、俺たちは安全な特等席アジアで、世界中に日用品や機械部品を高値で売りさばく『世界の工場』になるんだ」

アメリカ市場を失ったダメージなど、この世界規模の「大戦特需」の前に一瞬で吹き飛んだ。

日本の港からは、連日連夜、満載の貨物船が東南アジア、インド、中南米へと出港していき、代わりに莫大な外貨と資源が日本へと流れ込んできたのだ。

「戦争は最大の無駄遣いだが……他人がやる戦争に『スコップとメシ』を売りつけるのは、最高のビジネスだ」

幸隆は、執務室の窓から、活気に沸く帝都の街並みを見下ろして不敵に笑った。

「ルーズベルトの野郎、今頃ホワイトハウスで頭を抱えているだろうよ。……経済制裁(兵糧攻め)で干し殺すつもりが、逆に我が国が世界中の富を独占し始めているんだからな」

太平洋の向こう側で、車椅子の怪物(FDR)がギリッと奥歯を噛み締める音が、幸隆にははっきりと聞こえていた。

「さあ、武力も経済も通じないとなれば、次は『道徳(大義名分)』で殴りかかってくるのがアメリカの手口だ。……吉田、極上の『役者』を呼んでこい。奴らの大好きな『民主主義』という武器を、真っ向からへし折ってやる」

世界中が血みどろの戦争に突入する中、一発の銃弾も撃たずにボロ儲けを続ける大日本帝國。

最強の与党幹事長による、超大国アメリカの「正義の仮面」を引き剥がすための、次なる一手が打たれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ