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EP 2

「ネジ」が国を滅ぼす――規格化の魔法

昭和12年(1937年)夏。

黒煙の立ち込める三菱のエンジン試験場。

「職人の勘、だと?」

近衛総理(若林幸隆)は、油まみれの床に散らばった無残なエンジンの残骸を一瞥し、鼻で笑った。

「堀越。お前は今の日本の『町工場』の実態を知っているか? 親方が『ヨシ』と言えば、図面と一ミリ違っていても納品される。ネジの山一つ、ボルトの太さ一つとっても、A工場とB工場でまったく違うサイズが出来上がるんだ」

「……はい。我々設計側も、部品のバラつきには頭を抱えております。組み立ての際に、ヤスリで削って無理やり現物合わせをしている有様で……」

天才設計者の堀越二郎が、悔しそうに唇を噛む。

「そんな『手作業の現物合わせ』で作ったエンジンが、高度一万メートル、時速六百キロの極限状態に耐えられるわけがないだろうが」

幸隆は、呆然とする山本五十六と堀越に向かって、冷酷な事実を突きつけた。

「いいか。工業力とは、一部の天才が描く図面じゃない。末端の工場が、いかに『均一で誤差のない部品』を大量生産できるかだ。……たった一本の粗悪なネジが、国家の命運を分ける兵器を空中でバラバラにするんだよ」

幸隆は、懐から一枚の分厚い命令書を取り出した。

「今日から、大日本帝國におけるすべての工業部品の規格を完全に統一する。『帝國標準規格(のちのJIS)』の制定だ。ネジのピッチから鉄の配合率まで、国が定めた『ミクロン単位の基準』を満たさない部品は、今後一切軍に納入させん」

「なっ……! そ、総理、それは無茶です! 今の日本の町工場にある古い旋盤機では、そんな精密な加工は不可能です!」

山本が慌てて口を挟むが、幸隆はすでに先を読んでいた。

「だから、配るんだよ」

幸隆はニヤリと、極悪な、それでいて底知れぬ頼もしさを感じさせる笑みを浮かべた。

「ドイツから引っぱってきた、クルップ社製の最新鋭工作機械。あれを財閥の巨大工場だけでなく、下請けの町工場にまで国費で惜しみなくばら撒け。……職人の『勘』なんか捨てろ。最高の『機械』と『規格』で、素人でも完璧な部品が作れるシステムを構築するんだ」

現代日本のモノづくりの強さの源泉、「徹底した規格化と工作機械のボトムアップ」。

それを一国の総理大臣が強権を発動して推し進めるという、前代未聞の列島改造計画。

「これで、最高の『鉛筆(部品)』は揃う。……あとは、お前の図面を完璧に読み解き、この気難しいドイツのエンジンを組み上げられる『狂った天才』が必要だな」

幸隆がそう言い放った直後、試験場の入り口から、けたたましいバイクの排気音が鳴り響いた。

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