EP 6
血塗られた合気道――暴威の覚醒
「逆賊・近衛文麿ォォッ!! 天誅ゥゥッ!!」
重厚な執務室のオーク扉が蹴り破られ、血走った目をした海軍の青年将校と右翼テロリストたちが、軍刀を上段に構えて突入してきた。
「総理ッ!!」
結城が身を挺して庇おうとするが、幸隆はそれを手で制し、無造作に一歩前へ出た。
「死ねェェッ!!」
先頭の将校が、幸隆の脳天に向かって軍刀を振り下ろす。
一閃。
誰もが、総理大臣の頭が唐竹割りにされると思った瞬間だった。
スルリ、と。
幸隆の巨体が、あり得ないほどの滑らかさで刃の軌道から半歩ズレた。
同時に、振り下ろされた将校の右腕を、幸隆の両手がふわりと包み込む。
「なっ……!?」
次の瞬間、幸隆は相手の突進する『力』を一切殺すことなく、自らの円運動に乗せてさらに加速させた。
実戦合気道――『小手返し』。
だが、それは演武のような美しいものではない。関節の可動域を完全に無視した、人体を破壊するための殺人術。
メキバキィィッ!!
「ギャアアアアァァッ!?」
将校の手首と肘の関節が、あり得ない方向にへし折れた。
苦悶の悲鳴を上げて床に崩れ落ちる将校の手から、宙を舞った軍刀と南部十四年式拳銃。幸隆は、落ちてきたその拳銃を空中で極めて自然にキャッチすると、安全装置を親指で弾き飛ばした。
「一人」
タァァァンッ!!
振り返りざまの一撃。後続のテロリストの膝の皿が、正確に撃ち抜かれる。
「ひっ!? 銃、総理が銃を……撃て! 撃ち殺せッ!!」
パニックに陥ったテロリストたちが、無差別に引き金を引こうとする。
だが、幸隆の動きは、現代の特殊部隊のCQC(近接格闘術)そのものだった。
射線の死角へ滑り込むように移動しながら、二人目の腕を掴んで『四方投げ』で脳天から床に叩きつける。
三人目の顎を、持っていた拳銃のグリップで容赦なく砕き割る。
四人目の構えた銃身を素手で払いのけながら、至近距離から腹部に鉛玉を2発撃ち込む。
「ガッ……! アガッ……!?」
ものの数秒。
執務室に突入してきた先遣隊の5人が、一人残らず床に転がり、血溜まりの中でうめき声を上げていた。
「ば、馬鹿な……公爵閣下が……素手で……」
結城秘書官は、腰を抜かしたまま、目の前の凄惨な光景に震え上がった。
吉田茂もまた、くわえていた葉巻を落とし、あんぐりと口を開けている。
返り血を浴びた白いワイシャツ姿の幸隆は、足元でうめくテロリストの頭を革靴で冷酷に踏みつけながら、奪った拳銃の弾倉を確認した。
「おい、どうした。大和魂とやらはそんなもんか。まだ一階に二十匹くらい残っているだろう。かかってこい」
血の滴る拳銃を提げ、廊下の奥の暗闇に向かって低い声で挑発する一国の総理大臣。
その常軌を逸した圧倒的な暴力と、悪魔のようなプレッシャーの前に、廊下で待機していた後続の暗殺者たちは、恐怖で完全に足がすくみ、一歩も前に出ることができなかった。
「……来ないなら、こちらから行くぞ。結城、吉田。ここは絶対に動くな」
幸隆は、床に転がっていたもう一丁の拳銃を拾い上げると、両手に殺意を携えて、暗闇の廊下へと静かに歩みを進めていった。
最強の与党幹事長にして、元・防衛大臣。
その知略の奥底に封印されていた「絶対的な暴力(オスとしての強さ)」が、昭和のテロリストたちを血の海に沈めていく。




